世界の屋根ネパール・ヒマラヤの麓でトレッキングを楽しもう~入門編

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8000m峰が8座もある、ネパール・ヒマラヤ。そんなネパールでのトレッキングと聞けば、高度な登山技術と十分な体力が必要なのでは? そう考える人が多い中で、「登山初心者でも楽しめる」ヒマラヤ・トレッキングの実際について説明する。

 

世界には8,000m峰が14座あることは、山好きの読者の皆さんであれば、どこかで聞いたことがあるでしょう。そのうち、世界最高峰のエベレスト(8,848m)を含む8座がネパール・ヒマラヤにあります。

「世界の尾根」とも言われるネパール・ヒマラヤ山脈には、神々が住むと言われ、古くから信仰の対象となっている山々が数多くあります。白銀に輝き神々しく聳えるその姿を、山好きの方であれば一生に一度は眺めてみたいと憧れる方が多いのではないでしょうか。今回はそんなネパールでのトレッキング事情について詳しくご紹介したいと思います。

エベレスト街道からのネパール・ヒマラヤの大パノラマ

 

8000m峰には登りません! ヒマラヤ展望トレッキングは誰でも楽しめます

8000m峰が続くネパールでのトレッキングと聞けば、ハードルの高い技術・体力レベルが必要と考え、「私には無理」と敬遠するのも無理はないと思います。しかし、実際には8000m峰を登るわけではありません。ヒマラヤ山脈を望みながら歩くのがネパール・トレッキングのスタイルなのです。

初心者から上級者まで楽しめるコースが豊富にあり、自身にあったレベルのコースが必ず見つかるのがネパール・トレッキングの大きな魅力のひとつとなっています。

したがって雪山技術は不要、日本アルプスのような梯子場やクサリ場などもありません。ネパールの山間部には多くの人が暮らしており、地元の人々が普段から使っている生活道を歩くのが、ネパール・トレッキング・スタイル。ヒマラヤに抱かれた山中に点在する村を巡り、そこに生活する人々に暮らしに触れながらヒマラヤの山々の眺めを楽しむことが醍醐味なのです。

ヒマラヤトレッキングは手を使うような危険箇所を歩くことはない

村人たちが使う生活道を歩きながらヒマラヤを眺めるのが「ネパール・トレッキング・スタイル」

ネパール・トレッキングの始まりは、今から約60年前。鎖国を解いたばかりのネパールに、イギリス人が山岳民族のシェルパ族を道案内と荷物運搬人として雇い山歩きをしたのが始まりで、このスタイルは今も受け継がれています。

ポーターがトレッカーの荷物を運んでくれるので体力的にも安心。コースによっては家畜(ゾッキョ)がトレッカーの荷物を運んでくれる

トレッキング中は宿泊地(ロッジやテント)で必要な荷物、つまり歩いているときに不要な荷物は、専属のポーターやゾッキョが運んでくれるのです。そのため、トレッカーは日帰り登山で使用するデイパックひとつでトレッキングを楽しむことができます。したがって、2泊3日程度の短いコースはもちろん、10泊以上のロングコースも同様なので、日帰り登山レベルからアルプス縦走経験者まで、幅広いレベルが楽しめるようになっています。

 

8000mは行かないけど、かなり高い標高まで行く場合もあります

ヒマラヤ・トレッキングは、実際にどのくらいの標高まで上がるのでしょうか? これはコースによって大きく変わります。詳しいコースについては次回に譲りますが、標高1000m程度からヒマラヤの大展望を楽めるコースもあれば、3000mを超える高所で宿泊する場合もあります。

トレッカーの憧れでもあるカラパタ-ルからのぞむ世界最高峰Mt.エベレスト。カラパタ-ルの標高は5,545m

標高が上がると心配なのが高山病で、コースによっては影響を強く受ける場合もあります。高山病について少し触れておくと――、まず、人間の体は睡眠時に低酸素の影響を大きく受けるため、最高到達地点ではなく最高宿泊地点に注意が必要です。

また、「水分をしっかり補給すること」や「常に深呼吸を心がけること」などで高所の影響をできるだけ少なくすることはできますが、高山病の一番の薬は標高を下げることです。初期症状が現れたあとの判断を誤り、無理をして標高を上げ続けることが一番危険で、時には命に関わることもあります。過度に心配する必要はありませんが、高所トレッキングにチャレンジする場合は経験豊富なガイドやリーダーが同行するツアーに参加されることを強くおすすめします。自分にあったコースを見つけて、安心できるガイドやリーダー同行のツアーに参加すれば、万が一の際のレスキュー体制など余計な心配をせずにネパール・トレッキングを楽しめると思います。

