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恵みたっぷり夏の飛騨を歩く

協力=岐阜県、モデル=森あつこ、文=高橋遼子
写真=水谷和政、衣装協力=コロンビアスポーツウェアジャパン、デザイン=アートボード

高山植物の花園<br>白木峰トレッキング

富山県との県境に位置する標高1596mの白木峰。「日本三百名山」の一つで、北アルプスを一望できる360°の大パノラマが人気を博している。見頃を迎えたニッコウキスゲを楽しみに、飛騨の森ガイドの岩佐勝美さんの案内で登山を開始した。

瑞々しいブナの林を進んでいくうち、周りの樹木が低くなっていることに気づく。標高の高いところには日本海側からの強風が当たるため、樹木が大きく育たないのだそうだ。代わりに風景を彩るのは様々な高山植物。7月中旬には山吹色のニッコウキスゲに、ササユリ、オオバギボウシなどが咲き誇り、雲上の花畑が広がる。

白木峰山頂に着くと視界が開け、北アルプスの山々が望むことができた。山頂を越えて東に進むと、大小さまざまな池塘が見えてくる。シュレーゲルアオガエルが棲んでいるそうで、白い泡のような固まりの卵がいくつも確認できた。

中でも最大の見どころは、山頂から20分ほどの場所にある「浮島のある池塘」。草花や雲が水面に映り込み、綿毛の真っ白な綿毛花が風にそよいでいる。まさに山からの贈り物といえる美しい景色に、ここまでの疲れも吹き飛んだ。

木道の端に腰を下ろし、お昼休憩。山菜や飛騨産の食材を使った「飛騨の森弁当」は味わい深く、ボリュームもたっぷり。絶景を前に至福のランチタイムを過ごした。

復路では激しい雨に降られたが、アサギマダラやホシガラスを間近に見るラッキーな出来事も。厳しい環境を生き抜く高山植物と様々な生き物たちに出逢い、心躍る山旅となった。

安全に登山するため、
岩佐さんに正しい登山靴の履き方を教わった。

白木峰登山道。
高く伸びるブナの林を抜けていく。

稜線に出たらこんな景色。
山頂まで歩きやすい木道が続く。

甘くやわらかな香りを放つササユリ。
冷たい風が吹く中、様々な高山植物が花を咲かせる。

山頂からは北アルプスを一望できる。
よく晴れた日には富山湾まで見渡せるらしい。

池塘にはモウセンゴケやワタスゲのほか、
イモリやトンボの幼虫など、水生生物も生息している。

山菜やナツメの実、朴葉味噌など、
地元の食材をあしらった「飛騨の森弁当」。

真っ白でふわふわとしたワタスゲの綿毛が、
池塘をぐるっと取り囲む。


池ヶ原湿原とカツラの巨木

標高960~980mに広がる池ヶ原湿原。春から初夏にかけてミズバショウやリュウキンカが咲き乱れ、夏には青々とした草原が広がる。2011年には「岐阜の宝もの」に認定されており、新たな観光地として期待を集めている。

湿原に足を踏み入れると、青々とした草原の中にノハナショウブやミズチドリが咲いているのが見えた。春に花開くミズバショウは大きな実をつけており、クマにかじられたものもあった。

清らかで栄養豊富な水が流れることから、「魚付き保安林」として親しまれてきた池ヶ原湿原。森だけでなく海の生き物をも育むこの自然を、これからも守り続けたい。

ガイドの吉眞陽子さんに、
ノハナショウブとアヤメの見分け方を教わる。

湿原近くの森に聳え立つカツラの木。
幹回りはおよそ19mにもなる巨木で、岐阜県の天然記念物に指定されている。

岩佐さんと一緒に湿原を案内してくれた、森の案内人の吉眞陽子さん。 森に関わる仕事がしたいと考えていた折、飛騨の森のガイドツアーに参加したことがきっかけでガイドになった。
地元の河合町では、昔ながらの生活に親しむイベントを開催している。


残したい日本の原風景板倉集落

飛騨市の中心部から北へおよそ23km、山の中腹に位置する宮川町種蔵地区。棚田や板倉など日本の原風景が残る集落を、岩佐さんのガイドのもと散策した。

まず訪れたのは、水田やソバ畑が広がる棚田。急斜面でもより広い耕地面積を確保できるよう、石を積み上げて築いたのだそうだ。過疎化が進んだため手入れが難しく、近年ではボランティアの活動に頼っている面もあるという。

続いて集落をぐるりと一周し、点在する板倉を巡る。腐敗しにくいクリの木を使って建てられた倉には、1階に穀物や農機具、2階に着物や宝物が納められた。「わざわざ母屋から離れた場所に建てるのはなぜでしょう」と岩佐さん。聞けば、「火事に遭っても種さえ守れば生きていける」という考えがあってのことだとか。現に大飢饉の際には蓄えていた種を分け合ったことで難を逃れた過去があり、それが地名の由来になったとも言われている。

