レベル別雪山コースガイド低山で雪山ハイキング

ワンダーフォーゲル12月号
P19 「雪山の基礎知識」
P98~P113「レベル別雪山コースガイド」より
level1

はじめは低山ハイキングから~ 雪の低山の特徴と登山適期 ~雪山に興味はあるけど、不安もある。そんな人は低山から始めてみよう。

文/谷山 宏典 写真/矢島 慎一

なぜ、低山なのか

 ここで言う「低山」とは、太平洋側の標高1000m前後の山のことを指す。関東ならば、奥多摩、奥武蔵、丹沢あたりの山域だ。
 太平洋側の低山であれば、冬の間ずっと雪に覆われているわけではなく、雪が降ったときだけ白くなる。登山道がわからなくなるほど雪が積もることはほとんどなく、樹林帯のため強風にさらされる心配も少ない。入念なウェアリングをして、天候が急変したときにエスケープする判断力さえもっていれば、重大なトラブルに陥るリスクは低い。雪山初心者でも気軽に登ることができるのだ。さらに、雪のない春から秋にかけて登った経験があり、ルートや周辺の状況がわかっている山や、冬でもたくさんの登山者が入っている山を選べば、より安心だ。
 なお、同じ低山でも、日本海側の山は冬の間、深い雪に覆われ、天候も安定しないため、初心者向きではない。

いつ、どこの山に登る?

 太平洋側の低山の場合、まず積雪の有無の問題がある。冬とはいえ、常に雪が積もるわけではないからだ。
 太平洋側の低山で雪山ハイキングができる時期は、年明けから3月ごろ。西高東低の冬型の気圧配置がゆるみ、低気圧が本州南岸を東へ進むときが狙い目。冬型の気圧配置のときには太平洋側は晴天が続くが、南岸低気圧が通過するときには北からの寒気の流入とともに雨や雪が降る確率が高いからだ。
 街で冷たい雨が降ったら、山では雪になっているかもしれない。街で雪が降れば、山もきっと雪が降っているだろう。もし自分が住んでいる街から登る山が見えるのであれば、雪雲が去ったあとに山を眺めてみるといい。もし稜線が白くなっていれば、雪山ハイキングを楽しめるはずだ。ただし、降雪中や降雪直後に出かけるのは避けたほうがいい。数日たって、降った雪が安定し、天候が回復するのを待とう。

おすすめの冬の低山

奥日光戦場ヶ原

静かな奥日光でスノーシュー
デビューを

標高
1400m前後
泊数
日帰り
登山適期
1月上旬~3月中旬
コースタイム
赤沼→光徳入口 計2時間30分
level1
戦場ヶ原 スノーシュー
戦場ヶ原の雪原から見える男体山

文/編集部 写真/小関 信平 標高1400m前後の高層湿原で、四季を通して人気が高い戦場ヶ原。雪が降ると湿原は一面の雪原となる。湯川沿いの自然研究路は木道でスノーシューに不向きなので、西側の小田代ヶ原へと向かうコースがおすすめ。スタートの赤沼からしばらくは樹林帯を歩くが、小田代ヶ原の展望台へ着くと、東に男体山が大きく見える。おおむね平坦な道が続くので、スノーシューデビューには最適。
 また、湯元温泉周辺のスノーシューハイキングもおすすめだ。スノーシューのために整備された複数のコースがある。戦場ヶ原よりも山沿いのため、積雪が多く、傾斜もある。
 関東近郊からなら日帰りで行けるが、歴史ある温泉地に宿泊して、いろいろなコースをたっぷり楽しもう。

アドバイス

装備は夏山装備に防寒着などを組み合わせても充分。三本松にはスノーシューやクロカンスキーのレンタルがある。湯元温泉のコースは、雪崩の危険箇所があるため、ビジターセンターなどで事前に確認を。

アクセス

公共交通
往路
東武日光線東武日光駅→東武バス(1時間・1500円)→赤沼
復路
光徳入口→東武バス(1時間5分・1550円)→東武日光駅
マイカー
日光宇都宮道路清滝ICから約20km、約40分で赤沼。無料駐車場あり。