日本とは異なる環境でのトレッキングにストレスを感じ、高山病の引き金になる場合もあるので、初めてネパール・トレッキングにチャレンジする場合は、標高の低いコースを選ぶのも良いでしょう。

人気の展望台プーンヒルからのダウラギリⅠ峰(8,167m)。プーンヒルの標高は3,194m、北アルプスの稜線程度の標高からでもヒマラヤの眺めが十分に楽しめる

 

意外と温かいネパール、ベストシーズンは日本の秋から春

ネパールの季節は乾期と雨期に分かれていて、乾期にあたる10月~4月が年間を通じて最も天候が安定し、トレッキングのベストシーズンとなります。

日本と同じ北半球に位置しているので寒い時期となりますが、緯度は奄美大島とほぼ同じ、日本が冬の季節でも比較的あたたかい印象をうけます。

北アルプス程度の標高であれば10月や3~4月の日中は、半袖でトレッキングが楽しめるほどです。一方で最も気温の低い時期は1~2月で、この時期は標高の高いエリアは降雪の影響を受けるために標高4000mを超えるような高所のトレッキングは不適です。

標高3,000m以下であれば日中は半袖や薄手の長袖シャツで快適に過ごせる(写真は3月)

10~11月は空気が澄んでいるので山岳写真を楽しみたい方にはおすすめです。3~4月は気温が上昇するために午後から霞みや夕立に見舞われることがありますが、ネパールの国花ラリーグラス(シャクナゲ)の見頃を迎え、山肌一面が赤やピンク色に染まる大変美しい季節です。

 

トレッキング中の宿泊や食事は進化中。清潔でバラエティに富んできた!

かつてのネパール・トレッキングでは、テント泊でトレッキングをしているトレッカーをよく目にしました。しかし今では、トレッキングのルート上にはトレッカー用のロッジが立ち、年々、その数を増やしています。中には各部屋にホットシャワーや水洗トイレが完備されたグレードの高いロッジもあります。現在はエベレスト街道などのメジャーなルートは、テント泊するトレッカーの姿は、ほとんどありません。

トレッキングコース上の一般的なロッジ

日本の旅行会社や現地のトレッキング会社が主催するツアーに参加すると、衛生面を考えてて、ロッジ泊でも現地のトレッキング会社が準備した寝袋を使用することが多くなり、日本から寝袋を持参する必要はなくなります。食事の際の食器などもすべて現地で準備されています。

清潔感溢れる最高級ロッジのお部屋。ヒマラヤの真っただ中にあるとはとても思えないほどの快適な空間

トレッキング中の食事は年々進化し、内容が良くなっています。特に専属のコックがトレッキングに同行するようなプログラムで提供される食事内容は、バラエティに富んでおり、時にはそばや海苔巻きなどの日本食から、食後のデザートまで作ってくれるので驚きです。

トレッキング中に同行のコックが腕をふるったおいしい料理

 

ネパール・トレッキングは2度、3度とリピートされる人が非常に多い場所です。その理由の1つが、トレッキングをサポートしてくれるシェルパ達です。「一緒に過ごした現地のシェルパ達の笑顔にもう一度会いたい」という理由で再訪される方が多く、これこそがネパール・トレッキング本来の魅力を大変良く現しているのかもしれません。

トレッキングをサポートしてくれえる頼もしく明るいシェルパ達

脚力レベルに応じて誰でも気軽に楽しめる、ネパール・トレッキングにチャレンジしてみませんか。次回はネパールの各山域やトレッキングコースのご紹介をさせていただきます。

プロフィール

小林 博史

アルパインツアーサービス株式会社/本社営業部。同志社大学山岳部出身。学生時代にはヒマラヤ8,000m峰の登頂経験を持ち、未踏峰の頂きも目指した根っからの山男。持ち前の語学力を活かし、ジョン・ミューア・トレイルをはじめとした世界各地のロングトレイルや、キリマンジャロ登山、スイスやカナダのハイキングまで、年間100日以上、ツアーリーダーとして「世界の山旅」を案内している。
〝鉄道オタク〟の一面もあり、日本中のあらゆる路線を制覇することも夢のひとつ。

アルパインツアーサービス株式会社

マッターホルン北壁の日本人初登攀を成し遂げた芳野満彦(アルパインツアー元会長)が、1969年に日本で初めてヨーロッパ・アルプスへのハイキング・ツアーを実施して以来、約半世紀にわたり、世界中の山岳辺境地の山旅を企画、実施してきた。「トレッキング」という言葉を日本に定着させた、世界の山旅のパイオニア的存在。

⇒アルパインツアーサービス

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