自然とともに暮らしてきた種蔵の人々。今も22人がこの地に暮らし、昔ながらの風景を守り続けている。

通常の土手と違い、石積みの土手は垂直に造れるため、より広い耕地面積を確保できる。今ではソバ栽培に利用されることが多い。

板倉の多くは腐敗しにくいクリの木で造られるが、
中にはカツラの木で造られた珍しいものも。

種蔵を一望できる高台から。
山に抱かれた集落は、まるで箱庭のよう。

案内してくださった方

岩佐勝美さん

飛騨の森ガイド協会会長

地理や動植物だけでなく、歴史や文化など飛騨のあらゆることに精通している。
今回は、クイズ形式での散策や、持参したコーヒーをごちそうしてくれるなど、山旅がさらに楽しくなるアイデアをたくさん披露してくれた。


飛騨ではおなじみ自然の恵みいっぱいの薬草料理!

古川町の川沿いに佇む明治3年創業の料理旅館「蕪水亭」。ここでは薬草料理を味わった。

「薬草で飛騨を元気にする会」理事長の北平嗣笥さんから、薬草の考え方や食べ方を教わり、クズの花の粉を使ったクズの花玉づくりを体験した。

薬草料理はどれも深みのあるやさしい味わい。苦みや渋みといったネガティブなイメージが覆された。お茶にして飲むなど、飛騨の人にとって薬草は身近な存在なのだろう。薬草に新たな興味が沸いた体験だった。

クズの花の粉末にはちみつを足して練り合わせる。
「入れすぎに注意して慎重に」と北平さん。
ところが、慎重になるあまりなかなか固まらず…。

エゴマやクズ、ワサビ菜などの薬草を使った料理。
見た目や食べ方も工夫されて、身体に良いものを美味しくいただける。

案内してくださった方

北平嗣笥さん

料理旅館「蕪水亭」主人で、NPO法人「薬草で飛騨を元気にする会」では理事長を務める。崇城大学の村上光太郎先生に薬草を学び、薬草を美味しく楽しめる料理の開発に力を入れている。


レトロな街並み<br>神岡を歩く

かつて鉱山で栄えた神岡町。街歩きガイドの中林俊司さんとともに、昭和の風情が残る街を歩いた。

はじめに向かったのは権七水屋。水が豊富な神岡には至るところに水屋があり、人々が共同で管理していたそうだ。川沿いを進み、藤波橋を渡って藤波八丁の遊歩道へ。朴葉味噌に使われるホオの葉があちこちに落ちていた。

鎌倉時代に由来する朝浦八幡宮でお参りをし、迷路のような路地裏を歩く。ガイドさんなしではわからない道だ。急坂にはトタン屋根の家屋がひしめき合っており、最も古いものは明治に建てられたものだという。

ひっそり構える階段は、通称「マチュピチュ階段」。屋根を超える高さまで登ると、神岡の街を一望できた。

人々の談笑の場としても親しまれてきた水屋。
現在でも野菜を洗ったり冷やしたりするのに使われている。

神岡で最も古い木造家屋という一角を歩く。

案内してくださった方

中林俊司さん

神岡街歩きガイド 副代表

街歩きでは神岡の歴史や鉱山の街ならではの文化について話してくれた。本業は和菓子屋さん「なかき商店」の店主。

今回の山旅で泊まった宿

板倉の宿「種蔵」

築100年以上の古民家を移築して建てられた宿。
囲炉裏のある広間は静かで心地よく、
ゆったりとした時が流れる。
地元産の食材を使ったお食事はどれも、
素材の甘みが生かされた深い味わい。
スタッフの方々の心遣いがあたたかく、心身ともにリラックスできる。

囲炉裏でじっくり焼き上げられたイワナは、甘みがありふっくらとしている。

種蔵で採れたソバ。塩をかけていただくとソバの香りがたっぷり楽しめる。

着物姿で出迎えてくれた、スタッフの佐々木美由紀さん。
「種蔵の宿では日々四季の移り変わりを感じることができるし、便利なものが何もないところがいい」とのこと。

ふるさと山荘「ナチュールみやがわ」

緑いっぱいの敷地内に、広々としたコテージが立ち並ぶ宿泊施設。
バーベキューもできるため、特産品の飛騨牛を味わうにはぴったり。
小川で冷やした地酒もまた格別!

キッチンや風呂もついており、
まるで森の中で暮らしているかのような雰囲気を楽しめる。

◀︎バーベキューで食べた飛騨牛は、口の中でとろける柔らかさ!

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