花に会いに春の低山へでかけよう!

▲日本の春の代名詞とも言える桜

 春の花のシンボル的存在の桜は、基本の野生種が約10種類、園芸品種は300種類ほどもあるという。

 園芸種の中でも桜の代名詞といえるソメイヨシノは、少し遅れて咲くサトザクラ系の八重桜とともに山地にも植えられ、桜の名所となっている山も多い。

 野生種は、首都圏の低山の林内にヤマザクラが多く見られ、山や季節によってオオシマザクラ、マメザクラ、チョウジザクラなども見られる。

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高尾山 (599m、東京都八王子市)
開花期:4月中旬前後
登山口まで都心から1時間たらずの近さにもかかわらず自然が豊か。高尾山頂から奥高尾縦走路の一丁平にかけてソメイヨシノやヤマザクラの並木が続き、ピンクのミツバツツジも咲く。
 高尾駅北口から徒歩5分の多摩森林科学園サクラ保存林は全国各地の桜1500本を集め4月上旬~5月初めごろまで花を楽しめる。
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蓑山 (587m、埼玉県皆野町)
4月中旬~5月初め
山頂直下の美の山公園を中心に全山で約1万本の桜が植えられ、雑木林には野生のヤマザクラも咲く。桜が終わる5月上旬~中旬は新緑にヤマツツジが咲く。
 秩父鉄道の親鼻、皆野、和銅黒谷の各駅から直接登れてアクセスの便もよい。各駅から山頂まで登り1時間30分ほど。
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妙義山 (1134m、群馬県富岡市・下仁田町)
4月下旬~5月上旬
山塊西部の斜面にソメイヨシノ、サトザクラなど約5000本が植えられた「さくらの里」が広がる。
 バス利用の場合は妙義神社前から中間道などを一周してたずねる約4時間の行程。マイカーなら「さくらの里」まで入れるので、石門巡りなどとあわせ手軽に楽しめる。
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カタクリ

▲タネから花が咲くまで、7~8年かかるという

 春、木々が葉を広げる前に芽を出して花を咲かせ、木々が茂るころには葉が枯れて、地上から姿を消してしまう。その生態からスプリング・エフェメラル(春の妖精)と呼ばれる花たちの代表がカタクリで、みごとな群生地が各地に見られる。

 花の時期は生育地の樹林の芽吹きや開葉とほぼ同じであり、標高が高いところや雪国では遅く咲く。

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草戸山 (364m、神奈川県相模原市・東京都八王子市・町田市)
4月上旬~20日ごろ
相模原市の城山かたくりの里には30万株というカタクリが咲く。個人所有の山林だが春のみ一般公開される。
 在来種のカタクリが4月上旬ごろ、その後、黄花カタクリが咲き、さまざまなツツジや桜、山野草も見られる。花を観賞した後は城山湖経由で草戸山や南高尾山稜へ。
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筑波山 (899m。茨城県つくば市)
4月中旬ごろ
標高1000mに満たないが日本百名山にも選定された名山。山頂部にはブナ林が見られ、自然研究路などに約3万株のカタクリが自生する。
 4月初め~中旬にかけ「筑波山頂カタクリの花まつり」が開催され、期間中の土曜日にはガマの油売り口上上演などのイベントも。
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坂戸山 (634m。新潟県南魚沼市)
4月中旬~5月初め
JR上越線六日町駅の東に頭をもたげ2~3時間で周回できる里山だが随所にカタクリの群生地があり、タムシバ、マンサクなども同じころに咲いて早春の花ハイキングを満喫できる。
 山頂には直江兼続ゆかりの山城跡が残り、国指定の文化財にもなっている。
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ツツジ

▲ハイキングで最も多く見かけるヤマツツジ

 桜と同様、さまざまな園芸種があり、野生種は桜以上に多いのがツツジだ。

 首都圏の低山に自生するのはヤマツツジが最も多く、ミツバツツジやトウゴクミツバツツジ、少し標高が高い山ではアカヤシオ、シロヤシオなどが見られる。

 庭園や寺院にクルメツツジ、キリシマツツジ、ヒラドツツジ、サツキなどの園芸種が植えられることも多く、ハイキングの途中で寄れる名所も各地にある。

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霞丘陵 (東京都青梅市)
4月中旬~5月上旬
青梅線が奥多摩の山なみに入る手前、北側に連なる里山。その山懐に抱かれた塩船観音寺はツツジ、アジサイなど季節折々の花が咲く。
とりわけツツジは斜面一面に15種類、約7000株のツツジが咲き乱れてみごと。青梅線東青梅駅から七国峠あたりまで歩くと手ごろ。
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湯坂路 (神奈川県箱根町)
5月上旬~中旬
旧東海道以前の古道で道沿いにもヤマツツジなどが咲くが、登山口付近の庭園のツツジがみごと。 箱根登山鉄道小涌谷駅近くの蓬莱園庭園は40種あまり約3万株が咲く。芦ノ湖畔元箱根の小田急山のホテルは約30種、3000株が植えられ、シャクナゲも同じころ咲く。
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愛鷹山 (1504m、静岡県裾野市、沼津市、富士市など)
4月下旬~下旬
富士山の展望台として知られ、日本二百名山にも選ばれた山で、フォッサマグナ地域の特産で山名を冠したアシタカツツジが自生する山としても人気が高い。
花の時期は新緑と残雪の富士山が美しく、前後してミツバツツジ、トウゴクミツバツツジ、ヤマツツジなども咲く。
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アジサイ

▲ガクアジサイなど原種の修飾花は周囲のみ

 雨に濡れて咲く花の姿や色合いに風情があり、梅雨時に花をたずねるハイキングにもうってつけだ。

 野生種は海岸に多いガクアジサイ、山地に多いヤマアジサイなどがあり、古くから園芸種が作られている。日本の原産で、西洋アジサイと呼ばれるものもガクアジサイなどをもとに欧米でつくられた。

