高橋庄太郎の山mono語り

原始の石狩岳で最新ソロテントを徹底テスト 2015年8月

今月のピックアップアイテム

ヒルバーグ/エナン [A&F]

価格:8万4000円+税
寝人数:1人
最小重量(総重量):870g(1.1kg)
カラー:グリーン、レッド
付属品:アルミポール1本、ペグ8本、スタッフバッグ、ポールバッグ、ペグバッグ、スペアポールセクション、リペアスリーブ


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誰もいない恐怖(?)のブヨ沼キャンプ指定地で幕営

毎年通っている北海道。山道具を満載したクルマで苫小牧に上陸した僕は樽前山に登ると、次に石狩岳へと向かった。何度も歩いた大雪山系の山々のうち、まだ残されていた山頂のひとつだ。山頂からは北進し、音更山からキャンプ予定地に下っていく計画である。

登山口での車中泊で朝を迎えると、東側山麓のシュナイダーコースから登り始めた。南にはニペソツ岳。来年あたりに登ってやろうともくろんでいる山だ。

まるで槍ヶ岳のような天を突き刺す姿が印象的である。石狩岳から登山道が続いていれば、一気に今回歩いてしまいたいところだ。残念ながら独立してそびえているのであった。

突然ヒグマが現れそうな渓流沿いの深い樹林帯を抜け、急登が連続する道を進み、標高1000m近くを一気に稼ぐ。そして石狩の肩と呼ばれる稜線上の鞍部へ。

ここまで来てしまえば、石狩岳山頂はあと1時間程度の至近距離だ。

というわけで、山頂へ。テント泊の重い荷物を背負っていたが、思いのほか楽だった。

山頂には年配の男性が2組3名。どちらも日帰りとのことで、僕が山中で1泊すると話すと「わざわざ重い荷物で、よくやるねえ。今から下山して民宿で風呂に入り、おいしいものを食べたほうがいいでしょ?」。「いやいや、僕は静かな山中でテント泊をしたいから、これでいいんですよ」などとたわいもない会話をした。

山頂からは大雪山系の中心となる山々が見渡せた。緑の山々の上に残雪で描かれた模様がなんとも美しい。

北には一昨年前に歩いた大雪山、南には昨年歩いた十勝岳、そしてそのあいだには両年ともに山頂まで行ったトムラウシ山。石狩岳の山頂はすばらしい展望地なのである。大雪山系とは正確にいえば「石狩山地」であり、石狩岳は名称からいっても、この山域を代表する山ともいえるだろう。

その後、音更山へ。

雲に厚みが増してきて、いかにも一雨きそうな雰囲気だ。しかし、それでいい。今回の山行は新作のテントをテストするために、悪天候を期待していた面もないわけではないのである。

音更山から南側に標高を下げていくと、この日の宿泊地に到着。キャンプ指定地の名は「ブヨ沼」といい、実際にブヨ(ブユ)や蚊が非常に多いという。

テントの設営前から気が重くなるが、幸いなことに強い風が吹いていたために虫はどこかに消え、嫌な思いはしないで済んだ。

結露防止ための構造が売りの3シーズンテント

今回持参してきたテントは、北欧スウェーデンのメーカー、ヒルバーグの新作「エナン」だ。中央部にメインポール1本を使い、さらに両端につけられた30センチほどの短い棒のようなパーツ2本とともに立体化させるタイプで、設営には確実にペグを打たねばならない。いわゆる非自立型だが、最小重量はわずか870gである。

上はテント内部の写真で、フライシートとインナーテントの連結部。ヒルバーグ社の多くのテントは、インナーテントをフライシートに吊り下げる方式をとっており、このエナンも同様だ。フライシートのスリーブにポールを通すだけでインナーテントも持ち上がり、設営はとても簡単に行なえる。

エナンは1人用で内部スペースは縦215cm、横は中央部が95cm、両端が60cmとなっている。

マットを敷き、すべてのテント泊装備をなかに広げても、充分なスペースがあるのがうれしい。中央部には2つに仕切られた小さなポケットもつけられている。

出入り口のパネルは、メッシュ製である。

通気性が高く、暑い時期も内部が蒸れにくい構造だ。ヒルバーグには以前から「アクト」という定番モデルがあり、このエナンと構造やサイズ感が非常に似ている。だがアクトは4シーズン用モデルで、雨や雪が吹き込みにくい形状とはいえ、夏場は内部が蒸れて大量の結露を生みだすという問題があった。だがエナンは冬季以外の3シーズンを想定しているため、出入り口もメッシュになっているというわけなのである。

もうひとつ、3シーズン用としてのエナンの工夫が、両端に付けられたベンチレーターだ。

内部から見た状態が上の写真。天候に合わせて開け閉めして使用できるようになっており、左はベンチレーターが開かれ、右では閉じられている。

同様に外部から同じ部分を見たものが、下の写真。

左はベンチレーターを開放した様子で、右は閉じて空気の流れを遮断している状態だ。閉じてしまえばフライシートが地面すれすれまで覆い、風雨を内部に吹きこませない。こうなると見た目は4シーズンモデルに近く、少々の降雪にも耐えられるだろう。

