映画『クレイジー・フォー・マウンテン』ジェニファー・ピードン監督インタビュー。「臨場感をぜひ体感してほしい」
世界の名峰に挑む登山家・アスリートに迫ったドキュメンタリー映画「クレイジー・フォー・マウンテン」が7月21日から公開される。これに先立ち、ジェニファー・ピードン監督と、本作の音楽担当リチャード・トネッティ率いるオーストラリア室内管弦楽団が5月末日に来日し、都内で特別試写会が行われた。
その際、ジェニファー・ピードン監督が「ヤマケイオンライン」のインタビューに答えてくれたのでお伝えしたい。映画のテーマである「生きていることを実感」した体験、日本の登山愛好家や、「ヤマケイオンライン」ユーザーへのメッセージなど、あらためて話を聞いた。
− 山に関する映画は過酷な挑戦を描くものが多いですが、『クレイジー・フォー・マウンテン』は情緒的で繊細な印象を受けました。
この『クレイジー・フォー・マウンテン』の制作にあたって、いままでにあった山岳映画とは違う視点で山を描けたと思っているわ。私は若い頃から山で撮影の仕事をしてきたけど、撮影クルーの中で女性が私一人だったことも多かったの。最近は女性のクライマーや登山家が多くなってきたけれど、今でも山の世界は男性のほうが多い。だから、山に関する映画も男性的な視点で描かれている作品が多いの。そんな中で、『クレイジー・フォー・マウンテン』は、「山」を、また「山」と「人」との関係を、女性ならではの視点で描けたのではないかと思っているわ。
− ヴィヴァルディの『四季』など、クラシックの楽曲が作中で使われているのも、他の山岳映画とは違ったアプローチに感じます。
もともとオーストラリア室内管弦楽団とコラボして制作することが決まっていたから、普通の映画とは違うものになると思っていたわ。これは映画だけでなく、オーストラリア室内管弦楽団のツアーでも使われるから、映像作品としても成立しなきゃいけないの。音楽が映像を導いていく、そんな一面も作品に持たせるようにしたの。
―作中に北海道の「羊蹄山」がでてきますが、日本の山に登ったことはありますか?
日本の山は登ったことがないの。撮影では羊蹄山に行ったのだけど、登山はしていないので、登ってみたいわ。
でも、ニセコでスキーはしたことがある。食べ物もおいしくて、なんといっても雪の質が良い。オーストラリアにはあまり山がなく、あっても低い山で雪山ではないの。
私たちオーストラリアに住む多くの人は、日本の食べ物であったり、日本文化を好んでいるから、家族旅行にも最適な場所。そこでスキーをしながら異文化も楽しむことができてとても良いわ。欧米に行くのと比べて、オーストラリアからは近くて行きやすいのも人気の理由ね。
―山での撮影は過酷な状況が多いかと思いますが、撮影時に使っている道具についても聞かせてください。
ニュージーランドのブランド、アイスブレーカーの登山服が気に入っているわ。臭くならなくて、シャワーを浴びれない長期の登山でも快適に過ごせるから。重ね着がしやすく、天然素材という点も気に入っているの。
アイテムとしては、手袋が必需品。カメラをいじったり、細かい作業が必要なので、そういった作業のできる特別な手袋が必要。バックパックは、マックパックのものを使っているわ。
―映画のテーマに「生きていることを実感する。だから人は山に夢中になる」とありますが、監督自身が生きていることを実感した出来事はありますか?
友人とアスパイアリング山に登山へ行ったのだけど、その下山途中に視界もなくなる程の嵐にあって。普段と違うルートでの下山を余儀なくされて、頑張って下ったのだけど、なかなかテント場まで戻れなくて恐怖を感じたわ。逆に、テントまでたどり着いた時は、安心し、生きていることを実感したの。
もうひとつは、2006年にエベレストに行ったとき。みんなが頂上にいる時に自分一人だけキャンプ4にいたの。それだけ高いところに一人きりでいたときに、自分は生きていて、すごく美しい世界にいるなと実感したわ。
※アスパイアリング山:ニュージーランドの南アルプス山脈に連なる山の一つ。標高は3,033m。
―最後に日本の登山ファンに向けてに、見逃さないでほしいシーンを教えてください。
ヒマラヤのシーン。ヒマラヤは高度の問題で、上のエリアはヘリコプターも飛ばせないし、ドローンも使えないの。だから、登山家たちがヘルメットにカメラを付けて撮影したのよ。臨場感がたっぷりで、ぜひそれを体感してほしいわ。
今までの山岳映画とは違った視点を持った女性監督・ジェニファー・ピードンが描いた山岳映画。クラシックの名曲と圧倒的で美しい映像のコラボレーションを、ぜひお楽しみください。
■映画「クレイジー・フォー・マウンテン」概要
製作・監督:ジェニファー・ピードン
音楽:リチャード・トネッティ
撮影:レナン・オズターク
ナレーション:ウィレム・デフォー
後援:オーストラリア大使館
協力:The North Face
配給:アンプラグド
制作:2017年/オーストラリア/英語
上映時間:74分
7月21日(土)より新宿武蔵野館・シネクイントほか全国順次公開
■映画公式サイト
http://crazy4mountain.com