大展望と温泉をつなぐ、裏銀座の欲張りルートを歩こう! - 大町登山案内人組合100周年記念・北アルプス裏銀座モニターツアーレポート

1日目:
 見上げた空は、どんよりとした雨雲に覆われていた。しかし、信濃大町駅前に集まった4名の表情は、曇天を気にもしないほど上気している。それもそのはず。彼らは、300組以上の応募者から選ばれた幸運な参加者なのだ。
 1組目は篠崎晃英さんと智里さん夫妻。普段は、日帰りで近所の山に登ることが多いそうで、長期の山行きは久し振りなのだとか。3人目の沢野有希さんは日帰りでトレランに行くことは多いけれど、北アルプスの稜線を歩くのは初めてという。4人目の中島英摩さんは、海外のトレランレースにも出場しているというツワモノだ。「私、晴れ女なんですよ!」と、なんとも頼もしい。
 簡単な自己紹介を済ませた一行は、早速腹ごしらえのために、駅前の商店街にある料理店「わちがい」へ。昔ながらの旧家で、地元の名産である凍り餅やおざんざを使った郷土料理に舌鼓を打つ。食後は、腹ごなしを兼ねて百瀬慎太郎の生家「対山館」があった場所まで散策し、資料館「塩の道ちょうじや」や山の中腹にある「大町山岳博物館」にも足を延ばす。町を歩くと徐々に、これから登ろうとしている山や、その裾野に広がる町のことがぼんやりと理解できるようになってきた。

 「岳の町」大町は古くから交易の要所として賑わう町だったそうだ。町には旅人や商人だけでなく、大正時代になると、山に登ろうとたくさんの人も集まった。その山を案内する案内人をまとめて、100年前に百瀬慎太郎が設立したのが「大町登山案内人組合」。現在の、日本の山岳ガイドの基礎ともいえる組織は、この町で生まれたのだ。
 その険しい山々の奥深くから湧き出る豊富なお湯は麓に大町温泉郷を作り出し、岩盤を通って湧き出る上質の清水は大町を清酒で有名な町にした。昔から山と人々の暮らしが密接に関わるエリアなのだ。
 「大町には登山やスキーで何度も来たことはあったのですが、知らないことばかりでした」と篠崎晃英さんの言葉に、全員が頷く。
 初日は七倉山荘に宿をとった。地酒を飲みつつ、ワイワイとBBQを囲みながら夜が更けていく。明日から目指す山々の全貌は、まだガスの中に隠れてしまっている。しかし、程よく酔いの回った僕らの頭の中には、その輪郭が少しずつ描かれ始めていた。

開放感満点のテラスでのBBQをはじめ、山奥にあるとは思えない充実したサービスが受けられる。食後は山中の秘湯・七倉温泉でゆったり。もちろん、下山後に立ち寄り湯として利用することもできる。
■長野県大町市平高瀬入2118-37 ■電話:0261-22-4006 ■営業期間:4月15日~11月下旬 ■定員:28人 ■標高:1,060m ■宿泊料金:\9,000~(一泊二食) ■テント場使用料:\1,500(温泉入浴付) ■入浴料金:\650(夏季は6:00~19:30)
■URL:http://www.webmarunaka.com/nanakura/

2日目:
 今回のガイドを務める鈴木さとしさんが合流したのは、2日目の早朝のこと。大町登山案内人として、北アルプスを中心に全国各地を忙しく飛び回っている人気ガイドだ。
 この日のルートは、高瀬ダムを出発して北アルプス三大急登の一つ、ブナ立尾根を登る。
「でも、まあ時間の余裕もありますし、のんびり登りましょう。道もきれいですし、言うほどきつくはないですから」
 鈴木さんが本当にのんびりとした口調で言うものだから、少し緊張気味だったメンバーの表情が心なしか緩む。高瀬ダムの真っ暗なトンネルを抜けると、早速噂の急登が一行を出迎える。ここから山小屋までは、ひたすら登りが続くのだ。
 しかし、やはり地元の山を知り尽くしたガイドの存在は頼もしい。ゆっくりと30~40分に一度、5分程度の短い休憩を挟む鈴木さんの作戦が見事にハマった。鈴木さんの作るペースは、全員が無理なく、おしゃべりを楽しみながら登れる絶妙なものだった。
「このお花はコフタバランですね。かなり珍しいですよ。さあ、写真を撮る方はどうぞ、どうぞ」
 さらに、道中はずっと山の地形や高山植物の解説をしてくれる。時折小雨もパラつき、展望は良くないものの、単調な登りでも飽きさせないトークはさすがの口前だ。

