山小屋の仕事の基本は「宿泊業」。+αの違いは、環境の違い
▲穂高岳山荘の若女将(修行中)として活躍する今田恵さん。シーズン中は標高約3,000mの世界で腕をふるう
――山小屋での仕事とは、実際にはどんなものになりますか?
山小屋は基本的には宿泊業です。お客様を迎え、ご案内して、食事やお弁当を出すことが主な業務です。また、客室の片付けや掃除も大切な仕事です。
ただ、来る人が基本的にすべて登山者なので、街の旅館とは接し方が多少、変わってくるかもしれません。山小屋が不便な場所というのをわかってきているお客さんしか来ないので、必然的に皆さんいいお客様ばかりですよ。
ただし、お客さんは、すごく疲れている人が多いので、その点ではくつろいでいただけるようには気をつかいますね。
――山小屋独特の仕事もあると思いますが、どんなことがありますか?
山小屋のある場所は、すごく標高が高くて街とは環境が全然違う場所です。普通は業者の方がやることでも、すぐに来られないので自分たちで行うのが大きな違いです。とくに設備面は自分たちでやりくりしていかなければなりません。
例えば、水道管の工事をしたり、壁板をつけたりする作業も自分たちでやります。電気は自家発電なので、そういった設備の点検・保守も行っています。それと、ヘリコプターによる物資の輸送のときには、荷を解いてそれぞれの場所にしまうなど、力仕事もあります。
小屋内部以外にも、登山道の整備などの山小屋周辺の整備の仕事もあります。
▲海の日の穂高岳山荘前の賑わい。たくさんのお客が泊まれば、当然、アルバイトも大忙しとなる。
写真提供:穂高岳山荘
――勤務時間については、どんなタイムスケジュールになりますか?
夏の一番忙しい時は、早番の人は4時から起きて、朝食の準備を始めます。普通の人は5時に起床です。
朝の業務が終われば朝食を取ってしばらく休憩。8時頃から掃除やフロントや売店・喫茶など、それぞれの業務を行います。お客さんの夕食は5時からなので、その準備が4時くらいから始まって、その片付けが終われば1日の業務は終了です。消灯は9時になります。
その間に昼食休憩が1回、お茶休憩が2回、早番の人は午前か午後に早番休憩があります。基本的に休憩はしっかり取ってもらっています。山小屋の仕事は力仕事も多いし、空気も薄い場所なので、スタッフの時間は大切にしています。
――仕事中は忙しいほうだと思いますか?
暇ではないし、1日の拘束時間も長いかもしれません。お客さんが多い時期は掃除や売店や食事の用意・片付けでいっぱいいっぱいになると思います。お客さんが少ない時期でも、小屋の内外での作業がいろいろあって暇ではないと思います。
――仕事の中で、いちばんキツいことといえば何になりますか?
朝が早い、毎日早起きしなければならない、というのが一番キツいと思います。消灯時間に寝てしまえば睡眠時間は十分なのですが、それでも朝が早いのは大変かもしれません。夜遅くまで起きていると、当然次の日は辛いです。
あと、お客さんがとてもたくさん泊まる日が年に数回あり、このときはキツイと思います。穂高岳山荘は定員約300人、夏の週末などはほぼ満員になり、食事は「3回転、4回転」とかになるので(食堂も満室になって3~4回入れ替えを行う)、「食器洗いが全然終わらない」ということもあります。
――スタッフの休憩・休暇の過ごし方は、どんな感じですか?
長期の人は、夏の繁忙期が一段落すると交代で数日から一週間の休暇をとり、山を降りてリフレッシュしています。
休憩時間の使い方はさまざまですが、昼寝している人もいれば、絵を描いたり写真を撮ったりと色々活動している人もいます。穂高岳山荘では、朝の休憩中に涸沢岳に登るスタッフは多く、毎日登っている人もいます。奥穂高岳山頂までも、ほぼ全てのスタッフが期間中に一度は登っています。