登山計画書、なぜ出さなければいけないの? 

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山に安全・快適に登るために、必要となる技術にはさまざま。技術的な課題から、装備の問題、また危機管理や登山の文化の問題など・・・。
登山の初級者・中級者が直面する、悩みや課題に、山のプロフェッショナルが、処方箋を指南。今回の質問は、「登山届」に関する質問です。

登山届・登山計画書を作成する・出す理由は?

質問:
「登山届を提出してください」や、「必ず登山計画書は作成してください」といった呼びかけをよく聞きます。また、最近では条例で提出を義務付けているところもあります。登山届・登山計画書を作成する・提出するのに、どんなメリットがあるのでしょうか?

 

登山口などで、こんな「尋ね人」の看板を見たことがありませんか?

~山田太郎・62歳・東京都武蔵野市在住・2017年5月15日・・・・山に出かけると言ったまま行方不明。本人の好きな山は奥多摩、丹沢、大菩薩、奥秩父など。当日の服装は青いジャケットに灰色のズボン、メガネを使用~

奥多摩と丹沢ではまったく別の山域なので、さすがに捜索範囲が広すぎです。どうして、こんなことが起きてしまうのか、ちょっと想像を巡らせてしまうわけです・・・。

  • 早朝、目が覚めると空は快晴。「そうだ!山に行こう!」と思い立ち・・・、
  • ザックにカッパとヘッドランプを入れてコンビニでお茶とオニギリ2個を買って、中央線に飛び乗った・・・。
  • 立川に着いたら「青梅線は5分後に発車します」と言うのを聞いて、山梨の山に行くはずが「奥多摩にしよう!」と思いついて青梅線に乗り換えて、気に入った駅で降りて山に向かう・・・

山が心から好きで、晴れた日には家族に黙って山に行ってしまう、山が好きなお父さんにありがちな行動です。

こうした看板やポスターを見ると、そんな姿を想像してしまいます。山を知らない家族は、帰って来ないお父さんについて、話をつなぎ合わせて「奥多摩や丹沢」と警察に相談に行ったのでしょう。しかし、これだけの情報では、さすがに捜しようがありません。

 

「山に冒険に出かける」という自覚が登山届です

『登山計画書』までは行かなくても、早朝の出発前にテーブルに「晴れているので奥多摩の高水三山に軍畑駅から登り、御獄駅に降りる予定で歩いて来る。晩飯はウチで食う」とでも書いた手紙でも置いておけば、捜索する側の状況は全く違ってきます。

登山計画書は、自分が「山」という不確定な要素がギッシリと詰まった変化に富んだ場所に、「冒険」に出かけるという自覚と共に作られるものです。

前に想像した例であれば、遭難してしまった本人は「えっ、1000mあるかないかの山だよ? 間違いなんかあるはずがないよ」と思っていたに違いありません。

しかし、ちょっと考えにくい「万が一」、例えば・・・、
赤土の斜面で尻餅ついて登山道から転げ落ちることだったり・・・、本人も知らなかった内科疾患で行き倒れになったり・・・、
が、いつ自分に降りかかるのかを、想像しなければならないのです。

行き当たりばったりではなく、計画を立てて準備をして山に向かう、その最初の一歩として登山計画書を考えてみてください。

現在、劔岳や谷川岳の「登山条例」とは別に、急速に罰則規定も含む「登山届の義務化」が言われだしています。このキッカケとなったのは、忘れもしないあの事件からです。2014年の9月、御嶽山の噴火――。
行政や警察が、山という不測の事態の発生しうる場所の入山者を完全には把握していなかったことに対して、各方面からの「何やってんだ」の声が、現在の登山届の義務化への流れです。

登山者は単なる「決まりだから従う」だけでなく、山という場所が観光旅行とは違うという事を認識するためにも、登山届は意味があると考えてください。

 

プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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