行程・コース
天候
晴れ
登山口へのアクセス
バス
その他:
宿泊所から徒歩で大町温泉郷バス停へ行き、路線バスに乗車し、扇沢バス停で降車。そこからは関電トロリーバスに乗車し、黒部ダムで降車。
この登山記録の行程
[一日目(宿泊自体は二泊目)]
黒部ダムバス停(50分ほど)内蔵助谷(2時間半ほど)十字峡(2時間半ほど)阿曽原温泉小屋(宿泊)
[二日目(二泊三日の最終日)]
阿曽原温泉小屋(4時間10分ほど)欅平駅
※当時の記録は廃棄しているため、コースタイムは正確ではない。
高低図
登山記録
行動記録・感想・メモ
富山県の黒部峡谷は日本三大渓谷の一つで我が国最大の渓谷。黒部ダムを挟む黒部川に形成され、その切り立ったV字峡の断崖の高さは数十メートルから500mまで達しますが、激流と共に周辺の紅葉の素晴らしさでも知られています。
この黒部峡谷は黒部ダム湖を挟んで「上ノ廊下(かみのろうか)」と「下ノ廊下(しものろうか)」とに分かれている(ダムができる以前は「中ノ廊下」もあった)のですが、下流の下ノ廊下沿いの断崖には、作業歩道である「日電歩道」(16.6キロ)と「水平歩道」(13キロ)がつけられており、日本最大のダム、黒部ダムから黒部峡谷鉄道の終着駅、欅平(けやきだいら)駅まで、大渓谷と大岩壁の雄大な景色が展開し、途中の温泉の湧く山小屋で一泊して辿って行くことができます。
水平歩道は大正9年、日電歩道は昭和3年に水力発電のための調査に利用するため、開通したのですが、断崖絶壁の岩盤を削る危険な工事だったため、多数の工事関係者の命が失われました。現在でもあまり手を加えられることなくこの道は残っていますが、幅員が最も狭い箇所はその幅は80cm足らずしかありません。もちろん手摺も皆無。岩盤に張られた針金が唯一の命綱になるのです。そのため、現在でも登山者の転落死亡事故は後を絶ちません。にも拘らず近年は登山ツアーが開催されている模様。対向者とのすれ違いが困難な断崖も多い中、こんなツアーを開催する旅行会社の神経が分かりません。
黒部峡谷の登行自体は’93年10/20~21ですが、富山県には10/19に入り、立山黒部アルペンルートを西から辿りました。即ち、JR北陸本線の富山駅から富山地方鉄道に乗車し、終点の立山駅で下車。そこから立山ケーブルに乗車し、高度差500mを上がり、標高977mの美女平に着きます。
そして立山の登山基地である標高2450mの室堂までは高原バスに揺られることになりますが、途中、日本最大の滝、称名滝(落差350m)を遠望できる場所があり、運転手さんがそこを通る時は、徐行よりもゆっくりしたスピードに落としてくれます。
室堂はさすがに平日にも拘わらず、観光客でごった返していましたが、標高が高いだけに耳が痛いほどの寒さです。私はこの日の予定では、この室堂での滞在時間は40分ほどしかなかったので、走りながら赤茶色の水が不気味な血ノ池群や、地表の随所から硫黄の煙が噴出する地獄谷を巡る「地獄谷巡り」を探勝しました。高原にはもやが深く垂れ込み、地獄谷の景観はまさにあの世の賽の河原を彷彿させるようでした。
レストランでの食事も15分ほどで済ませ、今度は立山トンネル・トロリーバスに乗って長いトンネル(日本最高所にあるトンネルで全長3562m)を抜け、標高2316mの大観峰へ。大観峰は黒部立山アルペンルート山岳景観のクライマックスと言われるほどの大パノラマを誇り、黒部川東方の鹿島槍ヶ岳(2889.1m)を始めとする標高2500m超級の山並みを一望することができます。が、私はゆっくりする時間がないので、その展望は標高1818mの黒部平を結ぶ立山ロープウェイの中から俯瞰しました。
黒部平も立山連峰の景色が素晴らしいのですが、雲はかなり低い位置にあります。
