ふるさとの山・太白山で名脇役「マルチツール」をチェック レザーマン/リープ[レザーマンツールジャパン]

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今月のPICK UP レザーマン/リープ [レザーマンツールジャパン]

価格:9000円+税
重量:138g
カラー:ブルー、レッド、グリーン

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イマドキのマルチツールを解剖する

僕の実家がある仙台に帰省してきた。帰省といえども「みちのく潮風トレイル」のトークショーという仕事が理由だが、せっかくのこの機会を利用してひさしぶりに太白山に登った。今回のお伴は、レザーマンのマルチツール「リープ」である。

リープは収納時の大きさが全長8.3cm/幅3.5cm/厚み1.9㎝。重量は138g。大きさのわりに軽めなのは、グリップ部分が金属ではなく、プラスチックになっているからだ。

「マルチ」ツールというくらいなので、多機能が売り。具体的には、ニードルノーズプライヤ、レギュラープライヤー、ワイヤーカッター、ハードワイヤーカッター、ハサミ、のこぎり、プラスドライバー、栓抜き、中型マイナスドライバー、ピンセット、小型マイナスドライバー、定規、ランヤードリングという13の機能が、小さなボディに付加されている。定規の目盛りもグリップに刻まれ、左の写真のように一直線に延ばせば、15cmまで計測可能。裏面はインチ表記となっている。

さて、ここで気付いただろうか? 先の「機能」のなかに、ナイフが含まれていないことを。じつはリープの特徴のひとつは、「ナイフガード付きナイフ」が付属しているとはいえ、あらかじめ本体には取り付けられていないことにある。つまり、買ったままの状態では、ナイフが使えない。

左が、ナイフを装着していない状態。右は、ナイフガードを外し、本体の隙間に装着した様子だ。ちなみに、ナイフはいったん装着してしまうと、二度と取り外しができない。つまり、ユーザーは「ナイフなし」「ナイフあり」のどちらの状態で使い続けるしかないのである。下の写真のように、完全にはめ込んでしまえば、ブルーのナイフガードは不必要になる。もはや捨てるしかない。

この理由は、このように「ナイフがない」状態にしてあれば、レザーマンの本国アメリカでは航空機の機内にも持ち運べるからだという。しかし鋭利なハサミはついているので、日本国内では微妙な存在となり、搭乗口ではおそらく没収されるだろう。ただし、リープの刃渡りは5cmなので、少なくても銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)の規定である「5.5cm以下」にはなり、所持自体は規制されない。だから、街の中でバッグに入れて持ち歩いても大丈夫なのである。ともあれ、日本国内での使用時、ナイフを装着しないことに何か意味があるならば、いくぶんかの軽量化程度。便利さを考えれば、やはり装着すべきだ。

僕が考える登山に重要な3つのツール

ところで、僕がマルチツールに求める「必要不可欠」な機能には、3つある。「ハサミ」「ナイフ」「プライヤー(ペンチ)」だ。「マルチ」ツールのパーツだけあって、調理、道具の修理などにはじまって、用途はさまざま。それぞれを何に使うのかは説明しにくい。

だがあえて、一例を挙げれば、食材のパッケージを開けるにはナイフよりハサミ。しかし野菜や肉を切るにはハサミよりもやはりナイフ。ギア類が破損したときは、ナイフやハサミとともにプライヤー。小さなものをつまんだり、細かいものを強い力で押さえつけたりするときには、プライヤーが活躍する。山中でのプライヤーの重要性はなかなか伝えにくいが、いざ困ったときが訪れたときこそ、その真価が理解できるものなのだ。これら3つの機能に比べれば、他の機能の必要性はかなり下がる。

僕はこれまでに、少なくても20~30のマルチツールを所持/使用してきた。当初はアーミーナイフのようにナイフが主体で、プライヤーはもちろん、ハサミすら省略されているものばかりだった。しかし経験を重ねるごとに、本当に重要なのは、先の3つの機能であることに気付いた。もちろん、このリープは、僕の考える「3つの機能」をすべて有している。あとはその使い勝手だ。

太白山には、生出森八幡神社から登り始めた。僕がこの山に最後に登ったのは、今から25年以上も前。故郷の山の懐かしい雰囲気にうれしくなってしまう。

標高は、わずか321m。しかし、山頂付近は鋭くとんがっており、仙台平野からは非常によく目立つランドマークとなっている。そのこともあって、仙台市民にはとてもなじみのある山なのだ。仙台市の西側には太白区があるが、その名もこの山から採られているのである。

途中までは緩やかな傾斜だった太白山は、頂上付近で一気に標高を上げていく。岩場もあり、落石も多発する。低いからといって気が抜けない。

東日本大震災のときには、石垣や登山道がひどい被害にあり、修復にはかなりの時間がかかっている。だが、今はだいぶ以前の姿を取り戻しているようだった。

山頂に到着。この日は日曜日で、登山者がひっきりなしに訪れていた。

記念写真の撮影を頼まれるついでに、反対に僕も1枚撮ってもらう。周囲の人たちが話す仙台弁が懐かしい~。

実際の使い心地はどうか?

