行程・コース
天候
晴れのち曇り
登山口へのアクセス
マイカー
その他:
カーナビには「沼尻スキー場」をセット。沼尻スキー場脇からダートな道を数km進むと突き当りが駐車場。未舗装。50台程度。ダートは危険な個所はないが、ザレた個所もあり深夜だと不安になる。仮設トイレがあるとの情報があったが、発見できなかった。駐車場がいっぱいの際は、手前に路駐できるスペースも若干ある。緯度経度情報は(37.628914 140.245888)。
この登山記録の行程
沼尻登山口駐車場(05:41)・・・白糸の滝展望台(05:44)・・・湯の花採取場分岐(06:15)・・・障子ヶ岩(07:07)・・・船明神山(07:56)・・・牛の背分岐(08:11)・・・山頂下広場(08:26)・・・安達太良山頂(08:30)(休憩~08:55)・・・峰の辻(08:48)・・・矢筈の森(09:58)・・・鉄山(10:14)・・・鉄山避難小屋(10:30)・・・しゃくなげの塔(10:36)・・・胎内岩くぐり(11:04)・・・沼尻鉱山跡(11:52)(休憩~12:20)・・・駐車場(12:42)
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
週末の雨雲を避け、久しぶりに安達太良山へ逢いに深夜車を走らせる。
今回は田部井淳子へのオマージュとして、生前、彼女が愛したと言われる沼尻コースを歩く。沼尻には彼女が経営していたロッジがあり、経営者が変わった今も運営されている。
4時半に駐車場に到着。
沼尻スキー場から数kmほどダートが続くと聞いていたが、ザレた路面でタイヤが空転する箇所もあり、夜間、小さな車にはドキドものキだった。
日の出は5:50頃。分刻みで周囲が明るくなっていく。待ちきれず日の出少し前に出発。
駐車場の周囲には硫黄の強烈な刺激臭が漂っていた。いつもの山とは違う、それだけでテンションが上がる。
登山道は駐車場のすぐ脇にありとても分かりやすい。入口には、登山ポストと立派な慰霊碑が建っていた。よく整備された安達太良山においても山は山ということ。1997年に発生した遭難事故を受けて設置されたものらしい。
遊歩道のような綺麗な道が延びている。薄暗いが両側の樹木がほんのりと紅葉していた。
少し登ったところで「白糸の滝展望台」。一条の大きな滝が遠くに見えた。明るければ圧巻に違いない。日の出とともに周囲の山々が赤く染まり始めた。低い位置には雲海が張り出していて、目前には大きな山が浮かぶように聳えている。会津磐梯山だ。右手側には吾妻連峰も見える。名だたる山がとても近く興奮する。
展望台を過ぎるとようやく登山道らしくなり、くねくねと曲がりながら高度をあげていく。
尾根まで出ると今度は一直線の道へと変わる。とても歩きやすい。
白い丸いものが足元に見えた。アカモノかと思ったが、よく見たらシラタマノキだった。真ん丸で愛らしい形状をしている。8月がシーズンだと思っていたが、この季節でもまだ健在なんだとびっくりした。
見晴らしがよくなったところで振り返ってみる。先程の会津磐梯山がこれまた惚れ惚れするほどカッコよく聳えている。山頂右下に見えるピークは櫛ヶ峰だろうか。強風の中、登ったのを思い出す。
湯の花採取場分岐に到着。谷底に見える白濁した川と白と黄色に染まった岩肌周辺が湯の花採取場なのだろうか。風が強い硫黄臭を運んでくる。下山時のルートはそこを通るので、立ち寄るのが楽しみだ。
尾根を進むと、すり鉢状の山肌が見えてきた。白い壁で囲われていて、すり鉢の部分が一段と白く人工的に作った運動場のように真っ平になっている。沼ノ平(沼ノ平火口)だ。