問合わせ先

日光観光協会
0288-54-2496
東武バス日光
0288-54-1138
日光湯元ビジターセンター
0288-62-2321

丹沢塔ノ岳

富士山クッキリの冬丹沢、
登竜門

標高
1491m
泊数
日帰りまたは1泊2日
登山適期
1月上旬~3月中旬
コースタイム
ヤビツ峠→塔ノ岳→大倉 計8時間45分
level1
塔ノ岳 表尾根 大山
塔ノ岳より表尾根と大山

文・写真/三宅 岳 塔ノ岳は表丹沢を代表する山。冬期は晴天率が高く、空気も澄み、景色を楽しめる山旅となる。大倉尾根からのピストン山行を楽しむ人も多いが、表尾根からの縦走にすれば、より充実した登山となる。
 ヤビツ峠まではバスを利用。県道を札掛方面へ進み、道標に従い表尾根を二ノ塔、三ノ塔と進む。行者ヶ岳の先に下りのクサリ場がある。ここが難所だ。なおもアップダウンを繰り返し、新大日・木の又大日を越えて山頂に至る。山頂北側の尊仏山荘は通年営業の山小屋だ。
 帰路は、大倉尾根の長い下りをたどる。

三宅岳
推薦者
カメラマン 三宅 岳さん

山頂の小屋で日の出を見る寒さ対策・風対策はしっかりと。日帰りが多いが、山頂の小屋、尊仏山荘にぜひ一泊したい。東京湾越しの日の出など、美しいものである。

アドバイス

積雪量は少ないことが多いので、スノーシューやワカンはまず不要である。しかし、ときには必要な場合がある。なお、軽アイゼンは必携。春先に大雪が降ることがある。いずれにしても、登山前に問い合わせておきたい。日没も早いので、迅速な行動が大事である。山頂一泊とすると、時間に余裕がもてるのでおすすめだ。

アクセス

公共交通
往路
小田急線秦野駅→湘南神奈交(神奈川中央交通)バス(470円・51分)→ヤビツ峠
復路
大倉→湘南神奈交(神奈川中央交通)バス(210円・14分)→小田急線渋沢駅
マイカー
東名道秦野中井ICより約40分でヤビツ峠。約10台駐車可。秦野駅周辺にも有料駐車場あり。

問合わせ先

秦野市役所
0463-825-111
湘南神奈交バス
0463-81-1803
尊仏山荘
0463-88-1113

金剛山地金剛山

大阪近郊で手軽に
霧氷を楽しむ

標高
1125m
泊数
日帰り
登山適期
12月下旬~2月上旬(霧氷期)
コースタイム
金剛登山口→金剛山→ロープウェイ前 計3時間20分
level1
金剛山 葛木神社
凍てつく巨杉の林を葛木神社へ

文・写真/加藤 芳樹 大阪・奈良府県境にそびえる金剛山は、大阪府下では唯一標高1000mを超える山で、手軽に雪と戯れる山としては、登山者数は関西ではNo.1。もちろん、霧氷は自然現象なので、毎日発生するわけではないが、金剛山のホームページやライブカメラなどで霧氷の発生状況や、アイゼンの要・不要を確認できるところがうれしい。
 登山のメインルートとなるのは千早本道だ。下部の植林帯は積雪があっても景色に変化は少ないが、のろし台跡を過ぎ、上部のブナ林に入ると一変。また、ちはや園地の展望台から望む雪をかぶった大峰山脈も必見だ。

松本みき
推薦者
yamarokko 松本みきさん

ルートが豊富で飽きない山氷瀑を見るならツツジオ谷、霧氷なら文殊尾根、雪山初心者であれば寺谷ルートがおすすめです。

アドバイス

近年は降雪があっても、雪が残らないこともしばしばだが、登山者が多いため、踏み固められた雪が凍結して、滑りやすい。軽アイゼンは必ず携行しておきたい。ファミリーならロープウェイを利用して下山してもよいだろう。金剛山の積雪情報やライブカメラは、千早赤阪村観光協会のホームページからもリンクしている。

