彼らと登るようになり、僕は考えが甘かったと思い知らされました
ほかに、影響を受けたクライマーは?
これまで一緒に登ってきたすべてのクライマーから影響を受けていると思います。
最初に冬壁に連れて行ってくれたのは、天野和明さんでした。天野さんの登りをみて、カッコいいなあ、あんな風に登れるようになりたいなあと思いました。その後もたくさんの人と登ってきました。僕はどちらかというと、パートナーを選ばない方かもしれませんね。時間が合って、一緒に登りに行けるということが大きな条件になるから、山で会ったことのある人、以前から知っている人など、幅広く色んな人と登りに行きます。
アラスカに一緒にいった今井健司さん(2015年、チャムラン北壁にて行方不明)、石田祐城さんから受けた影響も大きいです。つまるところみな、登るためにはどうしたらよいか、常に考えているんですよね。たとえば、クライミング中であれば、ギアの選択、ウエアの素材、ライン取り、タクティクス。日常であれば、食生活、トレーニングなど。クライミングを続けるためにはどうやって生活をしたらよいか、そして目の前のルートを登りきるためにはどんな準備をして、壁のなかではなにをしたらよいか、事細かに考え、実践しています。彼らと登るようになり、僕は考えが甘かったと思い知らされました。クライミングに対する考え方、姿勢というのを、学びました。
どんなタイプのクライミングが好きですか?
冬壁がいちばん好きです。岩と雪のミックスとか、岩が顕著な冬壁が好きです。アイスクライミングは苦手なんですよね(笑)。
僕にとって冬壁は、頭を使ってだましだまし様子を見ながら登っていくという印象がありますね。打ち込んだアックスの先端が効いているのかそうでないのか、よくわからない。けれどじわりじわりと身体あげていく。支点の構築にも頭を悩ませます。けれど、うまい具合に抜けられたり、オブザベーションした通りに登れたときなんて、嬉しくなりますね。
冬壁は、クライミング能力が高くないと登れないから、夏はフリークライミング、冬になったら山に行くという周期です。
自分自身の長所と短所は?
長所は図太いところだと思います。反対にいうと繊細さがないんですが。登り方も力を出すパワー系が得意だし、天気が悪くて登れなくてもあまり動じない。停滞は、かなり得意だと思いますよ(笑)。「まあ、いいか」と思ってしまう。だから長く停滞が続いてもあまりストレスになりません。けれどこの鈍感さは、弱みでもありますよね。何が何でも登ってやるという強さはなく、あまり無理せずにいこうと保守的に考えてしまいます。今井さんは、僕と正反対でした。登り方は繊細さがあり、職人的。そして突っ込む方でしたね。止める役が僕のことが多かった。いいバランスで登っていたと思います。
弱点はいっぱいありますね。一緒に登っているクライマーに聞いてもらうと、沢山出てくるのではないかな。高所に強くなく、順応に時間がかかるとか、夏の時期は体力が落ちているとか、ジャミングが下手だとか、挙げるとキリがありません。
ところで、冬壁で使うウエアについて、最優先する条件は?
動きやすさですね。腕の上下運動がたくさんありますし、足も大きく上げます。動きにくいとそれだけでストレスです。腕を上げたときも、ジャケットの裾が上がらないものがいいですね。上がると、寒気が入り込んだり、ハーネスからジャケットから出てしまい厄介です。動きやすいというのは、生地がしなやかで、よい裁断がされているのでしょうね。
アイガーコレクションを初めて着たのは、2015年の冬ですね。この年は、今井さんと中島健郎さんと遠征を計画していました。実際には実現しなかったのですが、そんなこともあり、2月に明神岳Ⅴ峰に行ったんです。チムニーを抜けて、ビレイポイントに着くと、ジャケットとパンツが切れてしまっていることに気づきました。チムニーのなかでアイススクリューが身体に当たってしまっていることは気づいていたんですが、そのためです。