山センパイに聞く。シーズン目前! 安全で正しいガス器具の使い方

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春からシーズンインしたみなさんも、徐々に足を伸ばし、日帰りから、1泊、2泊と登山計画を立てていることでしょう。計画の中に「山頂でお湯を沸かしてコーヒータイム」とか、「自炊でテント泊」が入ってくると、必要になってくるのが「火器」。
この火器、主に、アウトドア用のガス器具(ガスバーナー、ガスこんろ。以下「ガス機器」と書きます)について、シーズン前、使用前に、必ずチェックしてほしいポイントを、日本ガス石油機器工業会の山センパイ・榎本幸司さんに聞きました。

 

夏山シーズンが近づいてきました。今年はどんな山に行く予定ですか? 登山で調理をする場合、みなさんが主に使っているのは、アウトドア用のガス器具ですね。ところで、みなさんがお持ちのガス器具、最後に使ったのはいつですか?

ガス器具は、丈夫で、扱いやすく、安全に設計されていて、メンテナンスが比較的簡易なのが特徴ですが、いつまでも永久的に新品と同じ、ということはありません。

シーズン前、使用前に、必ずチェックしてほしいポイントがあります。ガス器具を正しく安全に使うために、ぜひ実践してください。

 

山行前にここをチェック!

まずは、ガスカートリッジ(カセットボンベ・アウトドアボンベ)の状態、ガス器具の状態をチェックしましょう。

ガスカートリッジが錆びている場合、原則として、使用を控えてください。少しの錆であれば、ガス漏れの異常がないことを確認し、早めに使い切ってください。

ガス器具をひっくり返すと、黒いゴム状の「Oリング(オーリング)」と呼ばれるパーツがあります。これはガスカートリッジと接続した時、ガスが漏れないためのゴムリングですが、ここがいちばん劣化しやすいパーツなのです。

下図のように、ささくれ、切れ、硬化・縮み、ひび割れ、がある場合は、ガスが漏れ、最悪の場合、漏れたガスに引火する恐れがあります。

Oリングの劣化による、ガス漏れ、引火の事故は、実際に起こっていますので、シーズン前、使用前には、必ずここをチェックして、図のような劣化がないか確かめてください。

最近よくあるパターンとして、親の世代が使っていた一昔前のガス器具を、高校生、大学生のお子さんが譲り受けて使う、というのがあります。
ガス器具は金属製で丈夫なので、まだまだ使えそうに見えますが、Oリングは経年劣化していて、ガス漏れ、引火して、やけどを負うという事故が報告されています。

ガス器具を取り付ける際、強く締める、砂やゴミが付いた状態で取り付ける、などは、Oリングの劣化を助長します。正しく使っていても、概ね5年から10年以上経過したガス器具はOリングの劣化を疑いましょう

ガスカートリッジとガス器具を接続した時点で、異音、異臭がする場合は、ガスが漏れていますので、すぐに取り外し、絶対に使用しないでください

コラム ガスカートリッジの使用期限と処分方法

使用期限
中のガス自体は劣化しないため使用期限はありませんが、ガスカートリッジの中に使われている「ゴム部品」は、使用の有無にかかわらず経年劣化します。そのため、ガスカートリッジの外観上に錆などの異常がない場合でも、製造日からおよそ7年以内を目安に使い切ってください。

処分方法
ガスカートリッジはガスを使い切るか、ガス抜きをすることしか処分方法はありません。ガスが出なくなった後、振ってみてシャカシャカとした音がなければガスが抜けて空になっています。
空になったガスカートリッジは、お住まいの地域のゴミ出しの取り決めに従って破棄してください。

 

ガス器具のメンテナンス方法、買い替えの目安は?

