日本に古くから伝えられている治療術「活法」ならこうする、山で心配な高度障害。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

鍼灸師・活法師「からだ自然Labo空」院長の根本国彰先生が、みなさんの登山ライフの指針となるような情報をお届けする『鍼灸師 ネモ先生の山と身体の羅針盤』。「山=登る」を主軸に、登山やクライミングに関した身体の悩み、症例、対策などを紹介しています。第六回は、日本に古くから伝えられている治療術「活法」で伝わる高山病、高度障害の対処法をご紹介します。

今も昔も、登山には興味がなくても富士山だけは登ってみたいという人は沢山います。富士山のような高い山に行く際に気がかりなのは、頭痛などの症状のでる高山病、高度障害。普段山に登ってない人で、初めての登山が富士山というような場合に特に発症しやすいようですが、普段から山に登っている人でも、その日の体調次第では高山病、高度障害になることがあります。

整体の源流だといわれている活法には、高度障害時の施術法も伝えられています。この夏に富士山を登りに行った鍼灸師仲間の話になりますが、一緒に行った奥さんが途中で高度障害になってしまったので、この方法を試したところ症状が軽減し、無事に登り続けることができ登頂を果たして帰ってきたとのことでした。

症状が重い時、苦しい時は、とにかく無理をせずに、すみやかに下山することをお勧めしますが、以下に紹介する方法は、昔から伝わる知恵といった意味合いで覚えておいて、症状が軽い場合に試してみてはいかがでしょう。

 

では、動作の仕方を紹介!

STEP1
・お尻の下に何か敷いて高さを出し(座布団ほどの高さ)浅く座ります。
・足を伸ばして長座の姿勢をとります。

 

・この時の手は交差して肩をしっかりとつかみ、肩を上げてこらえます。


 

 

STEP2
・勢いよくお尻でジャンプし前に飛び出し、下にお尻から落ちます。

 

[気をつけるポイント]
・なるべく平らな所で行ってください。
・野外で行う場合、下に石とか硬いものがあると尾骨の骨折などの危険がありますので、マットなどを敷いてください。
・肺水腫や脳浮腫の可能性がある場合は、速やかに医療による手当を受けてください。

*術者が患者に対して行うのが本来の使い方なのですが、今回はその方法を一人でもできるようにアレンジして紹介しています。

 

▽動画で動作方法を確認する

 

お尻の仙骨部に反射的な刺激を加えるイメージで

「この動きが高度障害に効果があるの?」と思ったのではないでしょうか。

高度障害は頭痛に代表されるように、基本的には頭部に異常が起きる症状に集約されます。この対処法は、「背骨の一番下が仙骨、一番上が頭蓋骨」という人体構造を利用していて、お尻の仙骨部に反射的な刺激を加えることによって頭部の症状を解消する技です。

背骨をスプリングに置きかえると理解しやすいのですが、一端(仙骨)に圧を加えると、もう一端(頭蓋骨)では圧が増幅し勢いよく伸びます。加える圧が瞬間的で凝縮されたものであればあるほど、より軽い力で簡単にバネを伸ばせます。

この仕組みをイメージしながら練習してみてください。

 

高度障害、高山病とは

標高が高くなるにつれ大気中の酸素濃度は低下し、標高3000mで平地の約3分の2、5000mで平地の約半分の酸素濃度になります。そのため、血中の酸素濃度も低下します。富士登山で起こる高度障害は、「急性高山病」と呼ばれるもので、普段の生活から急に高地に行くことで起こります。つまり高度障害とは、低圧・低酸素に身体が順応できずに、主に「酸素の不足」を原因として起こる様々な症状のことなのです。そして高度障害は、誰にでも起こる可能性があります。

 

発症する高度

発症する高度は人によって違いますが、一般的には、標高2000m程度から発症します。また、その時の身体の状態、年齢などによっては1500m程度でも発症するとされています。

 

主な症状

富士登山において起こる高度障害は、通常「山酔い」と呼ばれる「軽度の高山病」です。これは、「頭痛、倦怠感、吐き気、食欲不振、めまい、耳鳴り、睡眠障害など」といった、風邪や二日酔いに似た症状を引き起こします。また、高度障害の怖いところは、「山酔い」だけではなく、山酔いが重症化することで、「高地脳浮腫」や「高地肺水腫」といった「重度の高山病」を引き起こし、非常に稀にですが危険な状態に陥ることがあるという点です。症状を甘く見ずに、くれぐれも無理のないように気をつけましょう。

<参考>一般社団法人 日本登山医学会 http://www.jsmmed.org/info/pg51.html

ネモ先生の豆知識

高山病の頭痛と片頭痛の機序はよく似ています。高山病は主に「酸素の欠乏」による「脳血管の拡張」ですし、片頭痛は主に「疲れ」により「血糖値が低下」し「脳血管が拡張」するといった具合です。どちらも脳血管の過剰な拡張による症状の現れなのですが、そんなときはコーヒーが効果的です。コーヒーに含まれるカフェインの作用で血管の収縮が促進され症状の緩和に役に立ちます。
また、砂糖にも血管を収縮させる作用がありますから、砂糖を入れた甘めのコーヒーは脳血管拡張解消と疲労回復もでき一石二鳥です。私もコーヒー好きで普段は主にブラックですが、「山でのコーヒーは砂糖を入れた甘め」を意識していきたいと思います。

プロフィール

根本 国彰

はり・きゅう師、碓井流活法会員、日本森林保健学会会員
からだ・自然Labo~空【ku:】~院長
多くのクライマーや登山者のケガや症状を診てきた経験から、一昨年より関東周周辺のクライミングジムで「クライマー治療室」を定期開催している。『山と溪谷』や『CLIMBING joy』、その他山岳雑誌などでクライミングや登山に関する身体のケア方法を紹介している。

鍼灸師 ネモ先生の山と身体の羅針盤

鍼灸師・活法師の根本国彰氏が、登山やクライミングに関した身体の悩み、症例、対策などを紹介。登山ライフの指針となるカラダの情報を説明します。

編集部おすすめ記事