スノーシューで上質な雪があるコースを歩きたい。そう思い立ったものの、一緒に行く幼なじみの理恵と優子は山登り初心者。私も雪山経験が浅いから、コースは危険箇所が少ないことが絶対条件。
そこで選んだのが、奥羽山脈のひとつ蔵王山。蔵王山岳インストラクターの會田茂雄さんにも同行してもらい、女三人のスノーシュートレッキングは幕を開けた。
今回のコースは、ロープウェイの終点、地蔵山駅から歩き始め、名所であるお釜を眺めてから熊野岳に登る。ガイドの會田さんによると、熊野岳までの尾根は風で雪が飛ばされ、ふかふかの雪は期待できないそうだが、下山コースではパウダーシャワーが浴びられるほどの深雪が待っているとか。そこを歩く自分を想像するだけでよだれが出そうだ。
ロープウェイを乗り継ぎ、地蔵駅に到着すると勢いよく風が吹いてきた。この風の運ぶ雪がアオモリトドマツに着氷して樹氷が育つ。最初のピーク、地蔵山まではその林のなかを登る。
1メートル先も見えないほど視界の悪い日がシーズンの半分以上を占める地蔵山で、幸運にも遠く鳥海山までが丸見え! 取材前に雨が降って樹氷がすべて落ちてしまったのは残念だが、この景色が見られたのだから、まぁ、よしとしよう。
歩き出して10分もすると、優子はスキップするように歩き始め、隣の理恵もにやにやしている。そんなふたりを見ているうちに、私の緊張もほぐれていった。
ほどなく地蔵山を過ぎ、次に目指すはお釜だ、夏場に何度も歩いた道でも雪をかぶったら、まったくの異世界。あたりは太陽の光で雪がキラキラと輝き、空は抜けるように青い。
眼下に蔵王名物のひとつ「お釜」。遠く蔵王の山並みが広がる
エメラルドグリーンのお釜が真っ白に雪化粧されているのを見るころには、さらに深い異世界に入り込んだように感じられた。自然と大きくなる笑い声と雪を踏む音だけが静寂のなかに響いていた。
いよいよ蔵王の最高峰1841メートルの熊野岳へ。雪がとけて氷になっている斜面で腰が引けている優子と理恵を茶化しながら山頂へと進む。
「やった! 山頂だ」 理恵が叫ぶ。山頂には景色をさえぎるものがなにもなく、すべてが私たちのものに。理恵が見つけたのは熊野神社だ。ふだんなら見上げる高さにある神社の屋根も雪山では167センチの私の手が届くほど。ということは、山頂も少し標高が高くなっているのかも・・・。
蔵王上空には青空が広がり、熊野岳の山頂からはまさに絶景!
熊野岳から再び、地蔵岳の山頂まで戻ってきた。ここからユートピアゲレンデまでは、ふかふかのパウダーコース!
待ってましたと言わんがばかりに、前のめりになる私たちを制するのは會田さん。それもそのはず、地蔵山からの下り始めはビックリするほどの急斜面。しかも、積雪が少なくて氷が見えている、さっきまでのウキウキ気分は一転、慎重に一歩一歩踏み出していく。
斜面がだんだん緩くなってくると、だんだんふわっとした雪になる。
「ひゃー、転んでも全然、痛くない」
顔を雪まみれにしても、おかまいなしに理恵が大口をあけて笑う。最初は一列になって歩いていたけれど、パウダーを味わいたくて前の人のトレースを避けて歩く。脚をあげるたびに舞い上がる粉雪を全身に浴びながら、ニンマリ顔が止まらない。夢中で駆け下りる姿を見ると、ふたりも同じ気持のようだ。
おなかいっぱいにパウダーを味わってたどり着いたのは、いろは沼。そこは誰にも踏まれていない深雪が一面に広がる。パウダーでおなかいっぱいだった私たちが「デザートは別腹よ」と女子の得意文句を言い放ち、走り回っていた。
「もう下ってきちゃったなんて、もったいないね」
帰りのロープウェイの中で、ちょっとさびしそうにつぶやく理恵。それを聞いた優子は、「こんな楽しみを知っていたのなら、もっと早く教えて欲しかったよ」と、私に向かって口をとがらせる。
ふと笑いがこみ上げた。ふたりとも満足してくれているのは間違いない。今日一日を細かく振り返ると、ふたりが笑っていない瞬間がどこにも見当たらないのだから。
取材/2009年3月13日
※本記事は、月刊『山と溪谷』2010年2月号に掲載されたものを再編集したものです
激しいアップダウンがなく、雪山入門に向くコース。ただし、お釜までは尾根沿いで風をさえぎるものがなく、天候が悪いときはとくに注意が必要。
初心者はガイドまたは、経験者の同行で挑みたい。また、好天でも山頂付近は風が強いことが多い。防寒対策は十分に。
出発点のロープウェイ地蔵駅から地蔵山までは樹氷の間を登る。樹氷の見頃は1月~2月下旬まで。
地蔵山からお釜が見える避難小屋周辺まではスノーシューがなくても歩けることが多い。熊野岳周辺は少し急な斜面で積雪が少なく、凍っていることもあるので慎重に。
地蔵山からの下りは、ゆるやかな斜面からパウダーコース。斜面を降りるといろは沼に出る。
樹氷原高原駅まではスキー場のゲレンデを下る。スキーヤーなどの滑走者には注意。コース外の林の中は新雪が残っているところが多く、パウダーを楽しめる可能性もある。
※ 地図上のトレースは目安です。















































