アライテント 2014-2015
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ヒトのチカラ中国四川省 四姑娘山群双橋溝白海子 中央尖塔下部雪渓(大内尚樹) 山の楽しさとは、自然の中で非日常の世界を経験することや、自分自身の力で何かを成し遂げる達成感を得ることではないでしょうか? 山は美しく楽しい場所ですが、必ずしも人にとってやさしいばかりの場所ではありません。 人は野山に生きる多くの生き物たちのように、身体ひとつで自然の中で過ごすことはできません。 私たちは自分自身の身を守り、楽しく山の時間を過ごすために、普段の生活ではあまり必要とされない、いろいろな知恵や技術、そして道具が必要となります。 山で街と同じような利便性を期待して、山のリスクを考えないで日常のままの姿や心構えで山に入ることは賢明なこととはいえません。  山は不便なところです。 現在、いろいろな山道具や施設などが私たちをサポートしてくれますが、ほんの少し前にはこうした状況を想像することは難しいことでした。 今よりもほんの少し前の時代、山に挑んだ多くの人たちは、今よりもはるかに劣悪な用具を使って、現在でもトレースすることが困難なルートを切り開いたり、今でも色あせないすばらしい多くの記録を残しています。 現在のように軽量で便利な道具がない中で彼らを支えたのは、きたえあげた己の肉体であり、技術であり、豊富な経験からもたらされる的確な状況判断でした。 現在に生きる私たちは、多くの便利な道具に支えられて、かつての人たちよりも、はるかに快適な状態で山の時間を過ごすことができますが、本質的な部分で山の状況が変わっているわけではありません。登山用具を使いこなすために必要なものは『経験』です。 たとえばF-1マシンに、昨日免許を取ったばかりのドライバーが乗っても、決してそのパフォーマンスを発揮することができないだけではなく危険ですらあります。 それと同じように、多くの登山用具はどんなにハイスペックなものであっても、使いこなすだけの技術と体力がなければそのパフォーマンスを発揮することはできません。山の道具を上手に使いこなし、充実した登山を行うために何よりも必要なものは、こうした技術や体力に裏付けられた『経験』だと私たちは考えています。 最新のテクノロジーはさまざまな便利さを私たちに提供してくれていますが、こうした便利さを享受できるのも電源などのさまざまなインフラがあってのことです。 登山用具が使われるフィールドには基本的にこのような便利さを支えるインフラは存在しません。そこで必要となるのは自分自身の技術と体力に裏付けられた『経験』です。ディスプレイの上でどのようなシミュレーションをしても、それは所詮バーチャルな経験でしかありません。  山は「リアル」なフィールドです。  どんなに高機能な道具を持っていたとしても、それを使いこなすことができなければ役に立たないのです。

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