岩手山
ふるさとの山に向ひて 言ふことなし
ふるさとの山はありがたきかな
この山麓に育った石川啄木の作である。朝夕仰ぎ見る岩手山に対する思いをよく表わしている。山名の由来は諸説あるが春に鷲状の雪形が残ることから巌鷲山(がんじゆさん)の呼名がつき、それが転訛したものとか、岩手郡の名が先にあって、そのシンボルとして名づけられたとかいわれる。
この山は鬼ガ城を南壁とし、屏風尾根を北壁とする西岩手外輪山の東壁に、東岩手外輪山が生じた複式火山だ。東岩手外輪山は裾を長く引き富士山そっくりだが、西側はそれとは異なり尾根状の外輪に黒倉山、姥倉山と続く山容で「南部片富士」と呼ばれている。
登山口は幾つかあるが御神坂(おみさか)口、柳沢口、焼走(やけばしり)口、上坊(うわぼう)口は東岩手外輪山の一角で一等三角点のある薬師岳に直登できるコースだ。網張口、七滝口、松川温泉口は西岩手外輪山に登ってから薬師岳に至る多少の尾根歩きを伴うコース。
コースによって違った面白さがあるのが特徴で、5月中旬、御神坂の標高800mの混合樹林の中にびっしりと咲くカタクリ、イチリンソウの群落は、よそでは見られない光景。6月中旬~下旬にかけて1週間だけ、柳沢口の旧道の4~7合目の岩の間にチングルマ、イワウメ、イワカガミなどが咲きそろう。
焼走口の中腹にある噴気口から上部の火山磔の道では、初夏になるとピンクの花を咲かせるコマクサの大群落が見られる。
西外輪山に登る3コースは鬼ガ城か八ツ目湿原を経由する。田植えのころ、水田にたたえられた水がきらきら輝く雫石盆地を鬼ガ城から見下ろすと、大きな湖の中に人家が浮かんでいるように見える。八ツ目湿原は通称お花畑で、少し脇道に入るとオオシラビソの樹林に囲まれた御釜湖、御苗代湖が鬼ガ城や屏風尾根の絶壁を映して静寂の気配をたたえている。
焼走口、上坊口は合流して避難小屋のある9合目、平笠不動平に達する。ほかのコースはどれも9合目の盛岡不動平で合流する。どちらからも小さな火山礫の道を30分ほど登った東岩手外輪山の西のピークが山頂の薬師岳で、2000mを超えているだけに360度の展望が楽しめる。外輪の内側には妙高山が盛り上がり、そばに新しい火口の御室がある。馬返しコース8合目に避難小屋があり、夏山シーズン中は管理人が常駐する。頂上域で水があるのはここだけ。
盛岡駅前から定期バスで網張行があり、御神坂口、網張口からは日帰りもできる。松川温泉にもバスがあるが日帰りは無理だろう。御神坂口には電話がなく、車は呼べない。登りは松川口が5時間、他コースは4時間。
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