監修・構成=佐々木亨

 山で遭難しない方法

アクシデント・緊急事態に備えよう 山で困った時の対処法

 山での遭難事故は年々増え続けています。計画が甘かった、体力不足、経験不足が主な原因です。
 大きな遭難事故になるまえに、対処できることもたくさんあります。ここでは最低限知っておきたいことと、その対処法を紹介します。

道迷いで下山できなくなった!

 山岳遭難事故で、最も件数が多いのが「道迷い」です。予定とは違う道に進んでしまったり、道ではない場所へ入りこんでしまったりしたら、いったん行動を中断し、落ち着いて対処を考えましょう。

◇道に迷ったら引き返す、見通しのきく場所へ登ることが原則

 道に迷った時に「このまま進めば目的地に着くはず」といった思いこみが、深刻な事態を招きます。歩きつづけるうちにさらに状況が悪化しかねません。

 コースの誤りに気づき、進んできた道が判別できる状況なら、地図で確認できる地点までもどることが第一。もしヤブなどに入りこんでしまったら、できる限り安全なルートを探りながら尾根上へ向かって登ります。見通しのきく地点まで登れば、周囲の地形から現在地を把握しやすく、解決の糸口も見えてきます。

 下るほうが楽だからと、安易に下ってしまうと、滝や急流に阻まれ、進退きわまってしまう、または足を踏み外して転落・滑落事故を起こしてしまうことがあります。沢へ下るのは危険だと認識しておきましょう。

 もちろん、道迷いを起こさないためには、出かける前にコースを下調べし、地図を必ず携行して歩き、行動中はこまめに地図を開いて位置確認をしながら歩く習慣をつけることが大切です。

◇日没で道が分からない場合は早めに「ビバーク」を決断

 行動中に何かアクシデントが生じ、やむなく一夜を過ごす事態を「ビバーク」といいます。

 できれば避けたいビバークですが、日没後に無理して行動するより、山中にとどまり、体力を温存して朝を待つと判断したほうがよいケースもあります。その意味で、ビバークは危険回避手段のひとつといえます。できる限り安全な場所を探して、一夜を明かす準備を整えましょう。

 このとき、寒気や風雨から身を守るのが、ツエルト(ツェルト)やエマージェンシーシート、ロウソク、固形燃料などの用具です。

 ツエルトは簡易型のテントで、立ち木やロープを使って設営したり、また状況によっては、単に頭からかぶって風雨をしのぎます。1~2人用、3~4人用などのサイズがありますので、人数に応じて備えると、いざというとき役立ちます。長いコースや泊まりがけの山歩きに出かけるようになったら、ぜひ備えておきたい用具です。

 エマージェンシーシートは、手のひらに収まる程度のサイズに折りたたまれたアルミ箔状のシートで、広げて身を包むと保温効果があります。

 ロウソクや固形燃料は、暖をとるだけでなく、シェラカップなどでお湯をわかすこともできます。これらをコンパクトにまとめて、非常食やヘッドランプ、救急薬品類とともに携行していると、山歩きの安心度も高まります。

登山中にケガをした場合

 転倒、落石などで、登山中にケガをすることは珍しくありません。怪我の程度によって変わりますが、冷静に次の行動をする必要があります。

◇すり傷・切り傷は傷口を洗い流し絆創膏などで手当てを

 傷口を洗い流し、消毒液や絆創膏などで手当てをします。ただし、山ではどこでも流水が得られるわけではないので、傷口を洗い流すための真水は常に用意しておく必要があります。

 このため、飲料とは別に小型のペットボトルなどに真水(水道水)を入れて携帯しておくと、救急用に役立ちます。飲料の補助にもなりますが、下山するまで、少量でも残しておくことが肝心です。

 応急手当てのための消毒液や絆創膏の他にも、山行日数によっては解熱剤や胃腸薬など、最低限の薬品類をコンパクトにまとめて携帯しておくことをお勧めします。

◇ネンザ、骨折では応急処置して次の行動へ

 ネンザ、骨折などの場合は、自分で処置は簡単ではありません。下山して医療機関で治療を受けるまで、症状が悪化しないよう応急手当てをします。

 ネンザの場合、ネンザした関節が動かないよう、タオル、テーピングなどで固定します。足首をネンザし、靴を履いたまま下山する必要があるときは、靴の上から固定することもあります。これは靴を脱いでしまうと、患部が腫れ、再び靴が履けなくなる可能性があるからです。

 骨折の場合も、患部を固定することで症状の悪化を抑えます。布類だけでは不充分なので、副木やその代わりなるもの(折たたみ傘やストックなど)をあてて固定します。

 タオルや衣類などクッションとなるものを巻きつけて、患部を押さえつける力が均等に分散するようにします。患部の上下の間接までを固定するのが基本です。

 行動できない場合は、救助を求めるしかありません。まずは携帯電話の電波が届くかどうか確認し、電話できれば警察(110番)に通報します。

 電波が届かない場合は他の登山者に救助を求めるしかありません。同行者や他の登山者がいる場合は救助を求めます。いない場合は、少しでも安全で発見されやすい場所まで移動することです。冷静に救助を待ち続けるしかありません。

◇最低限のセルフレスキューを学ぶ

 そのほか山の救急医療に関して、詳しくは、下記の書籍を参考にしてください。

 救急救命法は、講習会などに参加して実地に習得するのが早道です。代表的な講習会に、日本赤十字社の全国の支部で実施している救急法講習会があります。日常生活や社会的な災害時にも役立つ知識です。

■セルフレスキューに関する書籍

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