アクセス

公共交通
往路
南海高野線・近鉄長野線河内長野駅→南海バス(30分・470円)→金剛登山口
復路
金剛山ロープウェイ前→南海バス(40分・520円)→河内長野駅
*近鉄長野線富田林駅からの金剛バスもあり。
マイカー
阪和道美原北ICから40分。金剛登山口周辺や食堂まつまさなどに有料駐車場あり。また、ロープウェイ前バス停近くにも、府営駐車場(有料)あり。

問合わせ先

千早赤阪村観光・産業振興課
0721-72-0081(代表)
南海バス河内長野営業所
0721-53-9043

中信高原美ヶ原

アルプスの展望を友に
天空の雪原を逍遥する

標高
2034m
泊数
日帰りまたは1泊2日
登山適期
1月上旬~3月中旬
コースタイム
山本小屋→王ヶ鼻展望地→山本小屋 計4時間25分
level1
中信高原 美ヶ原
王ヶ頭山頂から、
歩いてきた高原の台地と八ヶ岳を振り返る

文・写真/石丸 哲也 日本百名山にも選定されている高原である。アルプスなどの展望に恵まれ、東西4km・南北8kmにわたって広がり、標高2000m前後の高さと相まって、深田久弥は「日本一の高原」と称している。その高原を冬にスノーシューで思うままに歩くのは楽しい。
 人気のコースは山本小屋ふる里館まで車で上り、最高点の王ヶ頭、王ヶ鼻展望地を往復するもの。王ヶ頭までは夏に牧場となる雪原で、美ヶ原のシンボル美しの塔にも寄れる。王ヶ頭ホテルが立つ王ヶ頭山頂に登れば、広大な高原の上に浮かぶ八ヶ岳、南・中央・北アルプスなどのパノラマが圧巻だ。王ヶ鼻展望地に着けば、松本平を隔てた北アルプスの眺めがより印象的だ。
 帰りは王ヶ頭北面の巻き道を戻る。往路に合流したら、車道を戻ってもいいし、まっすぐ東へ下り、美しの塔へ登り返してもよい。降雪や霧の時はホワイトアウトするので、車道を帰るほうが安全だ。

石丸哲也
推薦者
山岳ライター 石丸哲也さん

無限に広がるような雪原は全国屈指テーブルランドと表現されるように、山頂部は広大で平坦な台地状。2000m前後の標高を誇り、雪原の上に広がる中部山岳の高山のパノラマも第一級品だ。

梶山正
推薦者
山岳カメラマン 梶山 正さん

クロカンスキーも楽しめる山本小屋の駐車場から広く緩やかな雪原を往復するが、ピッケルやアイゼンはいらない。スノーシューとトレッキングポール、またはクロカンスキーを使うとよい。

アドバイス

アクセスが不便で、マイカーも高原へ上る車道は苦労する。宿に泊まり、送迎車を利用するのがおすすめだ。宿ではスノーシューなどのレンタルも利用できる。台地状の高原はどこでも歩けるが、視界が利かないと迷いやすいので地図やGPSの活用を。身を隠す木立などもないので風雪の備えも万全に。

アクセス

公共交通
JR中央本線下諏訪駅→タクシー(約1時間30分・約2万円)→山本小屋ふる里館※王ヶ頭ホテル宿泊者はJR大糸線松本駅、ふる里館または美ヶ原高原ホテル宿泊者は下諏訪駅から送迎車あり(いずれも要問合せ)。
マイカー
長野道岡谷ICから約1時間30分で山本小屋ふる里館。無料駐車場あり。ふる里館への上りは急で狭いので、雪道の運転に慣れていない人は送迎車かタクシーを利用するほうが安全。

問合わせ先

松本市観光コンベンション協会
0263-34-3295
アルピコタクシー
0266-71-1181