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主要山域

常念山脈

常念山脈

写真:穂苅貞雄  明科町・長峰山からの常念山脈。左から常念岳、横通岳、大天井岳、有明山と燕岳(背後)、東餓鬼岳、中沢岳

 北アルプス南部の槍・穂高連峰と梓川を挟んで平行する常念山脈は、東側の松本平から2000m近い標高差でそびえている。
 北は餓鬼岳から東沢乗越を経て燕岳、大天井岳、東天井岳、横通岳(よこどおしだけ)、常念岳、蝶ヶ岳、大滝山と続いて標高を下げ、樹林の濃い徳本峠(とくごうとうげ)から霞沢岳を盛り上げ、梓川の谷で切り取られている。
 最高峰は大天井(おてんしよう)岳(2992m)だが、山脈を松本平から見上げたとき、最も美しい三角錐の常念岳(2857m)が、中央ということもあって山脈の名になっている。山麓の人々は、昔から「西山」と呼び、あるいは燕岳、大天井岳などを漠然と「屏風岳」と呼んでいた。里人にとって恐れより親しみのある山々であった。
 この常念山脈は中央構造線(フォッサマグナ)の西縁に起伏していて、雪食、水食も加わり東斜面は急傾斜、西側は穏やかな緩斜面で、非対称山稜になっている。
 地質は餓鬼岳から常念岳までが風化しやすい新期花崗岩で、岩塊と砂礫の明るい山稜である。常念岳中腹から霞沢岳までの南部は秩父古生層の粘板岩や砂岩、礫岩の山に変わる。蝶ヶ岳や大滝山には舟窪や二重山稜が多く見られ、水の溜まった池も多い。
 北の花崗岩地帯ではコマクサなど乾性の高山植物が見られ、南の秩父古生層の山には中性高山植物のお花畑が広がる。蝶ヶ岳には残雪期に蝶の雪形の現れるお花畑がある。
 この山脈は、山麓の豊科町に住んでいた高山蝶研究家で山岳写真家の田淵行男が野外研究のステージにしていた所で、常念岳・一ノ沢から常念乗越、常念岳、蝶ヶ岳などを結んで上高地に下るコースを「アルパイン・バタフライ・コース」と名づけたほどで、高山蝶9種すべてが見られたという。現在ではもはや幻の高山蝶の道であるが、豊科町の田淵行男記念館は一見の価値がある。
 蝶ヶ岳を中心とした山稜は、穂高連峰の大展望台としてよく知られ、梓川の深い谷を挟んで氷河遺跡のカールやU字谷をじっくり観察できる。何よりも豪華な岩と残雪のアルペン風景が圧巻である。
 北端の餓鬼岳と唐沢岳、南端の霞沢岳と六百山はともに人影の少ない、味わい深い山々だ。本当の山好きのための、とっておきの山。玄人好みの、渋くて奥行のある山々である。霞沢岳への登山道がある徳本峠は、日本の近代登山史の夜明けを告げた峠だ。W・ウエストンも、小島烏水も、黎明期の登山者は長い島々谷を遡って峠に立ち、明神岳や穂高の山々に心を奪われ、憧れを抱いて下っていったのである。

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常念山脈の主要な山

大天井岳

2,922m

常念岳

2,857m

東天井岳

2,814m

横通岳

2,767m

燕岳

2,763m

蝶ヶ岳

2,677m

餓鬼岳

2,647m

霞沢岳

2,646m

唐沢岳

2,633m

大滝山

2,616m