「勝った・負けた」に一喜一憂しない! コースタイムについて考えてみよう

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登山地図や登山口の案内板などに記載されているコースタイム。この時間より早く歩けると何か嬉しい、遅れると何か悔しい――。そんな経験、誰もがしていると思われるが、そもそもコースタイムって何だろう?

 

コースタイムの考え方について教えてくしい!

質問:
私の山友達は、登山地図に記載されているコースタイムどおりに歩くことに強いコダワリを持っています。少しでも遅れると「次で取り返さなければ」と焦り始め、早く着くと「コースタイムに勝った」と余裕が出るようです。
私は、コースタイムより早いときもあれば遅いときもあると考えているのですが、どの程度コースタイムにこだわるべきなのでしょうか?

 

コースタイム=普通に歩いた多数派の行動時間

判るなぁ、「コースタイムより半分で登った。勝ったぁ!」の気分。逆にペースが遅いと「おい。コースタイムは1時間で書いてあるぞ。まだ半分も来てないじゃないか! さっさとしろよ。」とか、口には出さなくても密かに考えてしまうのは無理もないものです。

ところで、コースタイムとは何なのでしょうか? 国内で最も知られている登山用地図「山と高原地図(旧エアリアマップ)」を作成している昭文社が、登山地図の執筆依頼の際に要請するのは「通常の天候の下で、一般的な登山者が行動する実際の時間に若干の余裕を持たせた物、ただし、休憩時間は含まない」です。

うーん・・・、そうかぁ。

若干の余裕はあるけど休憩時間は含まないとは――、つまり、普通に(何が普通なのかはさておき)歩いた多数派の行動時間と考えれば良いようです。途中でコーヒーを沸かして飲んたり、花が咲いていたので腹ばいになって写真撮ったり、ななどという時間は入ってなくて当たり前と考えるべきです。

初心者や、自分なりの山の楽しみ方が確立していない登山者にとって、コースタイムはひとつの目安です。「オ~ッ、コースタイムの半分で登れたぞ!」と一喜一憂する初心者は、先の行程を考えたら、何もそんなにアクセク登らなくても良かったのでは? と考えてもいいかもしれません。

一方、一生懸命歩いたにも関わらずコースタイムの2倍も時間がかかってしまうような人は、その山が自分が挑むには少し厳しすぎた可能性があります。次に計画を立てる時には、「自分は、無理せずに登ると標準コースタイムの2倍はかかることがある・・・」と認識して、計画を調整する資料として使うことも可能です。遅れると「次で取り返さなくっちゃ」は山を楽しむ姿勢としてはちょっと残念です。

登山地図中のコースタイム(ヤマタイムより抜粋)。区間ごとに歩行時間の目安が記載されている。

 

時代とともにコースタイムも変わるのをご存じ?

ところで、コースタイムは時代や登山者の年齢の変化に対応しているって知っていますか? 一例を挙げると――、20年前の昭文社・山と高原地図の「奥多摩」では、東日原から横スズ尾根を通って一杯水までのコースタイムは「2時間」と記載されていました。

このコースタイムだと、比較的足が速いはずの筆者でも脇目もふらず、ため息もつかず登って、ようやく着くかつかないかの時間です。「厳しいなぁ」と思っていたら最近のものは2時間半に変わっていて、だいぶ実態に近づいたという印象です。これは、高校生や若手が主に歩いていた約20年前の時代と、中高年が主流となった今とでは、「実際にかかる時間に、若干の余裕を持たせた」時間が変わってきたものと考えられます。

一方で、最近少し気になるのが極端に時間のかかるパーティーの存在です。「安全のため」にゆっくり歩いているからなのしょうか?  ちょっと考えられないほど時間のかかっているパーティを見かけます。

例えば、先日はこんなことがありました。甲武信ヶ岳から西沢渓谷入口まで降りる「徳ちゃん新道」で、下山に決定的なトラブルがあったわけではないのに10時間以上かかったパーティーがいました。通常は時間がかかっても4時間程度のコース(※ヤマタイムのコースタイムでは3時間50~55分)。

仮に、登山道の整備状況が良いとは言えないコース――、例えば流水に道が遮られていたり、道の片側が切り立っていて危険だったりするコース――、であっても一般登山道でコースタイムの何倍もかかるのは計画そのものに無理があったのではないか? と疑うべきです。

コースタイムは「あくまで目安」と考えるべきでしょう。早くても奢らずに、極端に遅かった場合は今後の計画を見直す、そんな風に使えば良いと思います。

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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