特別インタビュー 『グレートトラバース』田中陽希、次なる挑戦を語る(後編)

NHK BSの番組『グレートトラバース』として、そのチャレンジが全国的に大きな話題を呼んだ「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」。アドベンチャーレーサーとしてチームイーストウインドに所属し、世界大会に挑み続ける田中陽希さんは、再び少しの間レースから離れ、新たな旅に出る決意をした。2018年正月から1年以上をかけて「日本3百名山全山ひと筆書き」に挑む。次は一体どんな旅になるのか・・・。心に秘めた想いと、イーストウインドにおける2017年度の活動について聞いた。

写真:コテツ(小暮哲也) 文:千葉弓子(GRANNOTE

【前編】2018年、「日本三百名山全山ひと筆書き」に挑戦からの続き

 

チームイーストウインドは「優勝」を目指す

編集部: ご自身のチャレンジとは別に、所属するチームイーストウインドでは今年、『エクスペディション・アフリカ』と『世界選手権(アメリカ)』の2つに参戦されます。

田中陽希: チームとしては2つのレースのいずれも優勝を目指しています。これまでのチームイーストウインドの最高順位は2位。アドベンチャーレースは不確定要素が多いので、優勝を目指していくべきだと考えています。
 実際には僕らが優勝する確率は10%にも満たないかもしれませんが、レースでは最後まで何が起こるかわからないことは身をもって経験しています。たとえば昨年の『パタゴニアン・エクスペディションレース』では、途中まで独走状態で進んでいましたが、キャプテンの田中さん(田中正人)が大怪我をするというアクシデントに見舞われ、2度もリタイアに追い込まれながら、結果2位でゴールしました。
 チームが優勝する確率が低いのであれば、それを上げる努力をすればいいだけのこと。目標を下げれば、達成できる確率は高くなりますが、それでは僕らの実力は上がりません。優勝を目標に掲げるということは、90%実力をアップする必要があるということ。そのためにはかなりの覚悟がいりますから、メンバー全員のトレーニングの取り組み方も全く変わってくるわけです。

編集部: 5月の『エクスペディション・アフリカ』は波瀾万丈のレース展開だったと伺っています。

田中: そうなんです。かなり苦戦しました。何が起こるかわからないアドベンチャーレースでは、最後の最後まであきらめずに突き進んだチームにのみ栄光が与えられますから、僕らもとにかく諦めずに進みました。もちろん、このレースでも目標は優勝でした。たとえ他国の強豪チームより優勝できる可能性が低かったとしても、スタートから自分たちの限界に挑戦し続けようとメンバー全員で決め、それを実行しました。どんな状況下でも、保守的な判断より積極的な判断をしていこうという気持ちで結束していたといえます。

田中陽希さんが所属するチームイーストウインドは、8月8日~16日(レース期間は8/12~16)の期間、アメリカのワイオミング州で開催されるアドベンチャーレース世界選手権「CAMECO COWBOY TOUGH」に出走する。イーストウインドのWebサイトでチームの最新情報を発信しているので、ぜひチェックして日本から応援しよう!

 

真夜中の砂丘をさまよった『エクスペディション・アフリカ』

編集部: どんな大会だったのでしょうか?

田中: 開催地は南アフリカ共和国です。美しい海岸線が魅力のポート・セントフランシスという町に、13カ国39チームが集まりスタートしました。総距離は約500km、制限日数は6日間です。
 このレースでは主にトレッキング(ラン)、マウンテンバイク、カヤック、ロープアクティビティの種目を行いました。主催者から渡される競技地図に記された11カ所のトランジッションで競技種目を入れ替えながら進んでいき、さらに地図に記された52カ所のチェックポイントをすべて通過しなくてはなりません。

編集部: トップのスピードも速かったそうですね。

田中: ハイスピードのレースでした。アドベンチャーレースにおけるスピード化の流れは、年々加速している気がします。トップは72時間でゴールすると予想されていましたので、僕らは3日間、寝ないつもりでレースを進めていきました。
 優勝するためには、どんな状況下でも冷静な判断をし、ミスを最小限にとどめなければなりません。イーストウインドは序盤から全力疾走で目標に向かいましたから、その甲斐あってレース中、一度はトップに立つ場面もありました。でも、心身ともに余裕のない状態がずっと続いていました。
 優勝したスウェーデンチームとの実力差は歴然で、精神的な強さでどうにかできるという問題ではないことをレース中にすでに感じていました。それでもわずかな望みにかけ、最後の48kmのトレッキングセクションまで、メンバー全員の士気が落ちることはありませんでした。

アメリカ出発前、成田空港で手続きをするの田中陽希選手とチームイーストウインド

 

編集部: とくに苦労したのはどんな点でしたか。

田中: メンバー全員が、これまでに経験したことがないような極度の疲労と睡魔に襲われたのです。そして真夜中の砂丘をさまよい続けることになってしまいました。朦朧としていたので、この時の記憶はほとんどないのですが、すごく長い時間に感じたことだけは覚えています。輪廻のごとく、同じ場所を何度も何度も回り続けていたような気がします。その感覚だけは、いまでも残っているんですよ。
 この砂丘のセクションで、僕らはなんと23時間も費やしてしまいました。これは出場チーム中、最下位のタイム。結局このタイムロスが最後まで響いて、3位以内にも届かない6位でフィニッシュすることになってしまいました。

編集部: 日本で応援していたファンの皆さんも固唾をのんでトラッキングを見守っていました。

田中: 目標を達成することは出来ませんでしたが、ギリギリの状況でも常に攻めの姿勢を崩さずにレースを続けられた点は、次のレースでも活かせると確信しています。だからレース終了後、メンバー全員が口を揃えて言ったのです、「悔いはない」と。
 いま世界のトップ10に入っているチームのすべてが、本気で優勝を目指しています。つまり、優勝を狙えるような拮抗したレベルのチームのうち1チームだけが、実際に優勝できるわけです。そして入賞を目標にしているチームが、その下の20位以内に入ってくるという状況です。ですから、たとえ確率は低くても、優勝という高い目標を掲げることに意味があります。それによってトレーニングのモチベーションも高まりますし、結果として優勝に手が届くまでの時間も短くなると考えています。
 次の世界選手権では髙濵康弘が加わります。ぜひ期待していてください。

※インタビュー初出:ワンダーフォーゲル2017年6月号

 

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田中陽希さんのアドベンチャーレースの師匠であり、所属チーム、イーストウインドのキャプテンである田中正人さんとともに書き下ろした新刊。アドベンチャーレースという過酷な世界に挑み続けてきたこれまでの人生を、余すところなく書き綴った話題作。日本百名山への挑戦への思いや舞台裏も紹介されている。全国の書店、オンライン書店で好評発売中! 電子書籍あり。

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教えてくれた人

田中 陽希(Yoki Tanaka)

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む『日本百名山ひと筆書き』『日本2百名山ひと筆書き』を達成。イーストウインドの次期キャプテンとして期待される。