富士山を望む大平山で簡易アイゼン3種をはき比べ アイスマスター&スパイダー&ULチェーンアイゼン

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CAMP・アイスマスター/グリベル・スパイダー/エバニュー・ULチェーンアイゼン

軽アイゼン以下の各種簡易アイゼン

CAMP/アイスマスター [キャラバン](写真=赤)
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グリベル/スパイダー[マジックマウンテン](写真=黄)
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エバニュー/ULチェーンアイゼン[エバニュー](写真=グレー)
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果たして「軽アイゼン以下」は山で使えるのか?

僕は12本爪と10本爪のアイゼン、6本爪の軽アイゼンを持っている。どれも金具やストラップでブーツ全体をしっかりと固定できるタイプだ。そうでなければ、雪山はスリップしそうで怖くて歩けない。だが山中で他の登山者を見ると、もっと華奢なタイプや、簡単に取り付けられるタイプのアイゼンを使っている人は多いのだ。大丈夫なのだろうかと思いつつ、本当に充分に使えるようであれば、僕の山装備の一員に加えたい。

そこで今回は、そんなアイゼンを3タイプ用意して山を歩いてみることにした。山岳装備の分類やタイプ名の表現は難しいが、これらは一般的な軽アイゼン以下のスペックなので、「簡易アイゼン」としか言いようがない。しかし軽アイゼンであれ、本格的なアイゼンに比べれば、簡易アイゼンでしかないのだが……。ともあれ、その「簡易的」な雰囲気は写真を見て理解していただきたい。

  

今回試したのが、これら3タイプ。赤(左)は、チェーンに小さめの10本爪がついているカンプ「アイスマスター」。伸縮性のバンドをブーツにかぶせるようにして使うタイプだ。黄色(中)は、グリベル「スパイダー」。プレートに10本のスパイクがつき、ストラップで足の甲とかかと部分をブーツに縛り付ける。グレー(右)は、エバニュー「ULチェーンアイゼン」。華奢なチェーンに7つの突起があり、細いバンドでシューズに固定するものだ

 

富士五湖のひとつ、山中湖湖畔の駐車場にクルマを停めた僕は、その北側にある山に向かって歩き始めた。目的地は太平山だ。富士山の絶好の展望地であり、東海自然歩道の一区間も通っている。登山道よりは遊歩道といった趣で、この手のアイゼンでも充分に歩けそうな場所である。言い方を変えれば、厳冬期でも本格的なアイゼンは必要なく、軽アイゼンがあれば安全に歩ける山だ。

登山口から登り始めると、それなりの積雪量がある。ブーツになにも取り付けないままでも歩けるが、体のバランスを取るのが大変で、時間が経つにつれて疲れてくる

登山口に到着し、僕はブーツのまま雪の上を歩いて行く。積雪量は20cmほどだが、日中に溶けて再氷結した表面は意外と硬く、さらに登山者が踏み固めているので、足の置き場を間違えるとけっこう滑ってしまう。僕はブーツのみで15分程度歩いて雪の状態を把握したあと、カンプ「アイスマスター」とグリベル「スパイダー」を取りだした。そして片足ずつ異なるものを装着する。どちらのほうがよく効くのかを、同じ状況で判断しようと思ったのだ。ちなみに今回のブーツは雪山用ではなく、一般的なトレッキングシューズ。山中でこの手の簡易アイゼンを使っている人の様子に合わせてみたのである。実際、この山ならば充分だろう。

しかし片足ずつ違う簡易アイゼンをつけているのは、妙な風体だ。他の登山者に見られたら、なんと説明しようか……。そんなことを考えながら歩いて行くが、僕のほかには誰の姿も見られない。登山道の様子から察するに、今日は誰もこのあたりを歩いていないのだ。だから、目の前にそびえる富士山の風景もひとり占め。悪くない気分である。

 

緩やかな登山道なら使えるアイスマスターとスパイダー

昨日までの登山者がつけたトレースの上を歩き、場所によってはわざわざ歩きにくい斜面を選びながら、簡易アイゼンの具合を確かめていく。アイスマスター、スパイダー、ともに滑りはほとんどない。このような緩やかな登山道ならば、充分に使えそうだ。

ブーツに取り付けると、ソール側はこのようになる。上が「スパイダー」、下が「アイスマスター」だ。ブーツのソール全面を爪がカバーするアイスマスターに対し、スパイダーのスパイクが効くのは中央部分のみ

とくにチェーンに金属プレートが取り付けられ、そこに10本もの爪がついたアイスマスターは、軽アイゼンと同程度のポテンシャルを持っていると感じる。残雪期や夏場に残った雪渓でも充分にいけるだろう。だが、僕のブーツのソールには少し合わないからか、かかと部分がずれてくる。そのずれは1~2cmほどだが、斜面で重い荷物を背負っているときに突然ずれることがあれば、体のバランスを崩して転倒するかもしれない。強靭な布地のストラップとは違い、伸縮性素材でブーツを固定するのだから、装着は簡単とはいえ、安定感はそれなりというわけである。

取り付け具合を上から見た様子。アイスマスターは赤いバンドがブーツ全体を周囲から覆い、さらにベロクロのテープでフィット感を調整する。スパイダーは滑り止めがついたプレートの上にブーツを置き、足の甲とかかとにまわしたストラップで締め付けるだけだ

とはいえ注意して使えば出番の機会は多そうで、思いのほか気に入ってしまった。つま先部分にも爪があるので、前方へ蹴りだしたときに滑らないのも高ポイントだ。雪面では蹴りださず、フラットに足を置きながら歩くのがアイゼンの基本的な使用方法とはいえ、今回のような緩やかな登山道では夏道のような歩き方になってくるので、この爪の付け方のほうが使い勝手がいい。

