駆け上る大倉尾根で登高スピードを計る セイコー/プロスペックス アルピニスト[セイコーウオッチ]

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今月のPICK UP セイコー/プロスペックス アルピニスト [セイコーウオッチ]

高度(気圧)、方位、温度の計測に加えて登山データも記録できる登山ウオッチ

価格:26,000円+税 / 動方式:ソーラー
防水:日常生活用強化防水(10気圧)
サイズ:縦52mm×横44.8mm×厚さ12.7mm / 重さ:52g
機能:アラーム、ストップウオッチ、ワールドタイム(35都市+7大陸最高峰+富士山)、フルオートカレンダー、気圧計測、温度計測、高度計測、方位計測機能、登山データ記録機能、パネライト
カラー:3色+限定色

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スリムな登山ウォッチ

僕は丹沢の山々にはあまり登ったことがない。山に魅力を感じないから……、というわけではない。その理由はズバリ、山中にテント場がほとんどないからである。山中での野営を愛する僕にとって、テント泊で縦走できない山域には興味を持ちにくいのだ。

だが塔ノ岳に至る尾根の上には、丹沢唯一の“歩いてしか行けない”テント場「大倉高原山の家」のキャンプ地があるではないか。ひさびさに泊まってみよう。
僕はそこにテントを張って一夜を明かすと、翌日に塔ノ岳の山頂へと歩き始めた。腕には「プロスペックス アルピニスト」。セイコーが満を持して発表した腕時計である。

他メーカーの登山向け時計に比べ、かなり細身で華奢な印象。それだからこそ、腕につけたときに邪魔にならないわけである

腕につけてみた途端、このモデルは僕がこれまでのアウトドア用腕時計に感じていた不満をすでに解消していることに気付いた。手首を曲げてもフェイスの横のボタンに肌が触れないのだ!

フェイスも小さいため、手首を曲げても手の甲には触れない。ただそれだけのことだが、僕が他の時計で感じていた不満が一気に解消

僕が持っているいくつかのアウトドア用腕時計は、どれも手首を曲げると何かの拍子に手の甲でボタンが押され、そのときに必要ではない表示に変わってしまう面倒な事態が多発していた。それどころか、ものによっては誤作動を起こすこともあったのである。

いいじゃん、この腕時計!! あとは内部の機能をチェックしていこう。

 

登高スピードをチェックしながら登る

テントは張ったままゆえ、今回は日帰り登山の装備。いつものテント泊スタイルに比べると格段に荷物は軽い。ぐんぐんと大倉尾根を進んでいける。天気はいまひとつだが、その代わりに暑くはないのだとプラス思考で標高を上げていく。周囲を木々で囲まれた森の道は、視界が開けなくても新緑が充分に美しい。登山道は歩きやすく、緊張せずに楽しめるのもうれしい。

いいじゃん、丹沢!! さて、山頂ではよい景色を味わえるかな。

僕は歩き始めてからほぼ1時間ごとに、ある数値をチェックしていた。それはこの腕時計独自の機能「登高スピード」だ。これは1時間当たり、どのくらいの標高を稼ぐペースで歩いているのかを表している。単位でいえば「m/h」だ。この機能を活用すれば、「登高スピードが300m/hで、今は標高700m。このペースであれば、1時間後にはさらに300m登って、標高1000m地点に到達しているだろう」などと、自分のペースによって現場で登山計画を立案・修正しやすくなる。使い続ければ自分の脚力が把握でき、これから登る予定の山をどれほどのスピードで歩けるかも予想できるのだ。

フェイスのいちばん上に表示されているのが「登高スピード」。このときは1時間で520mも標高を稼いで歩いていた

あるときの僕の登高スピードは「320m/h」。これを目安にすれば、次の1時間でさらに300m前後は標高を上げることができそうである。

だが約1時間後に時計を確認すると、今度は「520m/h」。登高スピードがかなり上がっている。つまり今のペースを維持すれば、次の1時間でさらに500m前後も登れるペースだということだ。先ほどの320mよりもだいぶ速い。おそらく傾斜がきつくなったのに、体力任せでひょいひょいと登ってしまったため、このような結果になったのだろう。

日常生活強化防水(10気圧)。この「強化」という言葉がうれしい。水がかかっても問題なし

実際、気を抜いて歩いていると、登高スピードは格段にさがる。この機能を使いこなすには体力と気持ちにむらのない状態で使ったほうがよさそうだ。しかし、この表示はなかなかおもしろい。見ているだけで飽きないのだ。そういえば、先ほどトレイルランナーが僕を抜き去っていったが、あのような人がこの腕時計をつけたら、どれほどの登高スピードをたたき出すのだろう?

バンドの末端は固定でき、使用中にずれることはない。外すときは写真のように左右をつまむのだが、これは少々面倒にも感じる

森の香りを楽しみ、登高スピードに何度も目を向けているうちに、塔ノ岳山頂に到着。残念ながら周囲の景色はガスと雲のなかにほとんど隠れている。ああ、山頂からの景色を楽しみにしていたのに。

濃厚なガスが漂う塔ノ岳の山頂で記念撮影。地図上では「塔ノ岳」だが、山頂碑では「塔の岳」となっているとは知らなかった

行動食のパンなぞを口に放り込みながら、待つこと約1時間。それでも雲は切れず、いまだよい景色は現れない。どこにあるんだ、太平洋の海原は? どこにいった、他の丹沢の山々は? それと、富士山も!

だが、天気はむしろ悪化傾向。もう下山するしかない。

歩き始めると同時に、なにやら微細な水滴が顔に当たる。ああ、やっぱり雨か。15分もすると本降りになり、周囲の人はレインウェアを着始める。だが駐車場に置いてきたクルマに戻れば着替えはあると、僕は初夏の雨に濡れるのを楽しむことにした。汗かきの僕はレインウェアを着ても、どうせ内部のウェアは汗でたっぷり濡れるのだ。気温が高いこの時期、着替えがあり、あとは帰宅するだけならば、濡れるのを恐れることはない。

海外でも色違いを使ってみた。「DEN」とはアメリカのコロラド州デンバーのこと。ボタンを押すだけで表示が変わるので便利だ。しかもサマータイムもワンタッチで表示される

森のなかを進み、髪の毛から滴ってくる雨水を手でぬぐいながら、僕は気付いた。水に濡れた土は色濃くなり、新緑はますます新鮮な色合いを増している。登りのときよりも周囲の景色は格段に美しい。5月の連休あたりまで雪の山にばかりに行っていた僕は、雨に濡れた山のよさを忘れかけていたのである。

今は梅雨の真っ最中だ。だが、あのような彩りのある山を感じられるなら、雨も悪くない。

(写真=加戸昭太郎)

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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