利尻山
深田久弥の『日本百名山』に最初に登場するのが、日本最北端の利尻山だ。氏は利尻山を「島全体が一つの頂点に引きしぼられて天に向かっている。こんなみごとな海上の山は利尻岳だけである」と称賛している。別名利尻富士とも呼ばれ、昭和49年(1974)に利尻礼文(れぶん)サロベツ国立公園に指定された。
アイヌ語でリイシリは「高い島山」を意味する。古くから高くそびえるその美しい姿は航海や漁場の目印とされた。人々はその山に航海の安全を祈り、豊漁を祈願した。山は海からも信仰されあがめられたのだ。ついに明治23年(1890)ごろ、修験者・天野磯次郎が鴛泊(おしどまり)から利尻山頂上まで登山道を開削したと伝えられている。
登山コースは3つあるが、鴛泊コースが一般的だ。鬼脇(おにわき)コースは9合目の崩壊が著しく登山禁止になっている。鴛泊コースは3合目のキャンプ場まで車で入れ、便利である。トドマツの鬱蒼とした山道を行くと、冷たい湧水があふれる甘露泉の水場がある。登るにつれダケカンバやミヤマハンノキが続き、6合目を過ぎると尾根も急になりジグザグの登りとなる。8合目の石碑のあるピークが一等三角点のある長官山(ちようかんざん)だ。展望が開け、礼文島が見下ろせる。少し上に避難小屋がある。長官山から尾根をたどるが次第に登りもきつく、足場も悪くなる。9合目は高山植物帯で、沓形(くつがた)コース分岐を通過し、急斜面を直登すると頂上である。頂上には三角点と小さな祠があり、北峰とも呼ばれている。頂上は三峰に分かれ、最高地点は南の南峰であるが、一般の登山者向ではない。3合目から頂上までは約4時間30分。
沓形コースは沓形登山口から舗装された車道と旧登山道(荒廃)がある。見返台を過ぎると7合目に避難小屋がある。三眺山(さんちようざん)に達すると高度差500mの西壁、鋸の刃のように切り立った南稜や、仙法志(せんぼうし)稜などが間近に望まれ圧巻である。ガレ場を注意しながら登ると鴛泊コースの分岐に達する。沓形登山口から頂上まで約6時間。
山はまた、高山植物の宝庫でもあり、リシリヒナゲシ、リシリオウギ、ボタンキンバイなどこの地に特有の植物が多い。利尻山の南斜面にチシマザクラの群落が発見され、北海道の天然記念物にも指定された。
利尻山のバリエーションルートの開拓は、徒歩渓流会の川上晃良らが、昭和25年(1950)12月、鬼脇から入山。南稜の試登を繰り返し、翌年2月、川上が単独で東稜から挑み、登頂に成功した。これをきっかけに大学山岳部や社会人山岳団体がこれらのバリエーションルートに挑み、数多くの登攀記録を樹立した。
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