Oリングが劣化している場合

すぐに販売店へお持ちいただき、メーカー指定の純正Oリングへパーツ交換ができるかをご確認ください。もし交換できない場合は絶対に使用しないでください。

発売から年月が経っている場合には、交換パーツがない場合もありますが、メーカー指定の純正Oリング以外は絶対に使用しないでください。

ただ、お持ちのガス器具の発売当時から比べて、現在では全般に燃焼性能が向上し、買い替えた方がおトク、ということもあります。

また、現在では、コンパクトに畳める軽量なモデルや、大きな鍋も安定して使える大型ゴトクを装備したモデル、ランニングコストを抑えられるカセットボンベを燃料にしたモデルなど、使う方の用途に応じて様々なガス器具が販売されていますので、登山・アウトドアの専門店の店員さんに、目的や使用シーンを相談して買い替えるのも良いでしょう。

 

こんな使い方はNG! ガス器具を正しく使おう

経年劣化は見られなかったあなたのガス器具。さあいよいよ山で使おう、というとき、使い方を間違っては元も子もありません。下記にNGな使い方とその理由を紹介します。

× テント内でガス器具を使う

ガスを完全燃焼させるためには、相当な量の空気(酸素)が必要です。テント内では空気(酸素)が足りず、不完全燃焼となり、一酸化炭素が発生し、一酸化炭素中毒を起こします

一酸化炭素は目に見えず、無臭のため、発生していることがわかりにくく、またその中毒症状も初期段階では喉の痛みや頭痛といった風邪の症状にも似ているため気づきにくいのですが、後遺症が残ったり、最悪の場合、命を落とすことにもなります。

一酸化炭素中毒にならないためにも、テント内(あるいは車内など)で、ガス器具を使わないようにしましょう。

 

× 大きい鉄板、もち網、焼き網を使う、 × ガスこんろを2台並べて使う、 × 焚き火などほかの火の近くで使う

これらの場合は、すべて、ガスカートリッジに過剰な熱が加わります。最悪の場合、ガスカートリッジ内のガスが膨張・爆発する事故につながります。毎年のようにこのような事故が起こって、負傷される方がいますので、このような使い方は決してしないでください。

× 砂浜、河原、舗装道路上、車内などにガスカートリッジを放置しない

夏の炎天下を想像してください。上記のような砂浜、河原、舗装道路上、車内は非常に高温になります。
ここでガスカートリッジを放置した場合、カートリッジ内のガスが熱で膨張し、爆発の恐れがあります。

少し細かいことまで書いてしまいましたが、安全なガス器具の使い方、わかっていただけましたか? ガス器具を正しく使って、みなさんの登山ライフが、安全で楽しいものになるよう願っています。

コラム 生火について

生火ってなに? その危険性
気体は圧力をかけると液化する性質があります。ガスカートリッジの中には気化ガスに高い圧力をかけて液化させたガスが充てんされています。

ただ、ガスカートリッジ内に満タンには充てんしませんので、ガスカートリッジ上部には、「内部で気化したガス」が溜まります。ガス器具はこの上部から気化ガスのみを取り出してガスを燃焼させています。

そのため、燃焼中にガスカートリッジを傾けると液化ガスが直接ガス器具へ送り込まれて赤く大きな炎(生火)が燃え上がります。大変危険ですので、燃焼中にガスカートリッジを持ち上げるなどして傾けないようにしてください。

ガスカートリッジを逆さにして、液化ガスを取り出して使用するガス器具もありまますが、このようなガス器具には「ジェネレーター」という機構が備えられており、ジェネレーター内で液化ガスを気化ガスに変えて燃焼させています。

 

プロフィール

一般社団法人 日本ガス石油機器工業会 榎本 幸司

1956年 大阪生まれ。父親が山好きで小学4年生のとき初めて立山雄山に登る。結婚して子供が小学生のころは妻、息子2人と年間20回はキャンプに行く日々。その当時はワンボックスカーにテント、タープ、フォールディングチェアー&テーブルなどが年中積みっぱなしだった。

⇒日本ガス石油機器工業会

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