設営時は雨が降っていなかったので、ベンチレーターは開け放しておいた。その際、ベンチレーターのパネル部分は、丸めて上のポケットに入れるだけだ。

生地がツルツルしているので小さなポケットからははみ出しやすいが、シンプルな仕組みで好感がもてる。

ちなみに、フライシートの出入り口のファスナーは引き手が2つ付いたダブルタイプ。

出入り口の上部のみ解放すればこの部分もベンチレーターとして機能し、換気性をますます向上させる。

天気予報では夕方から雨が降るらしい。僕はその前に沢に下り、水を汲んで浄水器にかけておく。それから登山道を少しだけ引き返して、キャンプ地の様子を写真に収めておいた。

上の写真の中央付近に小さく写っている赤いものが、今回のエナンだ。この日のブヨ沼キャンプ指定地には他の人がおらず、僕の独占状態。トイレもなく、水場は遠く、害虫も多いと非常にワイルドで、ヒグマも出没する。そんな不便さや危険性があるからこそ、原始性を帯びた北海道の山はすばらしいのだ。

夜な夜なベンチレーションをチェックするひとりの夜

その日の夜、とうとう雨が降ってきた。風も強さを増し、テントも大きくたわんでいる。このままでは雨が吹き込んでしまうと、僕はベンチレーターを閉めることにした。

テント内部にいながらフライシートとインナーテントのあいだのスペースに手を伸ばし、ベンチレーターのパネルを広げていく。わざわざ雨のなかを外に出て作業しなくてよいので便利だ。だがパネルを固定するためにはトグルで留める必要があり、それだけは少々面倒だった。トグルが小さいために、片手ではなかなかうまくはまらないのである。これは改善してもらいたい点だ。

ベンチレーターを閉じたまま就寝。強い雨と風にもかかわらず、テントの至近距離には何頭ものエゾシカが出没し、地響きを立てるような足音がとても気になる。その気配で目を覚まし、テントの状態を確認してみる。

出入り口のメッシュパネルにはフライシートの結露が降り注ぎ、若干水で濡れている。ベンチレーターを閉めるまでは結露の量はわずかだったことを考えれば、好天時の通気性、換気性は充分だった。だがいくら3シーズン用テントといえども、エナンの構造でベンチレーターを閉めてしまえば結露が起きても仕方ない。その代わり、不快になるほどの風雨の浸入はしっかりと遮断されているといえるだろう。

真夜中に再び起きると、強風が相変わらずテントをあおっているが、雨は止んでいた。メッシュパネル越しに移ってきた結露でテントは少々湿っているとはいえ、それほど気になるほどではない。

フライシートの防水性も申し分ない。素材はケルロンという特殊加工を施した化学繊維で、他の多くのテントとは異なり、ポリウレタンによる防水コーティングを省いても耐水性が非常に高い。そのために少々高価にはなるが、加水分解によるコーティングの経年劣化が生じず、数十年も連続して使えるという。実際、僕も同素材を使ったヒルバーグ社の他のテントを以前から愛用しているが、いまだ劣化した気配はない。とはいえ、軽量化を重視したエナンにはケルロン600という超薄手タイプなので、取り扱いには注意すべきだ。

空を見れば、星も出ている。もう雨は降らないだろうと、改めてベンチレーターを開け放しておく。閉めたままでは体温によって温かなテント内部と、涼しい外気との温度差で結露がますます進むが、これだけ風が強ければ反対に内部の結露が蒸発していくことすら期待できるからだ。

実際、翌朝のテント内部の快適性は向上していた。フライシートの結露は完全には乾燥しないまでも大きく減少している。強風下という乾燥を促進させるためには好条件だったが、たとえ無風でも効果はあるだろう。これまでの4シーズン用テントを中心としたヒルバーグの「3シーズン用」新作として、エナンは充分な機能性を発揮してくれたように思う。

テントを撤収していると、天気は再び悪化し始め、空は薄曇りだ。ブヨ沼を出ると強風が吹き荒れ、気を抜いていると体がよろけるほどである。

ルート上から往復しようと思っていたユニ石狩岳は眺めるだけにとどめ、下山を進めることにした。
さて、このエナン、次はどこで使ってみようか? じつはこのテント、私物として購入してしまったのだ。あとは条件を変えて、何度も試してみれば、真の実力がわかるだろう。

今月の山石狩岳いしかりだけ

石狩岳
山域
石狩山地
都道府県
北海道
標高
1,967m
2万5千図
石狩岳
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山行記録
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高橋庄太郎

(写真:小山幸彦)

山岳 / アウトドアライター 高橋庄太郎 です。

宮城県仙台市出身。ひたすらに山、海、川に行き、山岳/アウトドア専門誌などで原稿を書いています。 特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。自然とは「旅をする場所」だと思っている僕のこだわりは、できるだけ日帰りではなく、1泊だけでもテントで眠る、ということです。

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