身軽に歩けるローカットシューズを奥多摩の縦走でチェック アルトラ/ローンピーク3.0M

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今月のPICK UP アルトラ/ローンピーク3.0M [アルトラ]

価格:15,000円+税
サイズ:25.0~29.0cm
重量:276g(10.5インチ)
カラー:2色

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※同スペックの女性用モデル「ローンピーク3.0W」もある

荷物の少ない日帰りならメリットが大きいローカットシューズ

僕が山を歩くときのシューズは、スニーカーのようなローカットではなく、ハイカットもしくはミッドカットが中心だ。テント泊装備で入山することが多い僕には、アッパーの硬さとホールド感で荷重をしっかりと支えてくれるブーツタイプのほうが使いやすいのだ。

だが、最近は荷物が少ない日帰り登山の機会も増え、またテント泊でも装備が軽くなっており、身軽に歩けるローカットシューズのメリットを強く感じるようになってきた。そこで今回は、僕の仲間内で評判の高いアルトラ「ローンピーク3.0」をピックアップ。トレイルランニングやスピードハイキングのイメージが強い同メーカーだが、そのなかでローンピーク3.0は一般的な山歩きにも対応するように考えられたモデルだ。

今回、僕が確認したいのは、多くのローカットシューズのなかにおけるローンピーク3.0の持ち味というよりは、ローンピーク3.0自体が一般的登山にどれほど使えるかということ。また、一般登山に対するローカットシューズ全体のポテンシャルではなく、あくまでもローンピーク3.0に特化したポテンシャルの話であることに注意してほしい。

テストのために向かったのは、奥多摩の御岳駅。まずは御岳山ケーブルカーで標高を上げてしまい、そこから大岳山を経由し、奥多摩駅まで進むルートである。

天気は上々。ケーブルカーの御岳山駅からは東京の街並みもよく見える。むしろ天気がよすぎるために地面が乾燥し、湿った斜面でのグリップ力などが判断しきれないのではないかと心配になるほどだ。

さて、こちらがローンピーク3.0を真横から見た姿である。

アウトソールはつま先からかかとまで柔らかく湾曲している。地面や岩場での安定性を重視したアルパイン系ブーツの平面的なアウトソールに対し、前方へ体を蹴りだすのが容易で、体重移動がスムーズである形状が想像できる。

次に、つま先とかかと。つま先はアウトソールが先端まで覆い、やはりスニーカー的だ。強く蹴りだしたときもグリップ力を保つデザインである。

かかとのアウトソールは接地したときの安定性を重視し、比較的幅が広い。一方、シューズ本体とアウトソールのあいだのミッドソールは非常に弾力性が高く、行動中の衝撃をしっかりと吸収してくれるだろう。

内部への足入れも良好で、足を包み込むようなフィット感もすばらしい。このモデルは防水性よりも通気性を重視し、アッパーにはクイックドライ・エア・メッシュという速乾性で張りのある化学繊維が用いられている。

内部に収められたインソール(フッドベッド)は、シューズの柔軟性を損なわないように、かなり薄手だ。またこの形状から、ローンピーク3.0の足先部分が、かなり幅広のデザインになっていることが判断できる。とくに指先部分の広さは特筆すべきもので、5本の足指それぞれの力を生かし、大地を裸足でつかむようなイメージで歩行できる。これは同社の得意とするポイントで、最大の特徴でもある。

かかとにはゲイタートラップというベルクロのパーツがつけられている。これはシューレース部分のリングと連動し、ゲイターを簡単に取り付けられるようにする工夫だ。

ところで、今回のシューズのかかと部分に「10」と入っているのは、サイズのこと。テスト用のサンプルのためであり、販売用には書かれていないのでご安心を。

アウトソールの全体は、以下の写真のようになっている。5本指の裸足をモチーフにしたデザインがユニークだ。ソールの突起は、中央から先端にかけては六角形、サイドと後方は三角形である。この手の軽量シューズのアウトソールのパターンは前方への推進力を重視し、横方向を中心につけられたものが多い。だがローンピーク3.0のパターンは、前後だけではなく、左右、どの方向にも滑りにくいようにとバランスよく配置されている。この点を見ても、一般的山歩きにも向いていることがわかる。

また、突起のあいだが離れているのもひとつの特徴だ。アウトソールに深いミゾがあると、地面の状況によっては土がこびりついて落ちにくくなるが、こんなデザインであれば土は簡単に落ちていくに違いない。

一般的登山を想定し、様々な路面コンディションで使い勝手をテスト

ここまで確認し、やっと出発。御岳山の山頂までは観光ルートであり、舗装路や石畳が続いている。

だが、山頂の神社にお参りした後は、本格的な登山道に入っていく。

軽量なローカットシューズのメリットを生かし、ますは大岳山を目指してスピーディーに進む。

とはいえ、トレイルランニングではなく、せいぜいスピードハイキング程度の速度だ。時速にして6~7キロといったところだろうか。今回の僕の目的は、一般的登山での「歩き」への有効性を確認することであり、走行性ではないのである。