黒部平からは地下を通る黒部ケーブルカーに乗るのですが、全地下式の観光用ケーブルカーとしては日本唯一。秒速3mで黒部湖駅に向かいます。
黒部湖駅からは黒部ダムの大堰堤を歩いて黒部ダムバス停に向かいますが、黒部湖駅から南に行けば黒部湖遊覧船乗り場はすぐです。
黒部ダムも有数の観光地なのですが、近年はダムを背景とした俯瞰記念撮影サービス(有料)も行われており、観光客には喜ばれているようです。
黒部ダムからはトロリーバスで高原である扇沢に向かいます。そこからはJR大糸線信濃大町駅行きの路線バスに乗車して、終点のやや手前の大町温泉郷で降車し、バス停近くの「酒の博物館」に寄り、何種かの酒を試飲し、二種ほどの小瓶を購入後、農家民宿へ。そこの宿では夕食のおかずの魚を民宿の飼い猫に盗られ、翌朝、夜明け前に起床すると、女将は寝坊していて、急いで食事や弁当を用意する始末。
トンネル内の黒部ダムバス停で降車すると、係員に言って下ノ廊下への起点になる扉を開けて貰い、出発。
トンネルを出ると、黒部川に下って行く曲がりくねった車道を下りて行きますが、車道をショートカットする歩道があるので、その近道を辿ります。
最下部の川原まで下りると、橋で対岸に渡ります。最初のうちは樹林帯を走っていることもあり、あまり崖の落差は感じられません。
「内蔵助谷出合」の三叉路に到ると、ここを右に取り、内蔵助谷を橋で渡ると、いよいよ日電歩道の真髄、黒部峡谷探勝が始まります。山肌の岩盤をえぐった道になりますが、最初は上流域ということもあり、落差はさほどなく、水流も殆ど見られません。本流に降りて遡ることもできそうな位です。それでも延々と続く対岸の切り立った断崖は見応えがあります。
対岸に三つ目の顕著な谷「新越沢」が見え始めると、黒部川に落ち込んでいる大滝が視界に入ってきますが、ほどなくいきなりひんやりとした冷気に包まれます。道沿いに岩塊のようになった万年雪が複数あるのです。横幅は数メートルあるでしょうか。
対岸の大滝を見送ると、日電歩道と黒部川との落差は段々大きくなり、文字通りの断崖絶壁道となって行きます。この辺り、日当たりはいいのですが、再び日陰の箇所に来ると、またもや万年雪の塊が現れます。今度のものの中には巨大なキノコの傘のような塊もあり、見ていて飽きませんし、じんわりと汗がにじむ身体にも心地良いものです。
水量が少ない黒部川は所々釜のようになったり、泉のような形状になったりしていますが、エメラルドグリーンの水と周囲の絶壁の紅葉は見事なコントラストをつけ、鮮やかです。左手の山肌からは小さな滝が岩盤を伝って流れ落ちている箇所もあります。
やがて黒部川沿いは切り立ったV字峡となりますが、この部分を白竜峡と言います。ここは見事な景勝地なのですが、ここからが下ノ廊下の核心部になります。
特徴的な地形の名勝「十字峡」は、西から剱沢、東の対岸からは棒小屋沢が黒部川に落ち込み、峡谷が十字になっています。
ここには下りていけるようですが、私にはそんな精神的余裕はありませんでした。途中、断崖道に慣れてきたことでの気の緩みから、右足を滑らせてしまったのです。咄嗟に左手を伸ばし、岩盤に張られた針金を掴んだので事なきを得ましたが、あと腕の伸ばし方が3cm足りなければ、私は黒部川に転落していたのです。落差は数十メートルほどあるので、助かる見込みはありません。また、初めての大型ザックでの登行に黒部峡谷を選んだのも無謀だったのでしょう。
道が西向きに変わる辺りから「半月峡」となりますが、再び北向きに変わると第二の名勝「S字峡」となります。これも名の通りで、峡谷がまるで連続するS字カーブのようにくねっているのです。平野部の大河ならまだ分かるのですが、絶壁の断崖下にこのような流れが存在するのは、まさに自然の妙と言えるでしょう。
