上州武尊でシステムクッカーの使い勝手をチェック SOTO/ナビゲータークックシステムSOD-500[新富士バーナー]

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今月のPICK UP SOTO/ナビゲータークックシステムSOD-500 [新富士バーナー]

価格:7,000円+税
総重量:608g
収納サイズ:直径190mm×高さ105mm
内容:クッカー(大・小)、リッド(大・小)、クッカー小用断熱ディスク、クッカー小用コジー、リフター、クッカー用収納ケース、リフター用収納ケース

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セットでパフォーマンスを発揮するクッカー

明日は朝から登りはじめようと、前日入りした上州武尊山。あいにく曇り空だが、雨は降っていないことにホッとする。

登山口を確認すると僕はテントを張り、今回持参したクッカーを広げてみた。SOTOが8月に発売したばかりの「ナビゲータークックシステム」だ。クッカーというものは新製品があまり登場しない山道具のひとつだが、そこにあえて同社が本格的に進出していこうということで、これまでにはない意欲的なモデルである。

「システム」という言葉がついているだけあり、クッカー本体以外にも数々の付属品が加えられ、セットで使える調理器具となっている。

クッカーは1.8Lと1.3Lの大小2つで、どちらもフタ付き。クッカーに持ち手はないが、代わりに肉抜きされたリフターが付属し、リフター用の速乾性生地のブルーのケースもつく。さらに、1.3Lクッカーを保温するシルバーの保温材を重ねた袋状のコジーと遮熱ディスクもプラスされている。これらすべてのものは1.8Lクッカーのなかに収まり、収納用のスタッフバッグも用意されている。

気になる「システム」トータルでの重量は608gと、本体とパーツの数から考えれば、さすがにそれほど軽くはない。とくにフタが少々重い印象だ。同様に注目ポイントの収納時のサイズ、つまり1.8Lクッカーの大きさは、高さ約10cm、直径約19cm。他の同サイズほどのクッカーと比べ、かなり大きい印象なのは、フタが立体的だからだろう。

では、夕食の準備を進めながら、主要なパーツを見ていきたい。ちなみに本日のメニューはパスタである。

まずはクッカー本体だ。ソロで使うには少々大きく、2~3人分の調理をするのに適したサイズである。

アルミニウム製のクッカーの表面にはアルマイト加工が施され、耐摩耗性、耐食性、対衝撃性をアップ。全体的にツルっとした質感である。

次にリッド(フタ)。

1.8Lクッカー用のフタはサイドに出っ張りがあり、クッカーにはめて使用すると調理時はクッカーよりも2.5㎝ほど高くなる立体的な構造だ。パッキング時のコンパクトさを考えて作られる山岳用途のクッカーには珍しいデザインで、少々不思議に思える。それに対して1.3Lクッカー用は平面的で、クッカーの上に乗せて使用するシンプルな形状である。

このフタの内側には、2列に並んだ突起が円形につけられている。これはガスカートリッジを固定するスタビライザーだ。どちらのフタも250サイズ、105サイズのカートリッジに対応し、地面に置いた際に安定する。もちろん、このように使用すると調理時や保温時にはフタとして使えなくなるが、これまでのクッカーには見られないユニークな工夫だ。

フタはカッティングボード(まな板)として使用できる。非常に硬い樹脂が使われ、ナイフを使っても、あまり傷がつかないのが好印象だ。

リフターはバネによって、常に開いた状態を保っている。一般的なクッカー用のリフターは使用時にわざわざ手で開かねばならないので、この点はとても便利だ。しかし開いたままでは収納時にはスペースをとって邪魔になる。この場合、付属のケースに包み込めば閉じた状態になり、コンパクトに収納できる。

このリフターの末端はギザギザになっているのが面白い。これはトングとして使えるようにと考えられた工夫だ。レトルト食品やソースなどをお湯で加温し、引き上げるときに熱い思いをせずに確実につかめるというわけである。細かいところまで考えられていると感心する。

再びフタを見てもらいたい。サイドについている小さな金属パーツはフタを持ち上げるときのツマミで、必要時には外側に倒して使う。また、フタの一部は「コ」の字型に窪み、フタをしたままでクッカーを持ち上げられるようになっている。

フタについている2列に並んだ小穴は、湯切り用だ。パスタなどを茹でたときに便利な工夫である。しかし、湯切りを使うときは注意が必要。写真ではフタを手で押さえていないが、これは一方の手でカメラを持って撮影しなければならなかったから。実際にはフタをしっかりと押さえておかないと、中身がこぼれる恐れが高い。また湯切りは一気に行なわないとダラダラとお湯が流れ、周囲にこぼれ出る。思い切ってクッカーを傾けて行なわねばならない。

