雪山用具が気になり始める季節。一般登山・縦走用ザックと登攀用・雪山用ザックの違いを知ろう!
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山はこれから紅葉の美しい秋、そして冬へと向かっていきます。登山をはじめて、この夏に山小屋泊登山、テント泊縦走を経験された方の中には、この冬は雪山にチャレンジ、という方もいるかもしれません。
雪山にはいろいろ新たな装備が必要になりますが、実はザックもそのひとつ――。
一般登山・縦走用のザックと、登攀用・雪山用のザックは違うって、知っていましたか? それぞれの用途や使い勝手、登攀用、雪山用のザックの選び方について、山岳ガイドの島田和昭さんに聞きました。
協力=島田ガイド事務所、グレゴリー(サムソナイトジャパン)
- 一般登山・縦走用のザックと、登攀用・雪山用のザックの違いを知ろう
- 登攀用・雪山用のザックの特徴とは?
- 登攀用・雪山用には専用設計のザックを使おう
編集部N:これまで夏の富士登山をきっかけに、北アルプスの燕岳や涸沢などに山小屋に泊まってアルプスを経験し、八ヶ岳ではテント泊デビューして、今年はいよいよ雪山に挑戦しようかと考えています。
ところで、ザックを購入したとき、同じような容姿でも、雪山用・登攀用は違うんですよ、ってお店の店員さんに聞いたのですが、実際そんなに違うものなのでしょうか?
島田和昭ガイド(以下、島田ガイド):はい。違います。「レインウェアと冬山用のヤッケ」の違いと例えたらわかるでしょうか?
ここにザックが2つあります。右側(紺色)が春から秋によく使われる日帰りから山小屋泊程度のザック、仮に「縦走モデル」としましょう。そして、左側(黄緑色)が登攀用・雪山用の「アルパインモデル」と呼ばれるザックです。
一般に登山を始めるのは雪のない春から秋までで、最初に買うと思われる35リットルのザックでは、
- サイドにボトルポケットや大型のメッシュパネルが付いている
- 背中がメッシュになって汗抜けがよくなっている
- 生地は比較的薄く、軽量化が図られている
などが使いやすいザックの条件になるでしょう。さらに、テント泊用に買った50リットル以上の大型ザックになると、
- 荷物の出し入れがしやすいメッシュパネルや大きな雨蓋
- 収納しやすく、容量が増す大きな本体
- 大容量・重量を支えるためのしっかりした機構のヒップベルトとショルダーハーネス
となっていきます。
しかし、登攀用・雪山用にできている「アルパインモデル」は、これらとは違う考え方で設計されています。
編集部N:具体的にはどんな違いがありますか?
島田ガイド:私の使っているのは、グレゴリーの「アルピニスト」というモデルですが、名前の通り、垂直志向のアルピニストに向けた登攀用・雪山用のアルパインモデルです。
まず、登攀という縦方向の目的に沿っていくと、腕の可動域が必要です。そのため、本体形状は細身です。ザック自体のストラップなども最小限で、岩や雪が引っかからないようなシンプルな形状になります。岩、雪、氷は硬いのと、それに対してカラビナ、カム、ピッケル、アイスバイル、アイゼンなどのギアも硬いものが多いので、ザック本体の生地は丈夫な素材が使われています。
腰回りにハーネスを付けることもあるので、ヒップベルトは最小限で、取り外しができるモデルも多いです。取り外して、という点では、このモデルは背面側のフレームも取り外せます。登攀のために最小限・最軽量で、という時に対応するためです。
編集部N:ポケットなんかはほとんどないんですね。どんなふうに使い分けているのですか?
島田ガイド:例えば、私がザックを使い分けるのは、山行の行程に「水平移動の割合が多いか、垂直の割合が多いか」で考えています。大峰を4、5日泊でテント泊縦走する、というようなときは、水平移動の割合が多くなるので、大型の縦走モデルを使います。
穂高に登るとなれば、垂直の重要度が増すので縦走モデルは選択せず、「アルピニスト」のような登攀用・雪山用のモデルを選択します。
雪山でも縦走モデルは使いません。降雪中や新雪をラッセルするときはメッシュ部分に雪がしっかり詰まってしまうからです。サイドのポケットや、いくつもあるストラップも雪が付きやすいです。さらに夏山の軽量化を重視した生地は岩や氷の硬さや鋭さには弱いです。
その点、登攀用・雪山用のアルパインモデルは、背面などはシンプルな構造で雪が落ちやすい構造をしています。アイゼンやピッケル、のような硬い金属性のギアを収納するためのパーツがありますし、生地も丈夫です。
一般登山には必要ありませんが、山岳ガイドという仕事の立場でいえば、時にはお客さんの装備を持つことになったり、長いロープを持ったりということもあるので、雨蓋が伸びて収容量を増やせるというのも、ザックを選ぶポイントになります。
私は冬にはバックカントリースキーのガイドも行いますが、岩、雪、垂直の要素が多いので、やはり、このようなアルパインモデルを使うことが多いですね。
編集部N:特に気に入っているところなどはありますか?
島田ガイド:この「アルピニスト」を何世代か使っていますが、今のモデルで気に入っているポイントは、アルパインモデルながら、フルオープンになるところです。
雪山で降雪中に幕営地に着いて、ザックの底から素早くテントを出す、登攀でザックの中で絡まりがちなロープとクライミングギアを出すときに、このフルオープン機能でスムーズにできるので、ストレスがなくなりました。
編集部N:「アルピニスト」が2つありますね。容量の違いによる使い分けは?
島田ガイド:単純に荷物の量で使い分けています。35のモデルは、日帰りや山小屋1泊くらいの雪山で、2泊3日のテント泊で雪山となると50のモデルを使います。
それ以上の長期の高所登山などの場合には、さらに大きな容量のアルパインモデルを使います。
森の中の道を歩き、水平に移動する想定の「縦走モデル」と、岩・雪を想定して垂直に移動する前提の「アルパインモデル」との違い、ご理解いただけましたでしょうか?
さらにはメーカーごとに特徴、仕様も異なりますので、登攀用・雪山用のザックを購入しようという方は、登山専門店に相談して、自分に合ったモデルを探してみてください。
今回登場したアイテム
グレゴリー アルピニスト35
サイズ(容量): M(35L)、L(37L)
重量: 1530g(Mサイズ)
カラー: 1色
価格: 30,000円(税別)
グレゴリー アルピニスト50
サイズ(容量): M(50L)、L(53L)
重量: 1600g(Mサイズ)
カラー: 1色
価格: 32,000円(税別)
プロフィール
島田 和昭
1973年、大阪府生まれ。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。好日山荘アドバイザー。ボーイスカウトの経験から登山を始め、大学卒業後は登山用具の卸売り会社に就職。その後、登山用具店の店長を経験して山岳ガイドとして独立。
キリマンジャロやキナバル山など海外の高峰登山やトレッキングのガイドをはじめ、四季を問わず、利尻岳から屋久島まで、全国の山々をガイドする。また、国立登山研修所講師、同志社高校・大学山岳部コーチ、日本山岳レスキュー協会事務局長を務め、安全登山の講習会なども精力的に行なっている。
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