南アルプスの高山帯だけに咲く、美しすぎる花「タカネビランジ」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

山はだいぶ秋らしくなってきたようですが、まだまだ花が楽しめます! 今回は、南アルプスエリアでよく見られる「タカネビランジ」について、植物写真家の高橋修さんが教えてくれました。高橋さんいわく「美しすぎる花」だそうです!

 

タカネビランジは南アルプス周辺だけに分布する高山植物。高山植物は美しいものが多いが、タカネビランジほど派手で美しく見ごたえがある高山植物は少ないだろう。高山帯の巨岩の割れ目やザレ場に生え、花の最盛期には葉が見えないほど高密度に咲き、花だけをそこに置いたかのよう。花色も白色からピンク色の濃いものまで変化に富んでいる。

殺風景で無機質な岩場に不釣り合いな花束が突如現れ、そこだけに優美な世界が広がっている。のどが渇いた旅人が見る砂漠のオアシスのような、泥の中に咲く一輪のハスの花のような、暑い夏の日に、汗だくだくになって稜線にたどり着いた登山者が、やっとタカネビランジを見られると、そんな世界に包まれるのだ。

南アルプスの高山帯で広くみられるが、この花に出会うには、岩が多く岩色が白い花崗岩の山、鳳凰三山がおすすめ。鳳凰三山の稜線は、この白い岩の割れ目に咲くタカネビランジが、もっとも美しく見える場所である。

花期は7月下旬から8月下旬にかけて。株によって花期の変化が大きく、全体としてかなり長い期間咲く。花の直径2.5~3㎝。萼筒や茎に毛が生える。関東信越地方の山にはよく似たオオビランジがある。オオビランジは萼が無毛。

ビランジとは変わった名前だが、その名前の意味は不明である。タカネビランジの仲間をマンテマ属というが、このマンテマという名前もよくわかっていない。名前の由来がはっきりしない、ミステリーに満ちた植物なのだ。

1 2

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

編集部おすすめ記事