 咲き進むにつれ花色が変わることから七変化、花(修飾花)が4弁に見えることから四葩(よひら)などの別名もある。

源氏山 (159m、神奈川県鎌倉市)
6月中旬~下旬
アジサイが多い鎌倉でもとりわけ花が多いのが長谷寺、瑞泉寺、成就院。長谷寺は数、種類とも最も多く境内の斜面が花で埋まる。
明月院は水色の花が多く植えられ、成就院は海岸を望む参道と花の取り合わせで人気だ。北鎌倉から明月院、源氏山、長谷寺、成就院へ歩くとよい。
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越生あじさい山 (380m、6月中旬~7月初め)
6月中旬~7月初め
梅の里として知られる越生町の麦原地区にある里山。斜面に約5000株が植えられ、一周する遊歩道が設けられている。
麦原入口バス停から4kmほど車道を歩くが、この道も「あじさい街道」として約8000株のアジサイが咲き、目を楽しませてくれる。上谷の大クスノキもたずねたい。
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太平山 (341m、栃木県栃木市)
6月なかば~7月初め
山頂直下に鎮座する太平山神社の表参道は「あじさい坂」と名づけられ、例年、花期には琴演奏や土産物の出店などの「あじさいまつり」が催される。
約1000段の石段沿いに2500株が植えられているほか、謙信平、南麓の大中寺にもアジサイが多いので一周すると、より楽しめる。
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その他

▲山道に顔をのぞかせるヒトリシズカ(琴平丘陵)

 春から初夏、首都圏の低山は花の種類が最も多い季節で、桜やツツジ以外にも花の名所がある低山は多い。ここではシャクナゲ、ハナショウブ、シバザクラの花が咲く山を紹介しよう。

 このころ、山道ではスミレや木イチゴ、テンナンショウの仲間、ヒトリシズカ、ニリンソウなどさまざまな山野草も迎えてくれる。短いコースでも早めに家を出て、ゆっくり春の花と自然を愉しみたい。

丹沢白山 (284m、神奈川県厚木市)
シャクナゲ:4月下旬~5月上旬
坂東三十三観音第6番札所の飯山観音と飯山温泉を登山口として軽いハイキングに親しまれる里山で、全体に雑木林が多く新緑が美しい。
もう一方の登山口である七沢森林公園には芝生の広場など園地が点在し、おおやま広場などに約100種、1万株というシャクナゲが植栽されている。
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大楠山 (242m、神奈川県横須賀市)
ハナショウブ:5月中旬~6月上旬
標高240mほどの丘陵だが三浦半島の最高峰で、全体に海岸性のシイやタブなどの林に覆われているが、富士山や相模湾などの眺めがよい。
登山口に近い横須賀しょうぶ園はハナショウブ14万株が植えられているのをはじめ、5月にはボタンやシャクナゲ、盛夏にはヤマユリなども咲く。
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琴平丘陵 (420m、埼玉県秩父市)
シバザクラ:4月中旬~5月初め
武甲山の山裾、秩父の盆地に沿うように延びる。標高は低いが起伏があり、露岩も見られる。羊山公園内の芝桜の丘は斜面を利用して9種m40万株あまりのシバザクラが模様を描く。
公園内には桜、モクレン、ツツジなどの花木も植えられ、春から初夏にかけて花が多い。
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公園

▲春の神代植物園バラ園から雑木林。バラは初夏に開花

 山を歩きながら花を観察したり、じっくり写真を撮ったりして名前を調べたいが、思うようにできない。そんな人におすすめしたいのが手近の植物園や公園での花ウォッチング。

 アクセスや歩行時間が短いぶん、ゆっくり観察などができるし、名札が付けられている、咲いている花の情報が得やすいなどのメリットもある。

 山と同じ種類の植物がなくても、調べ方や撮影法を学ぶことは予習になる。郊外の大きな公園では、その土地の植生が保全されていることが多いのも魅力だ。

神代植物公園 (東京都調布市)
桜・ツツジ・シャクナゲなど:4月上旬~5月上旬
東京都立の植物公園でバラ園や芝生広場、大温室などが有名だが、雑木林が保存されたエリアがあり、山野草も植えられているほか、湿地や湿原の植物を集めた水生植物園などもあり、一日いても飽きない。
武蔵丘陵森林公園 (埼玉県滑川町)
桜・カタクリ・ポピーなど:4月上旬~5月上旬
開発が進む前は里山のハイキングに親しまれた比企丘陵に、雑木林や谷戸の地形を保全して整備された国営公園。春~初夏なら桜、カタクリ、スミレの仲間、ヤマツツジなどが次々に咲く。
季節に合わせた花の展示会、ガイドウォークなどのイベント、アスレチックなどの施設もある。
箱根湿生花園 (神奈川県箱根町)
山野草:4月上旬~7月
仙石原の湿原を活かしてロックガーデンなども整備され、湿性の山野草はもちろん高山植物も植えられている。
4月はミズバショウ、カタクリなど、GWごろはリュウキンカ、クロユリ、シャクナゲ、マメザクラなど、6月はニッコウキスゲ、コマクサなど100種類以上の花を見られる。

石丸 哲也(いしまる てつや)

東京に生まれ育つ。オールラウンドな登山を経て、山岳ライター、登山・ツアーの講師など幅広く活動している。著書に『ヤマケイアルペンガイド 関東周辺 週末の山登り ベストコース160』『ヤマケイ新書 東京発 半日ゆるゆる登山』『関東百名山』(すべて山と溪谷社)などがある。