梅雨時期に咲く変な名前の高山植物「チョウノスケソウ」

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梅雨は、雨の日が多くてイヤだなと感じている方も居るのではないでしょうか。でも、梅雨ならではの良さが山にはあるんです! 今回は、梅雨時期に見かけることの多い不思議な名前の花について、植物写真家の高橋修さんが教えてくれました!

 

今年の日本アルプスは、例年よりもはるかに雪が少なくて、花がどんどん咲き過ぎている。花を追って日本各地を飛び回っている花好きには、難しい年になった。

チョウノスケソウは、ずいぶん変な名前の高山植物である。名前が印象的なのに、高山でこの花を見ることは少ない。数が少ないうえ、高山植物の中では開花が早く、梅雨が終わった夏山シーズンには、もう花がないことが多いからだ。チョウノスケソウは花が終わると、雌しべはねじれながらぐんぐんと伸びていく。夏山シーズンにはこの状態であることが多く、花は見当たらない。

さて、チョウノスケソウの「長之助」とはダニイル須川長之助氏のことである。誰だそれ、といった感じではあるが、長之助は江戸時代後期、極東地域の植物を研究していたロシアの植物学者マキシモビッチに協力し、植物採集を行った日本人で、その後キリスト教正教会で洗礼を受けダニイルという聖名になった人物。

江戸時代から明治の初期、日本の植物研究は世界基準から大きく遅れており、当時の先進国ロシアの植物研究家が日本で植物採集をして研究を進めていた。しかし当時、外国人は日本国内を自由に旅行することができず、須川長之助が代わりに植物採集旅行に出かけていた。マキシモビッチは長之助の協力を記念し、多くの植物にチョウノスキーというロシア風の名前を学名につけている。

のちに日本を代表する植物研究家の牧野富太郎氏が、長之助を記念して、この高山植物にチョウノスケソウと命名したのが名前の由来。

花の直径は2~3㎝。花弁は8枚のものが多い。岩の上をはうように伸びる。なお、背が低く、草のように見えるチョウノスケソウだが、草ではなく木で葉の下には幹がある。名前も見かけもアンバランスな高山植物なのである。

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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