爆風の那須岳でシンプルソフトシェルを試す パタゴニア/オール・フリー・ジャケット[パタゴニア]

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今月のPICK UP パタゴニア/オール・フリー・ジャケット [パタゴニア]

価格:17,000円+税
重量:351g
ウィメンズモデルあり


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毎回、絶好のテスト日和です…

いや~、これほどとは……。最近、この連載のための山歩きはいつもこんな感じになってしまう。

2015年5月21日、太平洋上の台風6号は未明に温帯低気圧に変わったものの、いまだ強い勢力を保っていた。だがこの日、僕が目指していた那須連山の三本槍岳の天気予報は朝こそイマイチだが、日中は快晴。ただし、風速はつねに20m以上だ。
いくばくかの不安と期待を混在させながら、僕は東側の峠の茶屋駐車場を出発した。危険ならば山頂まで行けなくてもいい。

歩き始めて15分もしないうちに森林限界を超える。それまでにも強い風を感じていたが、一気に風速は強まり、体がよろけるほどだ。だがテンポよく歩いていた体は適度に発熱し、寒さは感じない。

僕が今回テストのために着ていたのは、パタゴニアの「オール・フリー・ジャケット」だ。ミッドレイヤーとしても利用できるソフトシェルジャケットには、生地に厚みをもたせたり、裏地を起毛させたりして保温力を上げたものが多い。だが、このオール・フリー・ジャケットは薄手でシンプルな一枚仕立て。暑い時期はウインドシェルやシャツ代わりに使用でき、寒い時期はハードシェルジャケットの下に重ねて体温キープに役立つタイプを探していた僕には、まさにピッタリと思えるモデルである。

今回は、このジャケットの下にウールのベースレイヤー1枚を着用していた。

ほとんど起毛がない裏地はサラッした感触で、ベースレイヤーとの摩擦感はない。この手のジャケットはバックパックとの擦れによって背中側がずり上がることも多いが、その点での支障はなさそうで、なかなか好印象だ。

そして、「バリアブル・コンディション・カフ」と名付けられた袖の部分が非常にすばらしい。伸縮性に富んでおり、グローブの上にかぶせてもずり上がらず、一方で締めつける感じもないのだ。

たんなる「筒」といったシンプルな構造で、面ファスナーなどは一切使っていない。これならば袖通しもスムーズで重ね着もラクに行えるだろう。暑いときは非常にまくりやすくもある。

それにしても風の強さは尋常ではない。しかも小雨が降ってきたかと思いきや、それは完全に氷と化し、顔に吹きつけてくると痛くてたまらないのだ。5月だというのに! その後、雨はみぞれ混じりの吹雪となり、ジャケットは次第に濡れていく。

左の写真はジャケット本体に降りつけたみぞれ。いったんは表面を濡らすが、生地の撥水性の高さにより内部への浸透はない。これは下山するまで同様だった。強風とはいえ降水量はそれほどもない今回のような状況では、レインウェア代わりにも充分に使える機能性の高さだ。しかし袖の部分の撥水力はそこまでではない。右の写真を見るとわかるが、当初こそしっかりと水を弾いていたが、時間とともに溶けたみぞれによる水分は浸水していった。今回は水分が少なかったので判断しにくいが、もしかしたらいずれぐっしょりと濡れて水分を含んでしまった可能性もある。

とはいえ、誤解をもたれないように改めて説明を加えれば、このジャケットはあくまでも透湿性と撥水性をもつソフトシェルであって、防水性のレインウェアとして作られてはいない。袖の部分にいくらか浸水があったとしても、そもそも求められている機能とは異なるので、仕方ないのである。

シンプルさをどう使いこなすか? それはユーザー次第

強風のなかを前進していくと、峠の茶屋跡避難小屋が近付いてくる。茶臼岳と朝日岳との鞍部に位置する風の抜け道だ。

おそらく瞬間最大風速は30m近い。幸い、峠という地形の特徴により風向きは一定しているので、僕は立ったまま歩いて避難小屋まで到達できたが、周囲の登山者は最後には這いつくばりながら進んでいたほどだった。小屋はこのとき、まさに「避難」小屋と化していた。

すぐ北側にある剣ヶ峰はほとんどガスによって見えない。避難小屋を風除けにして10分以上も待ち、やっと撮影できたのが下の写真だ。

本来はこの右側の巻き道を使って三本槍岳に向かうのだが……。地形的にその手前の平地がもっとも風の強い場所と考えられ、実際に試しに近付いてみただけで僕の体は吹き飛ばされそうに。四つん這いになっても、地面から引きはがされそうなほどだ。風上に顔を向けると風圧で呼吸すらできない。巻き道や稜線上で風にあおられれば滑落しかねないだろう。小石まで飛んでくる猛風とは、さすがは強烈な風で有名な那須連山なのである。

僕はここで下山することを決めた。出発前から想定していたことでもあり、この風とみぞれを体感できただけでもよい経験になった。ウェアのテストという意味では、むしろ好都合だったといえなくもない。

この強風の中で避難小屋のなかにいる方に写真を撮ってもらうのは気が引けるので、自力で記念撮影を行なう。

伸ばした腕が風であおられ、なんとかブレずにとれたのが、こんな一枚。じつはこの写真だけではなく、今回使用している写真は行動中の強風とみぞれのためにうまく撮影できず、下山後に撮りなおしたものが含まれている。ご了承いただきたい。

みぞれが降っているのは標高が高い場所だけで、下山口付近はどうやら快晴だ。

来た道を戻ると日光が差してくる。いまだ風は強いが、先ほどまで濡れていた袖の部分は一気に乾いていき、このジャケットの速乾性の高さが感じられる。それにしてもわずかな違いで、まさに天国と地獄のようであった。

風が弱い場所を探し、登山道上で気になっていた部分を再チェックした。

こちらは腰元のポケット。351gと軽量なオール・フリー・ジャケットからはファスナーなどが省かれ、とてもシンプルな作りになっている。

内部はメッシュ地になっており、通気性は上々。生地自体の透湿性と相まって、汗による蒸れがすぐに抜けていく。ただし、今回はこの「閉じられない」形状のために、ここから強風が吹きこみ、胴周りが少々寒く感じられた。やはりシンプルを極めたものほど、状況によってその性質が強く現れる。どんなものにも一長一短があるわけだ。

しかし薄手でシンプルだからこそ、コンパクトに収納できる。

左の写真はウェアの全体。その胸のポケットをひっくり返し、本体を収納した状態が右の写真だ。ソフトシェルジャケットでこれほど小さく持ち運べるものはめったになく、夏場の防寒用に持ち歩くのにためらいはない。ちなみに、このジャケットはとくにパッカブル仕様ではない。このように胸ポケットに押し込んだのは、僕が試しにやってみただけのことなので、ご注意を。

その後、晴れ間は山頂付近まで広がった。

僕は再び峠の茶屋跡避難小屋を目指してみたが、猛烈な強風であることに変わりない。これはダメだ。僕は登山道の北側にそびえる朝日岳などの写真を撮影すると、再び断念して下山した。

しかしオール・フリー・ジャケットの実力はだいたい把握できた。袖の部分の撥水力はもっと高いほうがよいとはいえ、薄手でシンプル、重ね着しやすくてコンパクトにもなるという僕の求めるポイントにはマッチしていた。状況によってはウインドジャケットよりも有用だと思う。人によってはポケットにファスナーがついていたほうがよいと思うかもしれないが、あとは好みの問題だろう。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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