「遭難捜索費用特約」でカバーできること・できないこと。加入前に確認しておきたい特約の補償対象

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登山者が知っておくべき保険の知識を徹底解説する「知らないと損する山岳保険の知識」。今回はもうひとつの遭難捜索の特約「遭難捜索費用特約」について解説します。

 

今回は2種類ある特約の2つ目「遭難捜索費用特約」について見ていきましょう。

前回は救援者費用等補償特約は支払われないケースが多々あり、山岳保険としては重大な欠点があると述べました。それではもう一つの「遭難捜索費用特約」を選べばいいのでは? と考えるのが普通ですが、こちらも単純ではありません。

★前回記事:「救援者費用等補償特約」では山岳保険に不十分かも?

まず保険金が支払われる条件について見てみましょう。ある会社の約款の「保険金を支払う場合」には、「日本国内において山岳登はんの行程中に遭難したことによって支出した捜索費用を支払います。(以下、略)」としています。そしてこの特約の欄には、「保険金を支払わない場合」という項目はありません。一見すると、日本国内の全ての遭難事故が対象となる特約のように見えます。

しかし、よく見ると「山岳登はんの行程中に遭難~」と明記されています。以前にも述べたとおり「山岳登はん」とは、「ピッケル、アイゼン、ザイル、ハンマー等の登山用具を使用するもの、ロッククライミング(フリークライミングを含みます)」と定義していますので、この特約は、山岳登はん中だけの遭難事故を対象としていると理解できます。

つまり、山岳登はんに該当しない一般登山中の遭難事故は対象外ということです。

そのため、山岳登はん中以外は対象の救援者費用等補償特約と、遭難捜索費用特約の両方をセットにして販売している会社もあります。しかし、その場合でも、両方の特約を付けても一般登山中の病気などによる遭難事故は結局対象にならないということになります。

前述のとおり、約款には保険金を支払わない場合の項目はありません。ただし、「この特約に規定のない事項については、この特約の趣旨に反しないかぎり、普通保険約款の規定を準用します」との記載があります。ちなみに、普通保険約款では病気を原因とするものなどは対象外になっています。

実務としては、遭難捜索費用特約で一般登山中の遭難事故も補償対象として支払っている会社もあるようですし、逆に普通保険約款の支払わない場合の規定を準用して、病気などの遭難を対象外としている会社もあるようです。

このあたりは保険商品によって違いがあるようですので、加入前に書面またはメールなどの残る形で対象範囲を確認しておくことをお勧めいたします。

 

山岳登はんを行う人には良い保険だが、一般登山者には割高感も残る?

次に、この特約を付ける条件について確認してみましょう。

保険会社の引受規定で遭難捜索費用特約を付けたい場合には、一般的に以下の条件があります。

  • ①主契約であるケガによる死亡や入院等の補償部分に運動危険等補償特約という割増を付けること(以前に触れた「通常は対象外であるアイゼンやピッケル使用時のケガを割増を払えば対象にしてあげるよ」という特約です)

  • ②遭難捜索費用特約の保険金額は、死亡保険金額以下かつ上限200万円まで

山岳保険の本来の部分である「遭難時の補償」が欲しいだけなのに、①②の条件によって、ケガの補償部分で高い保険料を支払わなければ契約が出来ないということです。ちなみに、この割増のためにケガの補償部分は概ね約2倍の保険料になります(その他の各種特約などによって異なります)。

遭難時の補償が幅広くされているのであれば、山岳登はんを行う方には良い保険だと思います。一方で、山岳登はんを全く行わないその他多くの一般登山者にとっては、先に述べた遭難捜索費用特約が登攀中以外も含めて広く補償してくれるとしても、ケガの補償部分で全く無駄な割増保険料を支払わないといけない仕組みとなっているのです。

 

プロフィール

井関 純二

千葉県出身。大学卒業後に保険会社勤務等を経て2014年にやまきふ共済会を設立。趣味は登山のトレーニングのために始めたランニングでサブ3ランナー。
やまきふ共済会の他に、山岳ガイドや登山者向けの各種保険を扱う(株)インスクエアコンサルティング代表取締役で社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー。
⇒やまきふ共済会

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