八ヶ岳赤岳で「使う楽しさ」満載の大型ザックをチェック ホグロフス/ネイド50(NEJD50)[ホグロフス]

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今月のPICK UP ホグロフス/ネイド50(NEJD50) [ホグロフス]

価格:43,500円+税
容量:50L
重量:2.44キロ(M-Lサイズ)
背面長にS-M、M-Lの2サイズあり


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かゆいところに手が届く機能がいろいろ

南八ヶ岳、観音平の登山口に停めたクルマのなか、待つこと6時間以上。時計が正午を過ぎると、それまで降っていた雨がとうとう止んだ。天気予報を信じて待ってみた甲斐があった……。僕は大きなバックパックを背負うと、今日のキャンプ予定地に向かって出発した。青年小屋までは、歩行3時間程度。このくらいに出発しても問題はない。

今回、テストのために持ってきたバックパックは、ホグロフスの「ネイド50」(NEJD50)だ。この50Lから、より大きな65L、80Lまでのシリーズ展開があり、各部におもしろい工夫がたくさん設けられている。半年前の展示会で見たときから目をつけていた新製品である。

例えば、通常の雨蓋の下側以外にフロント部分も大きく開き、荷物の出し入れが簡単だ。

とはいえ、それだけなら他のバックパックでも取り入れられているアイデアである。だが、ネイド50は開口部の左右に細い板状のパーツが組み合わされ、開いた状態でも形状が崩れず、使いやすさが増している。このパーツは背負ったときには荷物を左右から挟み込むような形で安定させるため、歩行時のバランスも上々というわけだ。ただし荷物をぎっしりと入れていると、ファスナーを開くのには多少の力が必要になる。

ポケットも充実している。それも、数が多いだけではない。

ヒップハーネスと連結するポケットは大きな二等辺三角形のような形状で、スペースに余裕があるだけではなく、歩行中には邪魔にならない位置になる。今回、僕は地図を入れて使ってみたが、ファスナーが引きやすいので、歩行中に何度も取り出してもストレスを感じない。そもそもこのポケットには深さがあるので、ファスナーを締めなくてもモノを落としにくいという利点がある。フロント部分の上部、雨蓋の下にも左右のポケットがあり、これもまた大きく開いて使いやすい。さらにサイドとフロントの大型ポケットは伸縮性素材で作られ、ボトルなどもしっかりキープできる。

そして、背負いやすさの要となる背面の構造だ。

ネイドシリーズはショルダーハーネスの末端に付けられたフックを、背面のテープに引っかけて背面長を調整するシステムになっている。非常にわかりやすい構造で、なにより作業が簡単だ。最近、複雑な背面システムをもつバックパックが増えているが、多くの人にはこれで必要十分なのではないだろうか。

さて、歩き始めて2時間少々で標高2523.7mの編笠山に到着。山麓にはすでに日光が当たり始めていたというのに、山頂付近はちょうどガスが漂う高度のようで、視界は開けていなかった。残念だが、雨が降っていない分だけマシだ。

山頂に到着するまで、しばらくはショルダーハーネスと一体になった背面パッドと背面パネルの段差が気になっていた。パッドの角の部分が背中に当たり、なんだかつねに指圧されているような感じなのだ。しかし編笠岳山頂までの2時間のあいだに違和感は減っていた。新品ゆえに硬かったパッドが少しずつ柔らかくなり、体に馴染んだのだろうか。もしくは、よりよいフィット感のために背面長を何度か微調整したのがよかったのかもしれない。ただ、人によってはいつまでも違和感がぬぐえない可能性もある。このあたりは要注意だ。

山頂から下っていき、青年小屋のテント場へ。前日、そしてこの日の午前中までの悪天候のために入山した人は少なかったようで、僕以外には誰もいない。テント場は風こそ強かったが、それ以降も雨が降ることはなく、ひとりきりの夜を静かに味わうことになった。

今日は本来、朝早くから歩きはじめることができていればキレット小屋のテント場まで行く予定だった。だが、翌日に通ったテント場は水場が残雪で埋もれていたのである。結果的に、青年小屋のテント場に宿泊したのは正解だったようだ。

雨蓋がサブバックに早変わり。身軽に頂上をめざす。

翌日は朝から八ヶ岳最高峰の赤岳へと向かう。ネイド50の雨蓋には細いストラップが付属しており、サブパックとして使用できる。雨蓋裏面のポケットから引き出したストラップをバックルにはめるだけのいたって簡単な仕組みだが、これまでにはおそらくほとんどなかった方式でもある。なかなかのアイデアだ。正確な容量はわからないが、20Lほどではないだろうか。

一般的なコースタイムでは青年小屋から赤岳までの往復は8時間近くもあり、この簡易的なサブパックではストラップが肩に食い込んでツラいのではないかと思われた。だが、少々背負いにくくても安全でなくなるわけではないだろうと、レインウェア、水、行動食などを詰め込んでいく。

ちなみに、この雨蓋もポケットが2つのスペースに分かれ、使いやすく仕立てられている。

内部は1枚の壁で仕切られているが、その生地の面積には余裕がある。そのために2つのポケットの大きさは自在に変わり、一方をメインのポケットとして大部分の荷物を入れ、もう一方をサブとして貴重品のみを入れるなど、使い分けが容易なのだ。

下の写真の左がサブパックとして背負ったときの状態。右の写真が通常の状態だ。

サブパックの状態ではかなり丸みを帯びたルックスだが、通常時は横幅が狭く、周囲の岩や枝に引っかかりにくい形状となっている。見た目も悪くない。

こんなサブパックを背負い、縦走路を進む。

右に赤岳、左に阿弥陀岳。荷物が軽いので歩行ペースは早い。これだけのよい天気なのに山頂まで誰にも会わず、なんとも贅沢な時間なのである。

急峻な岩稜歩きを楽しみつつ、標高2899mの赤岳に到着。やはり人気の山とあって、山頂付近では数人の登山者に出会った。

雨蓋を利用したサブパックは、ストラップが肩に食い込んでくることもなく、まったく問題なし。荷物の総重量は4~5キロだったが、その程度ならば長時間行動でも支障ないようだ。さすがに背負い心地がすばらしいわけではないが、簡易的なサブパックとしては充分に通用するだろう。

同じ道を引き返し、昨日はガスで隠れていた編笠山直下にある青年小屋へ戻る。昨日の静けさが嘘のように小屋の付近には登山者が多く、活気にあふれていた。好天のもとで下山しなければならないのがもったいないと思いつつ、再び雨蓋を本体に付け、テントを撤収する。

その後は巻き道を使って押手川に向かい、観音平へと下っていった。

午前中には早くも下山を完了。駐車場の近くではハルゼミの合唱となり、これから夏がやってくることを告げている。なんと、さわやかな雰囲気なのか。

初日の計画変更のため、フル装備でバックパックを背負って歩いたのは5~6時間に過ぎなかった。だがネイド50の実力はおおむね理解でき、難点らしい難点はないと思える。ここには書ききれない工夫も随所にあり、「使う楽しさ」をもつバックパックだ。しかし、バックパックでもっとも大切なのは、使う人の体に合っているかどうかだ。ネイド50の背面システムやヒップハーネスが体にフィットしそうな人ならば、試してみる価値は大いにあるだろう。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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