ソールに当たるプレートに10本のスパイクがつけられ、ストラップ1本でブーツに固定するスパイダーも、少しずれが生じた。そのずれを減らすにはストラップを強く締めればいいのだが、そうすると今度はその締め付けにより、少し歩いていると足の甲に違和感を覚える。僕のわりとしっかりしたブーツでもそうなのだから、もっと華奢なブーツでは痛くなってしまうだろう。

アイスマスターの唯一の問題は、かかと部分の金属プレートがソールからずれやすく、写真のように外側にはみ出してしまうこと。僕のブーツとの相性もあるだろうが、伸縮性素材のバンドでの固定にはやはり限度があるようだ

プレートとソールのあいだに隙間が生じるのも気になる。この隙間に雪が入り込んで固まると、隙間はより広がり、地面にひっかかりやすくなるのだ。実際に木の階段がある場所で僕はプレートを何度かひっかけてしまい、転倒するほどではないが、いくぶんストレスを感じてしまった。また、スパイクはブーツの中央にしか位置しないため、雪上で足を蹴りだすと、つま先部分は滑ってしまう。一歩ごと、ベタっと足を置く歩き方がよさそうだ。だが、軽量さはすばらしく、収納もコンパクトで持ち運びにはとても適している。

スパイダーの難点は、プレートとソールのあいだにどうしても隙間が空いてしまうことだ。歩いているとこの部分に雪が入り込み、さらに隙間は広がっていくのでときどき雪をとってやらねばならない。それにブーツの上とかかと部分をストラップで強く締める固定方法は、華奢なブーツには厳しいかもしれない。僕のブーツでも少し違和感があった

 

適材適所の順当な結論

途中のベンチで小休憩。僕はバックパックから2足のシューズを取りだし、片足ずつ違うものを履く。今度はエバニュー「ULチェーンアイゼン」を試す番だ。このアイゼンは取り扱い説明書にも「本格的な雪山登山に使用しないでください」と明記され、もともと街中で路面が凍結した際や積雪期の旅行などに向いたタイプだ。しかし、山中で使っている人を見ることも多く、今回はあえて試してみたわけである。

ULチェーンアイゼンを、違うタイプのシューズに取り付けてみたところ。上はミッドカットの軽量ブーツで、下はローカットのアプローチシューズ。どちらにも取り付けられたとはいえ、ミッドカットブーツには少しキツい

しかし、比較的ボリュームのあるミッドカットブーツにはバンドの長さがギリギリだ。つま先部分の締め付けは半端なく、歩く前から不安になる。それに対し細身のローカットシューズにはちょうどいい。だが、どちらのシューズもかかとのバンドはかなり緩く、歩く前からかかとの爪の固定感には確実性を感じられない。チェーンをいくつか外して短くするとよさそうだが、よくも悪くもしっかりと溶接されていて不可能であった。

ULチェーンアイゼンを取り付けて上から見ると、このような状態になる。僕の足は大きめで、それに応じたシューズにこれを取り付けると、締めつけ感をかなり覚える。だがULチェーンアイゼンは今回僕が使用したLサイズ以上の大きさはない

再び歩き出す。だがやはりミッドカットブーツの強い締めつけ感が気になって仕方ない。そこで両足ともローカットシューズにチェンジ。その代わり、簡易アイゼンを付けるのは片足だけにした。そして、雪道をローカットシューズで歩くのはどうかと思いながらも、足裏の感触を確かめていく。ULチェーンアイゼンの爪は、わずか7㎜ほどだ。しかしその爪があるだけで、左右の足の滑り具合は大きく変わった。とはいえ、少し硬い雪の上でやはり体が安定しない。今回のような緩やかな道であれば使えなくもないが、やはり山中での使用はかなり限定されるようだった。

予想以上に滑り止めの効果を感じたULチェーンアイゼンだが、問題は後側のチェーンが緩いこと。つま先部分はあんなにキツいのに……。チェーンをいくつか外して詰めればいいのかとも思ったが、すべて溶接されているので調整はできない

ここで、これら3タイプの重量を比較しておきたい。すべて両足で、アイスマスター(L)約480g、スパイダー約155g、ULチェーンアイゼン約140g(Lサイズ)。このなかではアイスマスターだけ重く感じられるが、その分だけあって、雪上での安定性は段違いだ。通常の登山の際に軽アイゼン的に充分使える実力を持つのは、アイスマスターのみだろう。スパイダーとULチェーンアイゼンは残雪の低山など、非常に使い方は限られる。だが一定の滑り止め効果があり、軽量で持ち運びに苦はない。収納サイズもコンパクトだ。雪山での安全を考えれば推奨しないが、お守り以上の存在にはなる。どれがいい、悪いという話ではなく、すべては使う場所や用途の問題である。

セルフタイマーを使い、山頂で記念撮影。山頂は大きな広場になっていて、ゆっくりと時間を過ごしたい場所だ。今回とは異なる最短コースを使えば、湖畔からはわずか1時間

さて、その後も途中で脇道に入ったり、再びブーツと簡易アイゼンを取り換えて試したりと、それほど長くもない道のりなのに、時間をたっぷりかけて歩いて行った。だが、いつしか太平山に到着。今回は簡易アイゼンのテストのために下ばかり見ていたが、目の前にはいつも富士山があった。この山は本当によい展望地なのである。冬のクリアな空気の中で見る日本一の山は、夏以上に美しかった。

 

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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