このようにフタにリフター用の窪みや湯切りの穴が空き、金属のツマミまでついていることには、好き嫌いがあるだろう。僕自身は熱が逃げやすくなり、形状が複雑で壊れやすくなるので、フタはシンプルなほうが好きだ。内圧も低くなるので、米を炊きたいという人はアルミホイルを内側に使うなど、なんらかの工夫をする必要がある。とはいえ、湯切りはなかなか便利で、調理がしやすくなることは間違いない。

さて、茹でた麺、野菜、ベーコンに加温したソースをかけ、ペペロンチーニ風のパスタが完成。パスタの茹で汁で粉末のポタージュスープを溶かし、サイドに添える。僕の定番的な山ゴハンであるが、じつにスムーズに調理することができた。

夕食には1.8Lの大クッカーで作ったが、僕の腹を満足させる1.5人分のパスタ(150g)と大量の具材を一度に茹でるには充分すぎる大きさだった。一般的な分量であれば、やはり2人分が作れるサイズといったところだろう。もちろんメニューによっては3人分も作れるはずだ。

大盛りの食事で満腹すると、テントで就寝。登山口の川場谷野営場は僕以外に泊まる人はおらず、完全に貸し切り状態だ。

天気が不安定で雨の恐れも高かったために、広い内部スペースで調理ができるようにと大きな1ポールテントを持ってきていたが、結局朝まで雨は降らず、静かな夜だった。

これから季節にありがたいコジー

夜が明けると、すぐに調理をし始める。僕の朝食はほとんどの場合、行動前に水分と塩分を補給できる麺類だ。今度は1.3Lのクッカーを使い、袋麺のカレーうどんに具材を投入する。

調理後はコジーに入れて、保温しながら食べていった。さすが汁が冷めにくく、最後までアツアツだ。僕は普段、調理後は冷めないうちに手早く食べていくためコジーを使うことはないが、熱の伝導性が高く、料理がすぐに冷めてしまう金属性クッカーの弱点を補う有用な小道具ではあるとは思う。これからの寒い季節にはよさそうだ。

このコジーはサイドから底面にかけて、長さの調整ができるストラップがついている。これを自分の手の平の厚みに合わせて調整すれば、先の写真のようにじかにクッカーを茶碗のようにつかんだときも落としにくいわけだ。

今回は調理後にすぐに食べ始めたために遮熱ディスクの出番はなかった。だが一度の食事で2つのメニューを作ったりする場合には、上の左の写真のように1.3Lクッカーではじめに調理したものをコジーと遮熱ディスクをコンビで使って保温しておけばいい。なにしろ、この付属コジーは使用していないときに比べ、保温時間はなんと6倍(無風状態で95℃のお湯が45度になるまでをメーカーが算出したデータ)にもなるのである。

「システムクッカー」というだけあり、このコジーはクッカーとともに収納時にはスタッキングできる。だが下の写真の右のように、1.8Lクッカーとコジーのあいだに隙間が1.5cmほども空いてしまい、持ち運ぶとガタつくのは否めない。一般的なクッカーは複数をスタッキングすると口径がぴったりと合い、ほとんど隙間なく収まるので、それに慣れていると少々違和感を覚える設計だ。

コジーはあれば便利な存在ではあるが、気温が高い夏場は使う必要性が少なく、また軽量化のために寒い時期でも不要だと思う人は多いだろう。そのときは上の写真の右のような状態で持参することになるはずだ。するとますます隙間は大きくなり、2cm近くにもなる。こうなるとガタつきはますます大きくなり、行動中には大きな音が立ち、さらにはクッカー同士がぶつかって傷がつく原因になりかねない。「システム」だけにコジーを持っていくという前提のスタッキングの設計であれば、仕方ないのだろうか。

クッカー内部にガスカートリッジを収納するのは、パッキングの基本テクニックのひとつである。このクッカーもそれを見越し、1.3Lクッカーならば105サイズのガスカートリッジが頭をはみ出させることなく、リフターとともにしっかりと入る。一方、1.8Lクッカーには250サイズのカートリッジも入るが、カートリッジの頭はクッカーよりも高くなる。それでもフタが閉まるのは、1.8Lクッカーのフタが立体的になっているからだ。