 ブナ立尾根は、日本三大急登の一つに数えられるものの、整備が行き届いた登山道は歩きやすく、危険箇所もほとんどない。梅雨が明けてすぐということもあり、登山道脇にはたくさんの高山植物が目を楽しませてくれた。
 「どれもきれいですね。雨の日を楽しむことに気持ちがシフトしてきましたよ」
 導かれるままに写真を撮りまくる沢野さんは、なんとも楽しそう。
 展望がないのならば、遠くを見ずに、近くの森や足元を楽しめばいい。景色がいい日にはなかなか近くに目が向くことはないが、雨の山には雨ならではの楽しみ方があるのだ。
 そうこうするうち、お昼ころには2日目の宿となる烏帽子小屋に辿り着いた。時間はたっぷりある。忙しい日常を離れ、山小屋でのんびりと過ごす時間はなんとも贅沢なものだ。翌日の烏帽子岳登頂に備え、岩の登り方やスリングの使い方を学んだり、写真を撮ったり、ビールを飲んだり、昼寝をしたり。それぞれ、思い思いの方法でゆったりとした時間を過ごした。
 夕食後、夕暮れ間際に後立山の稜線がチラリと姿を見せた。
 「私の晴れ女パワーが効いてきたのかも」という中島さんの言葉を信じつつ、この日は心地いい疲れと共に布団にくるまった。

派手ではないが、木々に囲まれた静かな環境が居心地のいい山小屋。晴れていれば、後立山の向こうに夕日が沈む絶景が素晴らしい。池の畔にテントを張れるテント場も人気。烏帽子岳までは往復1時間半ほど。
■電話:090-3149-1198 ■営業期間:7月上旬~10月10日
■定員:70人 ■標高:2,550m
■宿泊料金:\9,500(一泊二食) ■テント場使用料:\800(1人)
■URL:http://home.384.jp/happy/

3日目:
 目覚めると、窓の外が明るい。まだ所々に雲はかかっているが、この旅で初めての青空が広がっていた。みんなあっという間に朝ごはんを掻き込み、まずは奇岩の山、烏帽子岳を目指す。
 前日とはうって変わり、砂礫の登山道脇には、イワギキョウやコマクサの見事な群生が広がっている。これほどのコマクサの大群生ポイントは、なかなかお目にかかれるものではない。
 今日も鈴木さんの軽快な高山植物解説を楽しみつつ、どんどん烏帽子岳のシュッとした山容が近づいてきた。
 「岩登りも初めてなんですよ…」と不安そうだった沢野さんと篠崎智里さんも、鈴木さんのアドバイスを受けて、軽快に登っていく。辿り着いた烏帽子岳山頂は、まさしく岩の山そのもの。目の前には立山に続く稜線が美しく延びていたが、それも一瞬のこと。思わせぶりな山々は、またガスの向こうにその姿を隠してしまった。

 山小屋に戻り、先を急ぐ。ここから本格的な稜線歩きがスタートする。幸い雨は降っていないが、目指す三ツ岳や野口五郎岳はガスの中だ。しかし、みなさん、気になる高山植物を見つけては鈴木さんに尋ね、鳥の声が聞こえるとライチョウじゃないかと周囲をキョロキョロ。すっかり、天気が悪い日の山の楽しみ方が身についてきている。
 三ツ岳を越えてしばらく、振り返った篠崎智里さんが声を上げた。
  「あらー、すごい稜線が見えてる。こんな迫力のあるところ、歩いてたんだ」
 つられて振り返ると、ガスが切れ、歩いてきた稜線がドーンと見える。ずっと天気がいいのはもちろんいいけれど、急に視界が広がるっていうのも悪くない。これですっかりテンションの上がった僕らは、さらに軽快に歩みを進め、お昼には目的地の野口五郎小屋に到着した。
 プッシュッ。しっかりとストレッチをした後は、また少し早めの打ち上げが始まる。烏帽子小屋でも見たが、小屋に貼られている写真を見ると、やはりここの稜線からの眺めはなんとも素晴らしいようだ。イメージトレーニングは十分。明日こそ、そろそろスッキリと晴れてくれてもいいんじゃない?