S字峡が終わると川原に近づき、吊橋で対岸に渡ります。道は未舗装林道のようになり、鉄道トンネルのようなコンクリート洞門を通り抜けます。
ほどなく仙人ダムが現れると、そこで関西電力の屋根付き橋を渡るのですが、橋にはなぜかレールが敷かれています。
雪除けの屋根付き橋に敷かれたレールは、この対岸の発電施設内のインクラインのためのもののようです。インクラインとは、傾斜面を動力で昇降する台車で、ケーブルカーのようなもの。対岸の水力発電施設は地中にあるので、地下に下りていくためのものでしょう。
橋を渡り、施設の宿舎前を通り過ぎ、しばらく急登を続けると平坦になり、仙人山(2211m)から下って来た道が左手から合流しますが、この道から剱岳(2998m)や立山に登るコースには、大雪渓があります。
ここから北に下れば、道中唯一の宿泊施設「阿曽原温泉小屋」です。この山小屋の魅力は温泉で、黒部峡谷の絶景を見下ろしながら、露天温泉を楽しめるのです。但し、飽くまで山小屋の温泉なので、コンクリートの浴槽があるだけです。
山小屋内の宿泊客の行動は皆、同じで、風呂から上がるとひと寝いりして、夕食の準備ができたとの知らせを聞くと皆、起き上がり、食堂に向かいます。
私は食事後、500mlのビール2本とワンカップ冷酒を3本飲みました。当時の私にすると、このアルコール量は日常的なものだったのですが、夜更け、なんと二日酔いに苦しむことに。標高の高さ故の気圧の違いによるものだったのでしょう。近畿の山小屋では有り得なかったことだけに戸惑いました。
翌朝、二日酔いが少し残り、まだ頭痛がしていたので、出立は宿泊客の中で最も遅くなってしまいました。
阿曽原谷を越えて、急登を凌いで平坦な道に変わると、いつの間にか二日酔いの症状は消えています。道幅は前日よりは多少広いとは言え、手摺のない断崖絶壁道であることに変わりはありません。
やがて前日の景色を超える光景が目の前に広がってきます。対岸の奥鐘山(1543m)の山体が、圧倒的な迫力で迫ってくるのです。その山も断崖なのですが、山肌のごつごつした岩壁が象徴的で、まるで巨大怪獣が迫ってくるような迫力があるのです。
コースがもっとも西に振った志合谷の少々手前の道縁には、なぜかスーパーのポリ袋が大量に放置されています。最初は、なぜこんな所にゴミを捨てる非常識な登山者が多いのか、と疑問に思っていたのですが、これはゴミではなかったのです。先に進むと素掘りのトンネルが現れました。照明はなく、中は真っ暗です。
中を歩いていると、水溜りを歩くようになり、やがてその水かさが段々増してきたのです。それは地下水だったのです。そのうち、トレッキングシューズの高さを超えるまでに。この時、さきほどのゴミ袋の意味を理解したのです。つまり、ゴミ袋を靴の上から履き、靴の中に水が入らないようにするためのものだったのです。
しかしもう引き返すことはできません。靴下までびしょぬれです。トンネルは右にカーブし、志合谷をも突き抜けています。
トンネルを出ても終始、靴をぐじゅぐじゅ言わせながら歩くことになったのですが、周囲の眺望がブルーな気持ちを癒してくれます。奥鐘山は更にダイナミックな景観となっており、峡谷沿いの山並みの彼方には天辺に雪を被った白馬三山も見通せるようになります。
そんなこんなで黒部峡谷鉄道の欅平駅に到着。が、駅に向かう前にこの近くにある猿飛峡を探勝。ここも岩肌に沿って遊歩道が造られています。支流から勢い良く流れてきた谷の水が、本流の岩壁に衝突して飛沫を上げる様も見応えがあります。
欅平駅から宇奈月駅までの鉄道では、トロッコ車輌が人気。ここからいくつものトンネルや橋を越え、峡谷から川へと変貌した黒部川沿いを、秋風に吹かれながらガタンゴトンと揺られていくのです。
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