アルプスでよく見かける高山植物、「ヨツバシオガマ」と、その仲間たち

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鳥のツルの頭のような形の紅紫色の花を付けるヨツバシオガマは、日本アルプスなどの高山帯でよく見かける高山植物の代表格だ。東北・北海道でもよく見かけるが、実は近年の調査で別種であることがわかった。ヨツバシオガマと、その仲間たちについて確認してみた。

 

ヨツバシオガマは日本アルプスの高山帯に生える高山植物の代表格だ。それほど大きな花ではないが、紅紫色の花がよく目立つ。高山を歩いていると、よく見られるので最初に覚える高山植物としてもいい花だ。

茎の途中から段々に生える葉が、一箇所から四方に4枚出るから四葉塩釜。しかし、葉が3~6枚出る個体もあるのがおもしろい。草丈は20㎝程度のハマウツボ科の植物だ。

ヨツバシオガマ。北アルプス立山室堂で撮影

花のひとつひとつをよく見ると、筒状の萼(色の濃い花の一部)からラッパ状の花冠が出てきて、さらに先端で上下に分かれる、独特な花の作りをしている。

花の上部は鳥のツルの頭のような形になり、先端からは雌しべが突き出る。花の下半分は広がる。この小さな花が茎からよっつ出て、壇状に咲く。花は下から咲いていき、花の上部が咲くころには、下の方はもう果実になって膨らんでいることが多い。

あちこちの山に登っていると気が付くのだが、ヨツバシオガマは東北や北海道の個体のほうが大きい。実は近年の遺伝子調査によって、北アルプスなどのヨツバシオガマと、飯豊山以北に分布する大型のヨツバシオガマは別種であるということがわかり、東北や北海道のヨツバシオガマにはキタヨツバシオガマという名前が付いた。以前は北海道でも北アルプスでも同じヨツバシオガマだったが、今ではふたつの名前を使い分ける必要がある。

キタヨツバシオガマ。東北の早池峰で撮影。ヨツバシオガマと比べると花穂が長く大型だ

 

キタヨツバシオガマの葉。茎の途中からきれいに4枚の葉が出ている。

高山植物のルーツの多くは、北極圏付近に生えていた寒さに強い植物が、氷河期に日本にやってきて、暖かくなると高山に取り残されて生き残った植物だと考えられている。ヨツバシオガマもそのひとつ。古い氷河時代に北極圏からやってきて暖かくなった時に高山に残されたのがヨツバシオガマで、新しい氷河期に北極圏からやってきたのがキタヨツバシオガマのようである。

大きく強いキタヨツバシオガマが新たに北からやってきて、ヨツバシオガマを駆逐したのであろうか、それとも温暖な時期に北海道や東北のヨツバシオガマは生き残ることができず、そこにキタヨツバシオガマが入り込んだのだろうか。

ほかにもヨツバシオガマの仲間はいくつかある。花の上側のクチバシ上のものが長く伸びるものをクチバシシオガマといい、本州中部に分布する。

クチバシシオガマ。上信越国境の谷川岳で撮影。本当に鳥の頭のように見える

礼文島のキタヨツバシオガマは日本のヨツバシオガマの中でも特に大型で、草丈が1m近くになるものもあり、レブンシオガマと呼ばれる。レブンシオガマは、もはや四つ葉でもなく葉が5~6枚輪生することもある。

レブンシオガマ。北海道の礼文島で撮影。大きく派手で、茎から葉が6枚出ていた

ヨツバシオガマは、多彩で変化が大きい高山植物だ。山に登るたびによく見てみると、よりヨツバシオガマの面白さが分かってくるだろう。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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