僕は山頂から少し離れたところに陣取り、荷物を広げる。たまにはゆっくり昼食を楽しもうというわけだ。

しかし、あれ、ハシがない!?
……というのは作り話で、今回はリープの性能を試すために、あえて持参してこなかったのだ。そこで、足元に落ちている手頃な枝を拾い、まずはノコギリで切断。それからナイフで形を整えていく。

のこぎりは僕にとって「なくてもよい」機能であるが、このようなときは便利だ。切り味はなかなかのもので、1cmほどの直径の枝など、すぐに切断できる。もっとも刃渡りはナイフと同様に5cmなので、せいぜい2~3cmの枝くらいしか対応できないだろう。

しかし枝をほどよい長さに切断したのはいいが、直径1cmのものをハシに適した太さまで削っていくには骨が折れる。そこで、もとから細い枝を探し直し、節を落とし、表面を削っていった。

ナイフやのこぎりは、使用時にロックがかかり、力を入れて作業しても安全だ。そして、ロックはグリップの鍵のマークがついた場所を押すだけで解除できる。この方式と場所は他のマルチツールのロック解除よりも視覚的にもわかりやすく、工夫されていると思う。だがグリップを不用意に握っていると、力をいれたときに間違って押しかねないともいえる形状だ。少し注意したほうがいいだろう。

リープのナイフの切れ味はすばらしく、2本削るのに3分程度ですんだ。 

1本は完全に皮を落とし、もう一本は少しだけ皮を残して、味を出してみる。完全に直線になったわけではないが、このとき1回だけ使えればいいものとしては、上出来だろう。

なんだか満足してしまい、調理に取り掛かる前に山頂付近の風景を見渡す。

南側には雪をまとった奥羽山脈が美しい。20kmほど離れた宮城蔵王の烏帽子スキー場もよく見えた。

西側には仙台市の住宅地。その先には太平洋の青い海面も望まれる。

太白山は仙台近辺では第一級の展望地なのである。

その後、クッカーでお湯を沸かし、レトルトのシチューを温めた。しかし、先ほど作ったハシでは滑ってしまい、お湯から引き上げることができない!

そこで、プライヤーの出番。実際、僕はこういうとき、いつもプライヤーを使用している。無理にハシなどを使うと途中で滑り落としてクッカーごとひっくり返すこともあるが、プライヤーで使えば確実なのである。

次にお湯をカップに移してスープを作ろうと考えた。
だが、クッカー付属のハンドルを忘れていた! ……というのは今回の設定だ。だがそうするとプライヤーの価値がさらにわかる。プライヤーは、熱いものをつかむには好都合な機能だからだ。

もともとハンドルがついているクッカーではなく、持ち手がついているはずもない小さな缶詰を加熱することを考えると、その利点はよく理解できるだろう。他にも調理時はバーナーヘッドのゴトクの微調整をする際にも、プライヤーがあれば火をつけたままでも作業できる。プライヤーはただ細かな作業に使うだけの機能ではなく、熱に対応する「指」にもなるのだ。リープのプライヤーの内側のミゾは適度に細かく、しかし触ってみるときれいに角はとられている。クッカーをつかんでも傷は付きにくいはずだ。

シチューのパッケージはハサミで開封した。こういう作業はナイフよりもハサミが得意である。だが、このハサミはどれくらい切れるのだろうか? 一般的なマルチツールのハサミであれば、アルミ缶くらいは簡単に切断できる。しかし、今回テストのために切ってみようと考えたのは、アルミよりもかなり硬いスチール製の缶詰の蓋。先ほど加熱していたカレーの缶詰のものである。

さすが、軽い力ではなかなか切れない。しかし力を込めると少しずつ切れ目が広がっていく。1分ほどで4~5㎝の長さに達し、三角形状に切断完了。刃の部分を確認しても、とくに刃こぼれはない。もしかしたら刃が少し鈍った可能性もあるが、ここでは確認はできなかった。

食事を終え、最後にもう少しだけリープの機能をチェックする。僕が気になるのは、やはりプライヤーの使いやすさだ。硬く縛られたロープを解かねばならないことは山中でよくあることだが、指だけですぐに解けない場合、僕はいつもマルチツールを利用している。

リープのプライヤーは先端が細くなるだけではなく、厚みも減らしてある。一般的なペンチよりも、ラジオペンチに近い形状だ。2mm程度の極細のロープも簡単につかめ、指だけでは作業できないほど硬かった結び目が、あっけなく解ける。またリープにはピンセットも付属しており、一般的なものよりもゴツめだ。これもまた、トゲ抜きなどの用途に加え、ロープを解く際にも使えそうである。

求む! 登山用マルチツール!

僕がマルチツールに求める主機能についていえば、リープはどれも充分以上の力を持っていた。各部が頑丈にできており、収納されたそれぞれのパーツも指先で簡単に引き出すことができ、なかなか使いやすい。また、気に入ったのは、グリップがプラスチック製であることだ。直火で長時間あぶれば融ける素材だが、通常用途なら問題はなく、なにより手で触ったときに冷たくない。寒い時期にはとくに重要な点である。

しかし、重量138gは軽いとはいえない。やはりまだまだ無駄な機能も多いと思われる。「山」では必要ない機能を落とせれば、もっと軽量になるはずなのだが。

僕が「一般的な山行」ではほぼ無用だと思う機能は、リープについているものでいえば、プラス/マイナスのドライバー。そして、今回は使用したとはいえ、のこぎりの重要性も低い。これらをなくして、もっとシンプルかつ軽量したほうが、使い勝手は向上しそうである。他に栓抜きやワイヤーカッターも必要ないだろうが、これらは他のパーツの形状を工夫し、プラスα的に存在する機能。重量には関係ないので除外する。

山頂に別れを告げ、遊歩道を使って自然観察センターの方向に進んでいく。

このあたりは枝打ちがしっかりとなされた杉の美林だ。日差しは暖かく、寛いだ気分になれるよい道である。

開けた場所で振りかえると、太白山の山頂が目に入ってきた。この山、仙台平野からは本当に目立つ。新幹線のなかからこの山を見ると、仙台に帰ってきた気分が高まるんだよな。

今回はリープのテストを兼ねた山歩きだったが、その分だけ調理に時間をかけ、のんびりとできた。それにしても、故郷の山はやはりいい。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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