1.8Lクッカーのフタが2cmも高くなっているのは無駄なことに思えていたが、これで理解できたような気がする。ただし、上の写真の左のように、大小のクッカーをスタッキングしてから250サイズのカートリッジをいっしょに収納すると少し問題が生じる。1.3Lクッカーのフタや遮熱ディスクを重ねると内部の厚みが増すために、外側の1.8Lクッカーのフタが閉まらなくなるのだ。カートリッジのキャップを外せば、ぴったりと収納できなくもないのだが、カートリッジの接続部分に水分や異物が入り込む可能性が出てきてしまう。それを考えれば、やはり安全性を考えてカートリッジのキャップは外さず、その代わりに1.3L用のフタや遮熱ディスクは外に出し、別途スタッフバッグに入れるべきだ。

1.3Lクッカーとそれを覆うコジーに対して1.8Lクッカーの口径が合わず、大きな隙間が生まれる。そして、カートリッジまでスタッキングすると、1.8Lクッカーの高さが少し足りない。この2つの問題から思うのは、1.8Lクッカーの口径をもう少し小さくし、代わりに高さを上げればよいのではないかということだ。そうすれば1.8Lクッカーの容量が変わらないままに、パッキングの際のガタつきを抑えられ、しかも気持ちよくスタッキングできるのではないだろうか。

また、クッカー2つとも、もう少し縦長にすれば、1.8Lクッカー用のフタを平面的にできるかもしれない。すると、収納時のかさ張りが抑えられ、コンパクトにバックパック内部へしまうことができる。しかも軽くなる。山道具は、少しでも小さく軽いほうがよいのだ。

これからのラインアップ増に期待大

朝食を食べると、山頂に向かって出発。思いのほか天気はよく、期待もしていなかった青空まで出現してきて、気分が高まる。

樹林帯を抜けて標高を上げると武尊山の山頂が近づき、別の登山口から歩いてきた登山者の姿が点のように見えてくる。その後、山頂に到着すると、近くにいた方にお願いして記念写真。以前この山頂に立ったのは10年以上も前のことで、懐かしさがこみ上げてくる。

僕は山頂にもこのクッカーを持ってきていた。

1.3Lクッカーの内側に105サイズのガスカートリッジとリフターを入れ、コジーをスタッフバッグ代わりにしてバックパック内部へ収納。しかし保温する必要はなかったので、遮熱ディスクは持ってきていない。

山頂の片隅でお湯を沸かす。当然のことながら不整地ではあるが、傾斜している場所でもクッカーのフタをスタビライザーにすると安定感が増した。

クッカーの底面は滑らかに見えるが、じつは少しだけザラつかせてある。そのために傾斜が少々きつい場所でもバーナーのゴトクの上で滑りにくいのには驚いた。これで同時に熱効率を高める工夫もされているとありがたいが、僕はちょっと欲張り過ぎなのかも……。ともあれ、山頂で味わった温かな抹茶オレはうまかった。

剣ヶ峰山へと縦走したいという思いに駆られながらも、同じ道をたどって下山を開始する。

秋雨前線や台風の影響のなか、タイミングを見計らって登った武尊山。ひさしぶりながら、やはりよい山なのである。

SOTOが本格的に山岳用クッカーに進出する第一弾アイテムとあり、「ナビゲータクックシステム」には数々の工夫が投入され、使っていて楽しくなる新モデルであった。これひとつあれば、2~3人での山行には重宝するだろう。

改善してもらいたい点があるとすれば、やはりスタッキング&パッキングの問題だ。行動中にバックパック内部でがたつくのを抑えつつ、ガスカートリッジを収納してもしっかりとフタが閉まる仕組みになっており、重量ももう少し軽いとありがたい。

また、クッカーには他の容量も用意してもらえると、汎用性が高くなるはずだ。2~3人で使うならばこれでもいいだろうが、ソロで使うには1.8Lクッカーは大き過ぎる。1.3Lクッカーを中心に、それに隙間なくスタッキングできる1.5Lや1.0Lといった大小のクッカーがあると使いやすくなりそうである。コジーはオプションとして考え、持っていかないときの収納性も検討してもらいたい。

SOTOの考えた「システム」クッカーは、これからもっとさまざまな方向に進化していくのだろう。まずはこれを使いはじめ、他のサイズのクッカーやコジーなどが発売されたら、好みによって買い足していく……なんてことになれば、すばらしく山中での調理の幅が広がるはずだ。これ自体、発売されたばかりの新製品だが、早くも次の展開に期待は高まる。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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