裏銀座ルート縦走には、なくてはならない絶妙な立地に建つ頼れる一軒。窪地へばりつくように建つ姿は、ここの過酷な環境を物語っている。夕食は、山で嬉しい天ぷら中心のメニュー構成だ。
■電話:090-3149-1197 ■営業期間:7月上旬~9月下旬
■定員:45人 ■標高:2,924m
■宿泊料金:\9,500(一泊二食)
■URL:http://www.noguchigorou.com

4日目:
 最終日の朝は、まだガスに包まれていたものの、天気は回復傾向の予報が出ていた。すでに恒例となった、出発前の準備体操をするみんなの背中がソワソワしているのがわかる。
 山小屋の鐘の音に見送られつつ、稜線に乗る。野口五郎岳の山頂に着くと、周囲を包んでいたガスが一気に晴れた。
 「これぞ、裏銀座ルートの本領発揮だ!」
 思わず大きな声で叫びたくなるほどの、大パノラマが広がる。双六岳方面から延びてくる後立山の稜線には、鷲羽岳、水晶岳、赤牛岳と名峰がずらりと並び、遠くには槍ヶ岳も姿を現わした。僕らは、早朝の山頂で、4日間溜め込んだ絶景欲をじっくりと満たしたのだった。

 下山ルートには、温泉を目指して下りる竹村新道を選んだ。下山口までの標高差は約1,300mと長い。しかし、「ここまでとは、まったく違う高山植物がたくさん見られますよ」という鈴木さんの言葉通り、初めての高山植物が咲き乱れ、展望も美しいルートだ。毎週のように各地の山に足を延ばしている中島さんも「また景色が変わって、いいですね」とお気に入りの様子。
 標高を下げるにつれ、山は夏山らしい蒸し暑さに包まれる。びっしょりと汗をかいたが、下山する大町は温泉の宝庫。帰りには、山中の秘湯・葛温泉に立ち寄って気持ちよく汗を流した。
 「初めてやってみたかったことが全部体験できました!」と嬉しそうな沢野さんをはじめ、みんなが口を揃えたのは「一度じゃ満足できない。もう一度来てみたい」ということ。大町も裏銀座ルートも、訪れるたびにまた違った表情を見せてくれることだろう。
 温泉と夏の陽気で上気したみなさんの表情は、気持ちよく晴れ渡っていた。

明治時代からの造りをそのまま残した趣のある店内で、地元の食材やお酒を楽しむことができる食事処。丁寧な仕事が光る大町らしい郷土料理をゆっくり味わいたいのならば、ぜひこちらへ。JR信濃大町駅からは商店街方面へ徒歩で約10分。

■長野県大町市上仲町4084
■営業時間:10:00~16:30(L.O)
■定休日:火曜日、第4日曜日
■TEL. 0261-23-7363
■URL:http://www.wachigai.com
 
 
塩の道の宿場町として栄えた信濃大町の歴史がわかる資料館。建物は古くから塩問屋として使われていた貴重なものを活用。カフェスペースもあり、地元食材もいただける。お隣は、百瀬慎太郎の生家である宿「対山館」があった場所だ。

■長野県大町市八日町2572
■開館時間:9:00~17:00(5~10月)、9:00~16:30(11~4月)、9:00~16:00(1~2月)
休館日:第3、4水曜日(5~10月)、水曜日と年末年始(11~4月)
■TEL. 0261-22-4018
■URL:http://www.alps.or.jp/choujiya/index.html
日本で初めて「山岳」をテーマにして作られた博物館。北アルプスを中心に、山の成り立ちや地質、植生など、自然や登山をより深く知るための展示を展開する。登る前に訪れると、いつもとは違う観点から山登りを楽しむきっかけになるかも。

■長野県大町市大町8056-1
■開館時間:9:00~17:00
■休館日:月曜日、祝日の翌日、年末年始
■TEL. 0261-22-0211
■URL:http://www.omachi-sanpaku.com
大町へのアクセス
マイカー利用の場合

中央自動車道→岡谷JCT→長野自動車道→安曇野IC→北アルプスパノラマロード
(東京からの所要時間:約3時間半)

電車利用の場合

JR中央線 特急あずさ→松本駅→JR大糸線→信濃大町駅
(東京からの所要時間:約3時間)

お問い合わせ

 

■大町市の観光について
TEL0261-22-0190
大町市観光協会 http://www.kanko-omachi.gr.jp/
大町登山案内人組合 http://www.omachiguide.com
■モニター特派員ツアーについて
山と溪谷社 Yamakei Online部
yamakei-online@yamakei.co.jp