夏の代表的な高山植物ハクサンイチゲは、一花でもなければ白山だけにあるわけでもない

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雪どけとともに山は花の季節をむかえるわけですが、雪どけとともに咲き始めるハクサンイチゲについて、植物写真家の高橋修さんが名前の由来を解説してくれました!

 

高山の草原で白く大きな花を咲かせるハクサンイチゲ。雪が解けるとすぐに咲き始めるハクサンイチゲは日本の高山植物の代表格だ。

ハクサンイチゲ(白山一花)は、梅雨明け後にさまざまな山域で見ることができる


ハクサンイチゲもそうだが、高山植物には「ハクサン」という名前の植物が多い。ハクサンフウロ、ハクサンチドリ。「ハクサン」は「白山」のことで、加賀の白山を意味する。なぜ、この山の名前を持つ高山植物が多いのだろうか。

日本の植物研究は、本草学として古くから続けられてきた学問が、西欧の文化を受け入れ、植物学として発展した。明治時代になって植物の研究が進むと、高山が研究対象となり、登山道があって山の案内人のいる山で調査が始まる。白山は、宗教登山の山として江戸時代から登られてきた歴史がある。当時の植物研究家は、白山で多くの植物を発見し、植物に山の名前を付けたのだ。

その後、日本中の高山が登られるようになり、白山以外でも同じ高山植物も見つかった。このため白山以外の高山にも生えているのに、白山の名を持つ高山植物があるようになってしまった。しかし、一度付けた名前は簡単に変えることはできない。植物研究の歴史がハクサンの名前に残っているのだ。

ハクサンイチゲには花がたくさんついているのに「一花」これはなぜだろうか。ハクサンイチゲ(白山一花)のイチゲとは、ハクサンイチゲなどイチリンソウ属の植物に多く付けられる名前だ。このため、花が一輪でなくてもイチゲの名前が付いた。

ハクサンイチゲは白山以外でも見られ、一花だけではなくたくさん花が咲かせる。名前と見た目とが一致しない高山植物なのである。

 

プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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