奥秩父で”オニ”をチェック! ライペン/オニドーム1[アライテント]

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今月のPICK UP ライペン/オニドーム1 [アライテント]

価格:4万3000円+税(1人用)
重量:1290g(本体+フレーム+フライシート/1人用)
※2人用のオニドーム2もあり。

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アライテントから期待の新型テント登場!

今年は興味深いテントがいくつも発売された。完全に自立するダブルウォールテントながら、1人用で700g台のモデルも登場して話題を集めたが、さすがに強度はそれなりであり、使う人やシチュエーションを選ぶ。その点、安定感が高そうなのが、十文字峠~甲武信ヶ岳という今回の山歩きでテストしたライペン「オニドーム1」である。日本を代表するテントメーカーが、ひさしぶりに市場に投入する新型テントだ。

僕自身、同ブランドのテントは長年使い続けてきた。ライペンを代表するスタンダードモデルで、ポールを2本使って長方形の居住空間を作るトレックライズと、3本のポールで長方形の居住空間の前に巨大な前室が生まれるドマドームライトで、どちらも1人用、2人用を持っている。両モデルとも出入り口はテントの長辺に付けられていて使い勝手がよく、とくにドマドームライトは雨の日にフライシートを開けておいても雨水が入りにくく、僕がもっとも愛するテントとなっている。

このオニドームは、そのトレックライズとドマドームライトの間を狙ったような、これまでに類を見ないユニークな形状だ。詳しくはこれから説明したい。

まずは毛木平の駐車場で、テント一式を広げてみる。

インナーテント、フライシートがひとつのスタッフバッグに入り、ポールは2本。これで重量1290gだ。ちなみに、「トレックライズ1」が1460gで、「ドマドームライト1」は1790g。居住部分や前室の広さが同一ではないので、あくまでも参考としての重量だが、「オニドーム1」はそれら2モデルと比較しても軽量であることがわかる。そして、これら主要パーツ以外に、13本のアルミ製のペグと張り綱、シーム(生地の縫い目)の防水処理をするチューブ状のシームコートが付属している。

毛木平付近は雪融けが終わったものの、まだ新緑が芽生えてはいない状況だった。この冬は雪が少なかったとはいえ、本格的な春の訪れはあまり感じられない。

沢を越えて八丁坂に入っていく。この日は春の大型連休の前日で、混雑前。登山道には僕以外に誰もいない。明日からは賑わうのだろうな、などと想像しながら標高を上げていく。

興味深いことに、毛木平はいまだ寒々しい風景だったのに、尾根を登っていくと周囲が緑に染まっていった。

この地に多く見られるカラマツは、すでに新芽を出していたのである。標高が高いほうが春を強く感じられるとは、面白いことだ。

わずか2時間ほどで十文字峠に到着。十文字小屋は翌日から開くらしく、ここにきても誰もいない。おそらく今夜は僕の貸しきりだ。

天候は非常に不安定である。僕が歩いていたときは薄曇りで、ときどき青空も見えるといった具合。朝までは雨が降っていたようだ。天気予報によれば、この付近の稜線の風速は15m以上となっていたが、到着してみると十文字峠付近は比較的風が弱かった。

早速、オニドームを設営する。

では、テントを組み立てよう。下の写真はインナーテントにポールを通しただけの状態だ。ポールを2本クロスさせてスリーブに通すだけで自立し、非常に簡単。誰もが直感的に設営できるタイプである。

一見、一般的な形状に見えるのではないだろうか。だが出入り口の前が湾曲し、少々窪んでいることに注目してほしい。

この状態で横倒しにすると、ボトム(底面)は下の写真のような形状になる。

なるほど、たしかに角が2本あるオニのように見える。オニドームの最大の特徴は、このボトムの形状と、そのために生まれる前室にあるのだ。

そして、再び元の状態に戻し、そのうえにフライシートをかける。

出入り口の前の部分がフライシートで覆われ、広くて高い前室が生まれていることがわかるだろう。一般的なテントは、前室部分の生地を横に引っ張ってペグを打ち、前室を作り出すが、オニドームはたんにフライシートをかけるだけで前室が生まれるのである。言い換えれば、ペグを打たなくても前室ができる構造なのである。