近づくにつれ、火口の大きさが分かってくる。沼ノ平の外輪には、なだらかな稜線が続いていて、小さな小屋が建っているのが見える。小屋の少し右側に小さなピークがあり、その横でえぐれる様に稜線が切れ落ちている。そこが鉄山。以前、鉄山に登った時は、悪天候で何も見えなかったが、晴れていればこんなにも素敵な風景が望めたのか。一年中山に足を運び、それなりの山を経験しているが、こんなにも変化に富んだルートはそうはないと感じた。
障子ヶ岩と呼ばれる断崖絶壁ゾーンに入る。断崖すれすれに登山道が延びていて、スリル満点だ。崖の上から覗き込んでみると、遥か下に緑の大地が広がっていた。所々に大きな岩がゴロゴロしていて、まるで映画ジェラシックワールドのワンシーンのよう。今ここでドローンを飛ばせば、きっとNHKばりの最高の画が撮れるに違いない。
沼ノ平を左に見下ろすように横切っていく。あの世とこの世の境目のような異様な風景に目が離せない。よく見ると沼ノ平には、人が歩いたような跡や看板のようなものが見えた。そういえば、以前には沼ノ平を横切るようなルートがあったが、その近くで有毒ガスによる遭難事故が発生して以来通行止めになったと本で読んだことがある。
断崖絶壁を歩き終えると、小さな池が見えてきた。池塘や池の類を見ると、つい反射的に写真に撮ってしまう。
池を過ぎると大きな岩山が立ちはだかる。その岩山を右に巻きながら登ると、山頂までの眺望が一気にひらける。火口を囲むように船明神山、安達太良山、矢筈の森、鉄山と外輪山が全て見渡せる。「あの稜線を歩くんだ!」と想像するだけでワクワクしてくる。
後ろに聳える会津磐梯山も見晴らしに比例して一段とカッコ良さが増している。360度どこを見ても絶景だ。
岩稜地帯を抜け、ひらけた稜線に出た。ここ最近天候には恵まれなかったが、今日は最高の天気。安達太良山のシルエットの向こうには澄み渡った青空が広がっている。右手には、和尚山。麓の低い位置に雲海が張り出していてこちらも最高の絵になっている。シャッターが止まらない。
稜線をそのまま真っすぐに進み、船明神山に立ち寄ってから牛ノ背分岐を目指す。船明神山には正直何もないが、山と名がつけばとりあえず立ち寄らなければならない山屋のサガだ。
牛の背分岐まで来ると、行き交う登山者が増えてきた。
山頂に向かって歩いていると、「ひょこ、ひょこ」と独特な歩き方をしている男性が近づいてきた。すれ違いざまに「よっ、久しぶり!」と肩を叩く。まさか、こんなところで同郷の人間に出会うとは。相手も想定外だったようで、叩かれてもなお状況が呑み込めずきょとんとしていた。笑。
暫し会話を楽しんでから分かれる。
安達太良山へ到着。乳首山と呼ばれるだけあって、山頂はおっぱいのようになだらかで丸みを帯びた丘状になっており、その中央に乳首を模したように大きな岩の塊がある。山頂の標識は岩山の前にも設置されているが、正式には乳首に立って初めて登頂となる。
山頂からは見事な360の眺望が拝める。
雲海が遠くどこまでも広がっていて、二本松の街並みもすっぽりと覆われていた。紅葉で有名な仙女平方面は、シーズンを過ぎてしまったようで残念ながら彩はなかった。
それにしても空が高い。べたな引用をすると「智恵子は東京に空が無いという。ほんとの空が見たいといふ。・・・・・ 智恵子は遠くを見ながらいふ。阿多多羅山の山の上に毎日出ている青い空が智恵子のほんとうの空だといふ」とつい言いたくなってしまう。
乳首の麓で軽くエネルギー補給をしてから歩き出す。
歩いてきた道を戻るのもなんなので、少し遠回りをして矢筈の森へと向かう。
牛の背から鉄山へ。このエリアは、火口の風景が最も楽しめるエリアだと思う。地球の躍動によって生み出された奇跡のような地形。魅了してやまない。
稜線が壁にぶち当たる。その壁になった岩稜地帯を登っていくと鉄山。山頂は広く、崖の先端まで行くと、安達太良山から沼ノ平の外輪まで綺麗に一望できるのでおススメだ。
くろがね小屋も良く見えた。山の向きと日当たりの関係か、くろがね小屋の周辺にはまだ鮮やかな紅葉が残っていた。いつかくろがね小屋の温泉に入ってみたいものだ。