その代わり、路面のコンディションに少しでも特徴があれば、時間をかけてテストしてみる。乾燥した岩、濡れた地面、木の根の上、土と石のミックス……。シューズが接地する際の角度も、さまざまに試してみた。撮影する時間も考えると、まったく「スピード」ハイキングではない。

好天のこの日は全体的に路面のコンディションはよく、どんな場所でもほとんど滑ることはない。傾斜がかなりきつい岩の上でも安定し、乾燥した場所でのグリップ性には間違いがない。水がしみ出た場所のぬかるみでの滑りもわずかなものだ。だがソールの突起はそれほど高くはないため、雨天で地面がたっぷりと保水すると滑りを抑えられないかもしれない。しかし、そんな悪状況でもなければ、十分なグリップ力であろう。

大岳神社の鳥居をくぐり、大岳山の山頂へ登っていく。

この日は日曜日で、山頂には東西南北の登山道からアプローチしてきた登山者でいっぱい。山頂碑の前で写真を撮ることを断念しようかと思うくらいだったが、周囲にいた方にお願いし、なんとか1枚は確保した。

人が少ない場所まで移動し、この日初めてのまともな休憩。歩行中に気になった箇所を再チェックしてみる。

ソールの性能はよさそうだ。湿った地面の上を歩き、一時は泥がアウトソールにこびりついていたが、歩いているうちにすべて落ちてしまい、汚れは少ない。

これは悪路の後のグリップ力の回復という点で、大きなメリットだ。

かかとのホールド感も悪くない。

この部分にはそれほど硬くもなく、柔らかすぎることもない、絶妙な硬度感の素材が使われている。ハードな岩場が連続する登山道でもなければ、これで十分に機能するだろう。

防水メンブレンなし、伸縮性のあるメッシュ素材だからこそのフィット感

僕がいちばん気になったのは、アッパーの素材だ。
今回借りたシューズはサイズがUS10 (日本サイズで28cmほど)。メーカーによってサイズ感は変動するとはいえ、多くの場合、これが僕の足のサイズだ。だが、ローンピーク3.0はいくぶん小さめだったようで、つま先の親指部分がアッパーに押し付けられ、少し出っ張った状態でじつは履いていた。試し履きのうえで購入したものではないので仕方なく、足幅などは問題なかったので、なんとかテスト可能なサイズだと思っていたのだが……。

それがなんと、大岳山山頂近くで改めて見てみると、親指の出っ張りが解消され、ほぼジャストサイズになっているではないか!? 出発の数日前、都内で数時間はいてみたときにも親指が出っ張ったままだったのに、なぜ?

当日歩き始める前まで僕の足はむくんでおり、大岳山到着までにむくみがとれたのかもしれない。しかし、それよりも可能性が高いのは、長時間歩き続けているうちにアッパーがわずかに伸び、同時に足回りのクッション材も押しつぶされて、少し緩くなったのではないかということだ。実際、シューレースは緩みにくい素材と形状のものだったが、それでもほんの少し余裕が生まれていた。

もしもアッパーの素材が少し緩んだからだとしても、それが特別悪いことだとは思えない。むしろ伸縮性がある素材だからこそ、足によくなじむわけで、このシューズの特性を頭に入れてフィット感の微調整を行なえばよいのである。

大岳山から奥多摩駅まで続く鋸尾根に入っていく。

わずかに新緑を見せ始めたばかりの木々は美しく、登山道は解放的な雰囲気である。

このあたりを歩く登山者は少なく、いくらかスピードを出しても迷惑にはならないだろうと、少しのあいだランニングも。

ここでもさまざまな路面の場所に足を置いてみたが、まったく支障はない。足指にも左右の圧迫感はなく、たしかに5本の指の力を十分に使えているように思えた。

奥多摩の街が谷間に見えてきた。

登山道の横にはツツジの花が咲き、本格的な春の訪れを告げていた……。

今回、ただはいているだけでいくぶん緩んだ気がしたアッパーだったが、実際はどうなのか? だからといってとくに問題はなさそうだが、少々気にはなる。また、濡れた場合、フィット感は変わってくるのだろうか? このあたりは今回のテストでは判断できない。

防水性を考慮しないメッシュ素材ゆえに、ほとんど蒸れを感じないのはすばらしかった。じつはローンピーク3.0には防水性を備えた「ローンピーク3.0ポーラテック ネオシェル」というバリエーションもあるのだが、たんなるメッシュ素材よりもいくらか蒸れやすくなるのは否めない。アッパー素材が少ないローカットをわざわざ選ぶのなら、僕は今回の防水性なしタイプのほうが好みである。

ローンピーク3.0グリップ力は申し分なかった。これならば、僕は日帰り登山などでは積極的に使いたい。ある程度の筋力があり、登山経験を積んだ人であれば、このモデルはハイカット、ミッドカットのブーツ以外の選択肢になるだろう。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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