もちろん、テントはペグで固定することで風への抵抗力を増す。しかし、ペグはいつも理想的なポイントに打てるとは限らない。このオニドームの前室部分にかかるフライシートも、テントがペグで固定されてピンと張られた状態であれば、難なく開け閉めできる。しかし弛んでいるとスムーズに可動しない。これは他のテントでも同様に見られる問題だ。

その問題を解消するため、オニドームのフライシートの内側には少し長めのループがとられている。これを使うと、ファスナーの持ち手を直接引っ張るよりも、楽に開け閉めができるようになるのだ。わずかなことながら、気が利いた工夫である。

話が多少前後するが、オニドームのインナーテントとフライシートの連結は、2つの方法が用いられている。

インナーテント前方の2隅は金属のリングが使用され、外部に露出したポールの末端を引っ掛けるという仕組みだ。フライシートにもリングがつけられ、ポールには二重にかけることになる。

後方の2隅に使われているのはバックルだ。こちら側のインナーテントのスリーブは末端が袋状になっていて、差し込んだポールを受け止めてくれる。だから、わざわざグロメットに差し込む必要はない。バックルを使うのは、フライシートの固定のためである。

ここでもう1度、上の写真を見てほしい。2種類の生地のあいだが黒く光っているのがわかるだろう。これは、シームコートで防水処理を行なった箇所だ。ライペンのインナーテントは購入後に自分でシーム(縫い目)の処理を行なわねばならない。シームテープが貼りにくい場所であり、テントの価格を抑えるためらしいが、この作業を自分で進めるからこそ、テントの仕組みが頭に入り、愛着もわくのである。このシームコートはインナーテントの4隅に塗る必要があるが、わずか1時間程度で乾燥し、非常に簡単だ。この作業は、できれば自宅で終わらせておきたい。

荷物をテント内部に入れ、改めて前室の様子を確認する。

前室の奥行きは40cm、幅は最大で148cm。たとえフライシートが結露していても、ブーツなどを濡らさずにキープできる広さだ。高さは82cmになり、豪雨、猛風の際は、フライシートを閉めたままで調理もできなくはない。いうまでもないが、前室を閉めた状態での調理は細心の注意を払ったうえで、極度の悪天候のときだけにとどめておいてほしい。メーカーの取り扱い説明書には、前室およびテント内部では火器を使用しないようにと記載されている。また、換気性などのことを考えて、フライシートは上だけを空けられるようにWファスナーの構造になっている。

マットは奥に置け! オニドームの使いこなし術。

内部にマットを置くと、オニの角に当たる三角形のスペースが頭と足元の2ヶ所にできる。

ここはデッドスペースともいえるが、頭側のスペースは飲み物やヘッドランプを置くのにちょうどよい。足側をどう使うかは、その人次第か。

居住スペースの奥行きは、82cmだ。いつもの僕のスタイルで、出入り口付近にマットを敷き、その奥に荷物を並べていった。

マットを敷き、1人用のテント泊の荷物を広げても、奥行きには充分すぎるほどの余裕がある。さらに前室も広いわけだから、快適な夜を過ごせそうだ。

しかし荷物を並べ終えてから、僕は気付いた。このテント内レイアウトは間違っている! 全身サイズのマットを出入り口付近に敷くと、どうしてもゆがんでしまうのだ。つまり、マットを置くには、テントの長さ(幅)が足りないのである。

分厚いマットの上にボリュームのある枕を置き、試しに寝転んでみると、頭も足も完全につかえてしまう。つまり、テントの壁を外側に強く押すような状態になってしまうのである。

オニドームは、その構造上、インナーテントの出入り口側の長さ(「オニの角」の部分を落とし、テントのフロアを台形に見立てた場合)が短く、約160cmしかない(メーカーの商品説明にはこの部分の数値が記載されていないため、実測)。しかもドーム型テントの性質として、天井に向かうほどテントの長さ(幅)が狭くなる。そのために、マットと枕の厚みで10cmくらい床が高くなると、そのときの幅は140cmほどしかない。僕の身長は177cmだから、出入り口付近に寝転ぶと頭と足がつかえてしまうのは当たり前だ。出入り口側に寝転んで支障なく眠れるのは、よほど小柄な人だけなのである。

テントを横から見ると、出入り口の幅が狭くなっているのがよくわかる。先に使用したテントのボトムを見せたカットも合わせて確認してもらうと、さらによく理解できるはずだ。