鉄山から鉄山避難小屋へ。風景が変わり、緑の中に緩やかに一本道が延びている。まるで北アルプスの奥地を歩いているかのうよう。
鉄山避難小屋は屋根も壁も真っ黒な建物だった。そこに不釣り合いなオレンジ色のドアがついている。最悪の視界でも見落とさないよう配色されたものだろう。
小屋はちょうど箕輪山への分岐点に建っており、箕輪山が一望できる。こちらも負けず劣らず魅力的な光景で、山頂に続く一本道を眺めていると、つい足を踏み入れたくなってしまう。ピストンするくらい訳はないが、楽しみは次回にも取っておくことにしよう。
鉄山避難小屋からはいよいよ下山開始。
登山開始からまさに絶景の連続。これでもか、これでもかと趣を変えていく景観に驚愕し、その度に「さすが田部井さんが愛したルートだ!」という表現を使いそうになったが、敢えて我慢していた。なぜなら、ここに来てさらに景観がダイナミックに変化する。地面を割ったようなむき出しの岩壁が麓の方まで続き、麓の先には緑の大地。その緑の大地に優雅に聳える会津磐梯山。早朝は雲海に隠れていたが、裏磐梯の秋元湖も見える。日本にもこんなにスケールの大きい力強い風景があったとは。沼尻コースの奥深さにただただ感服。
断崖に沿うように進むと、突然、登山道が左に折れて岩の間に吸い込まれていく。名所「胎内岩くぐり」。同様のものが各地にあるが、これはまた極端に穴が狭い。その上、大きな岩が覆いかぶさるようにできているので、通る際には押しつぶされそうな圧迫感と戦わなければならない。閉所恐怖症の人はかなりきついだろう。
ケイビングをやっていた者としては、当然ながらここは挑戦。ザックを降ろして足から岩穴へと滑り込む。途中で体を回転しながら向きを替えてすり抜ける。抜けると、四方岩に囲まれた小さな空間に出た。岩の隙間から遠くの景色が望めてこれもなかなかの一興。
胎内岩くぐりを過ぎると、つづら折りに斜面を伝い谷へと降りていく。ザレているため、転倒や落石には注意が必要だ。
谷底まで降ると、硫黄の刺激臭が鼻をつんざく。硫黄で黄色く染まった岩がゴロゴロしていて、異様な光景。勝手に名付けるならやはり定番の「地獄谷」がぴったりだ。
ここからは谷底に流れる川に沿いながら進んでいく。硫黄川という名前らしいが、温泉が流れ込んでいるのか、川底が白く水がコバルト色に見える。触れてみるとこの時点では冷たい水だった。
川底から右側の斜面へと移り、トラバースしながら進むと朝に見た湯の花採取場が見えてきた。小さな小屋が建っているところが沼尻鉱山跡。近づくと、立ち入り禁止の看板が立っていた。「中ノ沢温泉(株)所有地」とある。川の反対側には、太い配管が組まれていて「ゴーゴー」と音を立てながら温泉が勢いよく流れこんでいる。ここから中ノ沢温泉まで運搬しているのだろうか。
川に入って遊んでいる方が何人かいたので、近寄って川に手を入れてみると今度はちょうどよい適温。川全体が温泉になっていた。岩影では腰にタオルを巻いたおじさんやお尻丸出しのおじさんも川に浸かっている。女性の登山者もいるというのにものすごい度胸だ。しかし、その気持ちも分からんではない。恥も外聞もなく全身つかりたくなるほどの良質な温泉が目の前にある。これは温泉好きにはたまらない。一瞬悩んだが、はやり素っ裸になる勇気はなかったので、足湯だけで我慢する。しかし、登山の最中に温泉なんて、なんて素敵なコースだろうか。窮屈だった登山靴を脱ぎ、お湯でふやけるほど川の温泉を楽しむ。
湯の花採取場から朝のルートに戻ろうかとも思ったが、そのまま川沿い延びる温泉の配管に導かれながら進む。
高度を下げたせいか、周囲の紅葉がとても綺麗だった。朝の時点では薄暗かった白糸の滝も綺麗に見えていた。
周遊を終えて改めて思う。沼尻コースは、間違いなく記憶に残る充実したコースだった。
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