ヤマビルの体はどうなってるの? 吸った血はどこへ行くの? 解剖してお腹の中を見て見ると・・・

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小さな体で血を吸うヤマビルは、吸血すると小豆粒のようにふっくら膨らみます。ヤマビルのお腹の中は、いったいどのようになっているのだろう? 誰もが気になるテーマです、ね? (知らなくてもいい?)  きっとお腹の中は風船のようになっていて、ここに血をためているのだろう、そう思っていましたが…。子どもたちの研究の成果をご覧ください。

 

解剖している研究員


早速、ヤマビルのお腹を切り開いてみると、風船ではなく、中にいろいろな臓器がつまっていました。ヒルが吸った血はどこに入っていくのだろう、と話し合いました。ヤマビルの親せき、チスイビルの解剖図が手に入り、合わせてみたら、消化管は細いすじのようでした。

チスイビルの解剖図 [参考文献  日本動物解剖図説 1971 森北出版]


この中央を通る細い消化管(赤色)に、たくさんの血が入って、大きくふくれるとは考えられません。それで、解剖図に色を付けてわかりやすくすると、「嗉嚢・嗉嚢盲管」という人間にはない臓器が、かなりのスペースを占めていることがわかりました。ここに、血を貯めているのではないかと思い、解剖を進めていきました。

この中をもう少し切ってみよう


実体顕微鏡で観ながら解剖を進めると、嗉嚢・嗉嚢盲管がはっきり見えました。

そこで、本当にここに蓄えられるかを確認するために、ヒルの口から注射器で牛乳を押し込んでみました。内臓を傷つけないように慎重に解剖してみると、袋のようなものがいくつかあり、それをつぶすと牛乳が出てきました。嗉嚢盲管に牛乳が入っているのがわかります。

嗉嚢盲管から牛乳が出てきた


今度はそれを詳しく確かめるために、先にヒルを解剖して、実体顕微鏡下で牛乳を入れてみたら、ちゃんと嗉嚢盲管に入っていくのが確認できました。

実体顕微鏡下で確認する研究員2人


ヒルが吸血するときは、まず前の部分を膨らませて吸血し、そのあと後ろの方に血を送る動作をします。嗉嚢に吸い込み、それを嗉嚢盲管に移して貯えているのです。この解剖結果と一致します。

以上の解剖と嗉嚢盲管に血液を貯めることを見つけたことで、「子どもヤマビル研究会」は、2018年三重生物研究会において、「中日新聞社賞」を受賞しました。

次に、ヒルは一度にどのくらいの血を吸うのか、測定してみました。注射器で口から水を入れ、吸血したときと同じくらいの大きさに膨らませます。

注射器で水を入れてみる


個体差はあるけれど、測ってみると、大体0.3cc~0.8cc(平均0.6cc)くらいでした。

この量、どう感じますか? ヒルに吸血された後は、服が真っ赤になるほど血が出るので、たくさん吸血されるように思いますが、ヒルの体に入るのは、たかだか0.8ccだったのです!! むしろ、出血が止まらないので、大量の血を吸われたような錯覚に陥るのでしょう。

本題に戻ります。ヒルは、雌雄同体です。移動距離もわずかなので、交接して産卵する過程を効率よくするために、生殖器は他の臓器に比べてとても発達しています。一番大きく目立っているのが、膣です。お腹を開くと、一番に目に飛び込んできます。最初のころは、心臓かと思っていました。

ここから産卵した卵は、ハチの巣構造になっていて、卵塊と呼ばれています。柔らかい地面に産み付けられ真珠のようにとてもきれいです。外径は1cm位です。この卵塊を産む瞬間はきっと神秘的だと想像しているのですが、まだ誰も見ていません。いつかぜひカメラで撮りたいと思っています。

ヤマビルの卵塊。これを産む瞬間は見たことがない


さらに別の研究員が、「山にはたくさんヒルがいるのに、そのお腹を満たすだけの動物と出合えるのかな」と疑問を持ちました。一説には、ヒルは1年に一度吸血すれば、生きていけるとも言われています。それを確かめようと、8月中頃、ヒルを50匹捕まえて来て、解剖して調べることにしました。

一晩で50匹の解剖をやってのけた強者研究員


その結果、50匹のうちの約70%は、嗉嚢盲管に血液を残していましたが、その量は少なく、しばらく前に吸血したということがわかります。残りのヒルは、吸血した形跡はなく、全体としてやせ細っていました。

つまり、満腹のヒルは出てきていなくて、この50匹は、吸血しようと出てきたものばかりだということです。ヒルは、お腹が空いたら吸血しに来る、ということが分かったのです。

このことは、2019年2月に、三重生物研究発表会で発表し、「三重県教育委員会賞」を受けました。

そうなると、ますますたくさんの動物と出合わないと、ヒルは栄養が摂れません。吸血できないと餓死することになりますので、「きっと何かほかのものを食べているに違いない」。子ども研究員の探求心は、食べ物に向いました。

この写真は、解剖したものを標本にしたものですが、消化管ははっきりしています。実際は髪の毛くらいの太さです。食道が長く胃や腸は、肛門近くにあります。

顕微鏡下の消化管(×10)。
たくさんの小さな命を頂いて研究しています。ヤマビルに感謝。


長い進化の過程で、これがはっきり残っているということは、今も使われていることが考えられます。動物に出会えない場合、生命維持のために何か血液以外のものを食べているのでしょう。ヒルはミミズの仲間なので、腐葉土などを食べているのではないかと思っていて、このテーマは現在も調査中です。吸血以外にどんなものを食べて栄養としているか、新たな発見があるかもしれません。

 

***

 

研究員たちは、解剖にも一生懸命取り組み、新しい疑問が浮かんでは、考え話し合い、仮設を立てて、次の実験をしています。

次回は、鈴鹿山脈では、「御在所岳より藤原岳の方がヒルが多い理由」、について研究成果を紹介したいと思います。

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プロフィール

子どもヤマビル研究会

「子どもヤマビル研究会」は、三重県の鈴鹿山脈の麓で、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している団体です。自然や生き物が大好きな小・中学生数名が集まり、身近な自然を観察し、そのしくみを解き明かしていく中で科学する心を身に付け、将来の科学者を志す子を育てたい、身近にいるヤマビルを使って、科学の手法を会得し、自然の不思議さ、偉大さやを理解して、自然に対する畏敬の念を育んでもらいたいという、子ども主体のとてもユニークな研究団体です。

活動はブログでも公開しています ⇒子どもヤマビル研究会

活動が書籍になりました ⇒『ヒルは木から落ちてこない。 ぼくらのヤマビル研究記』

「子どもヤマビル研究会」によるヒルの生態研究

「子どもヤマビル研究会」は、自然や生き物が大好きな小中学生数名が集まって、子どもたちが主体となってヤマビルの生態を研究している。 登山者にとっては、苦手、嫌い、気持ち悪い「ヤマビル」でも、その生態を知れば、苦手意識が減り、いざという時にも冷静に対処できるのでは、という思いから、これまで研究してきた成果を伝えていく。

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