しかし、出入り口とは反対側、つまり奥の長さは230cmもある。一般的なテントよりも長いくらいであり、マットや枕で高さが底上げされることを考えても、まったく支障なく横たわれる長さだ。要するに、マットをできるだけ奥に敷いて使えば問題はないのである。

現状では荷物を置いている奥の部分の幅は40cm近くと余裕があるので、マットと荷物の位置を変えず、ただ奥に押し込むことも考えた。だが僕の身長で快適に横になれるマットの位置を考えると、奥の荷物は幅20cmくらいのスペースに圧縮しなければならず、かなり窮屈だ。その一方で、反対に出入り口側には幅20cmほどの空きができてしまう。これならば、面倒でも出入り口側に荷物を移動したほうがよさそうである。

テントの設営が一段落すると、僕は往復20~30分ほどのカモシカ展望台へ足を延ばした。南側の明日進んでいく方向には小高い山頂が見える。武信白岩岳だろうか? 

西側には五郎山付近の稜線が連なる。青空は見えているが、やはり風は強く、これから再び崩れてきそうだ。実際、夜半には雨が降るという天気予報なのである。

テントに戻り、マットを奥に敷きなおし、荷物を出入り口側に移動する。こうすれば寝転んでも頭と足に圧迫感はなくなり快適だ。だが荷物が出入り口側にあると、外に出るときも、中に入るときも、用事があるたびに荷物をまたがねば出入りすることができない。両サイドのオニの角の付近にできるだけ荷物をまとめれば、ある程度は出入り口をふさがなくてもすむとはいえ、それでも出入りの際に荷物が体に触れるのは避けられない。むむ~、こうなると少々使い勝手がよろしくない。

出入り口がある辺の長さが180cm程度あれば、この問題は解決するが、テント全体を大きくしなければならないため、おそらく重量はかなり増すだろう。また、オニドームには2人用もあり、詳細な数値はここでは省くが、1人用よりもひとまわり大きい。だがそうであっても、同じ問題が生じて、大柄の男性が2名で眠るのは少々キツそうである。

さらなるディテールをチェック

さて、ここで少し視点を変えて、オニドームのディテールを確認しよう。下の写真はベンチレーターを外から見た様子だ。わかりやすいように、インナーテントのベンチレーターも外側に引きだした状態で撮影してある。

インナーテントのベンチレーターはメッシュとナイロンの2重構造で、フライはナイロンのみ。すべてコードで締めることができる。これならば、悪天候時の雨水や寒気の浸入をしっかりと防いでくれるだろう。

インナーテントの出入り口のパネルも2重構造で、上部はファスナーを開けるとメッシュになる。

奥側に取り付けられたベンチレーターと連動し、換気性が高い。肌寒い春や秋、蒸し暑い夏と、寒暖差が大きい日本の気候に適合しているのである。

夜がやってきた。やはりこの日の十文字峠は僕ひとりだけだ。どこかで甲高い声をあげるシカの鳴き声を聞きながら眠りにつく。

夜遅くには雨が降り始め、大きな音を立てながら、フライシートを叩きつけた。事前にテントのシームの防水処理を行なってきたが、今回はその必要性がわかるまでの降雨ではなく、地面に水もたまらない。じつは、あえて一部だけシームコートを塗らず、未処理の場合の水漏れの具合もチェックするつもりだったのだが……。テストに都合がよい程度まで雨が強くなってくれなかったのは残念だ。

しかし、朝になって外に出ると、少なくてもフライシートの撥水性が抜群であることは確認できた。

新品なので当然といえば当然だが、この状態を長く保つには、撥水スプレーなどでのメンテナンスは欠かせない。

トレックライズやドマドームライトの流れを汲むテントだけあり、オニドームの耐風性や強度といった基本的性能は間違いないだろう。ただし、ユニークな形状であるがために、身長が高い人が使う場合は荷物の置き場所などをよく検討する必要がある。僕自身は出入り口の長さがもう少しほしいとは思うが、居住スペースの広さ自体は充分にあり、使い慣れればほとんど気にならないのかもしれない。

テントを撤収し、十文字峠を出発する。

武信白岩岳へ向かう尾根道はガスで覆われ、強風とともに小雪もちらつくという空模様だった。天気の回復を願いながら、僕は甲武信ヶ岳を目指した。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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