不安な登山者・パーティーと山ですれ違ったとき。声をかけるべき?お節介は不要?

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山で、ちょっと不安な登山者とすれ違った時、どうすれば良いのだろう。声をかけるべきか、それともお節介はすべきではないのか・・・。皆さんならどうします?

不安な登山者・パーティに注意するべき?

質問:
先日、「この時間に出発して、どこに行くんだろう?」という登山者とすれ違いました。最寄りの山小屋を目指すとしたら、日没が過ぎるのは間違いないと思います。自分より明らかに年配の方々だったので、そのまま見送ってしまいましたが、その後、無事だったのか気になってしまいました。
声をかけて注意すべきだったのでしょうか? やんわり注意する方法があれば教えてください。

 

いきなり、直球の質問ですね(笑)。「この時間に、こんな所を歩いていて、どこに行くんだろう?」・・・、おっしゃるとおり、そんな心配な登山者は増えました。

以前だったら「登山では早発ち、早着きが安全な行動パターン。アナタ、何やってんですか?」と言ったり、「夕方3時には目的地に到着! と予定を立てていたら、天候が悪かったり、足元がぬかるんでいたり、バテて歩きが遅くなった仲間がいたりしても焦らずに行動できる」など教えたりしてきました。

けれども、そんな「良識」とは関係のない人が増えすぎて、正しいことを言えばウルサイおじさんと思われるだけになってしまいました。

そういえば、先日はこんな経験もしました。ある山小屋でストーブを囲んで談話しているパーティの会話に聞き耳を立ててみると――

どうやら、このパーティはメールのやりとりだけで(少なくとも肉声では会話もしたことのない)、実際に会ったこともない「仲間」と山小屋で集合して初顔合わせの様子。みんなで自己紹介、「明日はどこ行きます。あっそうなんだ! 一緒に行っていいですか?」なんて会話も聞こえてきました。

こうした方々に「あのねぇー、山はねぇー、そんなんじゃダメなんだよ」と言っても、疎まれるだけです。話しかけられたときには、少し感じの悪い答え方をしてしまいましたが・・・。

 

ソフトに話しかけて、たしなめるしかないかなぁ・・・。

さて、真面目に回答すると、こんな場合はできるだけ穏やかに「どちらまで行かれますか?」と聞くのが良いと思います。もしかしたら、「いや、もう引き返すつもりです。大丈夫ですよ」、なんて話になるかもしれません。

心配した通り、「いやぁ、8時頃には着くんじゃないの。僕、小屋では食事しないから」なんて言ってきた場合は、暗くなっても行動できる準備があるか・ないかを尋ねると良いでしょう。ここで、「ライトはない、いざと言う時のビバークの準備もない」となった場合に次を考えましょう。引き返すように勧めるか、予備のヘッドランプを貸してあげるか、となるのではないでしょうか。

余談ですが、自分はヘッドランプを人に貸した経験が人生で3回あります。その中の1つは以下のような話でした――。

夕暮れ時の奥多摩・大岳山の下りの鋸山、小学生らしい子供を連れた3人家族を発見。事情を聞くと、御岳山から大岳山に登ったら「奥多摩駅へ」の指導標を見つけ、「なんだ、御岳山に戻ってロープウェイ、バスに乗るよりいいな」と、あまり深く考えずに降りだしたら予想に反して厳しい上り下り。
お父さんの膝が痛くなってペースが落ち、鋸山で真っ赤な夕陽を見ながら「困ったなぁ」と休んでいる時に、僕が偶然通りかかって、お節介にも「これから下りですか? ライトはありますか?」と尋ねた、という訳でした。

相手は初心者だし、子供の前でお父さんを叱り飛ばす訳にもいかないし、という気持ちで自分のヘッドランプを提供。本当は一緒に降りてあげるのが人の道なんでしょうが、その日は夜に約束があり、まだガイドになる前の話。予備のヘッドランプの準備もなかったので、大ダワに向かい暗くなっても安心の林道へと駆け下りました。

後日、丁寧な手紙と共にヘッドランプと「花キューピット券」が送られてきて(その家族は、お花屋さんだったのです)、無事であったことと礼節を知る方だったことににホッとした、そんな経験もありました。

さて、どう見ても心配な登山者に「君たち!」なんて真面目に説明しても相手にされないうえに、疎まれるだけです。旅行会社のツアー登山などでも、高速道路が渋滞してスタートが遅れても、予定通りの行程・平気で真っ暗になって山小屋到着が当たり前。そんな環境で登山を覚えた人が主流派になっている現状では、ソフトに語りかけて、たしなめる程度が精一杯かもしれません。

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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