景信山で薄くて温かいハイブリッドジャケットをチェック アウトドアリサーチ/デビエイターフーディ[A&F]
今月のPICK UP アウトドアリサーチ/デビエイターフーディ [A&F]
通気性重視のインサレーションウェア
杉花粉の季節が今年もやってきた。こうなると花粉症の僕は、杉の人工林が広がる山へは行きたくなくなる。しかし……。今回向かったのは、高尾山に隣接する景信山。杉花粉の真っただ中に飛び込んでしまった。
お伴に着ていったのは、アウトドアリサーチの「デビエイターフーディ」。見た目はウインドシェルにしか見えない薄手のジャケットだが、内側にポーラーテックアルファという薄くても暖かな断熱材が使用され、厳密には防寒着であるインサレーションの範疇に入るモデルだ。この薄さはこれからの季節にちょうどよい。
その特徴のひとつは、ウェアの部分によって使用素材が異なること。スピーディな動きやハードな行動を想定して作られているため、正面から受ける冷気を遮るべく、フロントや両脇にはナイロンのパネルが用いられ、その下にポーラーテックアルファが封入されている。一方で、腕や背中、フードには極薄の伸縮性素材が使われており、裏地は起毛している。風が当たりにくい部分は通気性を高め、汗をすばやく吸い取って発散させようという発想だ。
右の写真は、背中の裏地が起毛している様子。格子状のグリッドになっている。
その起毛部分を光に透かして見たのが、左の写真の左側。いかにも通気性が高そうではないか。ちなみに左写真の右側は、ポーラーテックアルファが入っている部分の裏地になり、こちらも通気性が高いメッシュ地。表地のナイロンの内側では、適度に空気の循環がなされるのである。
登山口を出発し、杉林の中で高度を上げていく。小雨がパラつく薄曇りの天気で、周囲の木々や地面はすっかり濡れていた。そのために花粉の飛散はあまり感じられない。
山に登って楽しい天候とはいえないが、この季節ならば、よしとしよう。そして歩きながら、各部をチェックしていく。
デビエイターフーディの袖は長めに作られ、スリット状のサムループがつけられている。ここに親指を通せば、手の平と甲の大半を覆うことができ、簡易的グローブの役割を果たしてくれるのだ。サムループを使わなくても、袖口は伸縮素材で適度に絞られているため、袖の先端は手首で止まる。だから、袖が邪魔にはならない。
ポケットの内側は、先ほどのメッシュ素材だ。
肌触りがよく、小雨で濡れた手を突っ込むと、すばやく吸い取ってくれる。
僕が気に入ったのは、ジッパーの引き手が指にかかりやすい点だ。
デビエイターフーディは305gとインサレーションとしては非常に軽いが、他のメーカーのようにこのようなパーツを小型化してまで軽量化を推進しようとはしていない。僕個人としては、各部のパーツを使いにくいまでに小型にするくらいならば、多少重くてもグローブをしたままでも操作できる大きめのパーツにしてくれたほうがうれしく感じる。
急な坂を一気に進んでいくと、肌が汗ばんでくる。気温は思いのほか高く、Tシャツになりたいくらいだが、ここはテストのために我慢。実際、体の正面以外は冷気が体を冷やしつつ、汗を発散させているのがよくわかる。もっと気温が低ければ、僕の体からは湯気のようなものが立ち上がっていたはずだ。
小仏峠へ向かう道と、景信山へ進む道との分岐にさしかかる。
山頂はもうすぐだ。景信小屋の手前では、ツバキの花が僕を出迎えてくれた。
悪天の平日、しかも早い時間とあって、景信小屋の前には誰もいない。
ベンチに座って休もうにも雨で濡れている。僕はさっさと山頂碑の前へ進んでいった。
誰もいない山頂で記念撮影。
デビエイターフーディの下はベースレイヤー1枚だ。それでも充分に暖かいのは、気温の高さのせいもあるが、このウェアの保温性が優れているからだともいえるだろう。
周囲の木々の枝は霧氷で覆われていた。
今日はともかく、昨日まではかなり寒かったようである。
山頂前で行動食を取りながら佇んでいると、なんだか周囲の様子がおかしい。空から何かが降り、足元には氷が散らばっている。むっ、これは雹か霰か? いや違う。
この氷は、霧氷が気温で緩み、風にあおられて落ちてきたものだった。数分後にはものすごい勢いで氷が降り注ぎ始め、もはや大きな氷の嵐のようだ。なにかの拍子に顔や手に当たると、痛いは冷たいはでとても我慢しきれない。首から氷が入らないようにと、フードをかぶって逃げることにした。
木が生えていない場所までくれば、もう安心だ。デビエイターフーディのフードはソフトに僕の頭を包み込み、帽子をかぶったままでも着用感は悪くない。それにしても、霧氷の落下を避けるためにかぶることになろうとは、思いもよらなかった。
いつもの悪天候で、存分に基本性能を体感!
景信小屋からは小仏峠へ向かう。
中央高速道路でこの峠の下をよくクルマで通っているが、山中は静かなものである。峠では高尾山から縦走してきたらしい登山者数名といっしょになったが、その人たちの声がときおり聞こえる程度だ。
小雨といえども山中に長時間いれば、雨水や周囲の草木についていた水で、次第にウェアが濡れてくる。だが、表地のナイロンの撥水力はすばらしく、雨水は玉のようになって地面に落ちていく。
その反対に、腕の伸縮性素材はすぐに雨水を吸収する。とくに多くの水がかかった部分は、黒ずむほどだが、時間とともにいつしかその面積は広がっていき、黒ずみ自体は薄れていく。つまり、水分がうまく拡散されているということだ。これならば乾燥も早いだろう。
小仏峠からの下り道では、ちょっとした思いつきでウェアの前後を反対に着用してみた。フードが首元にくるので邪魔で仕方ないが、このまま10分以上、小走りのように下山していく。
こうすると、体の正面を風から守るパネルがないために、風の影響がダイレクトに伝わってくる。要するに、寒さを感じるのだ。同時に、背中側はそれまで以上に温かくなる。2つの素材を使い分けている意味がよくわかった。
山梨県と東京都との境になる小仏峠から東京方面に向かう道は、昔は多くの人に使われていたからか、今もとても歩きやすい。
この付近も杉の木は多いが、幸いなことにくしゃみが出るほどの花粉は感じない。悪天候よ、ありがとう。
駐車場に戻り、最後のチェック。僕が気になったのは、生地を縫い合わせた肩にあるステッチだ。
バックパックを背負っていると、ショルダーハーネスで強くこすられ、すぐに傷んでくるのではないだろうか? いや、それくらいのことでは摩耗しない強靭な糸を使っているのかもしれない。また、表地の撥水性はどれくらい維持できるのか? どちらのことも、わずか1日使っただけではわからない。
それらの疑問点を除けば、デビエイターフーディにはとくに指摘するほどの問題はない。充分な機能性がよく伝わってきた。着用しないときには少々かさばるが、これはあくまでも防寒性を考えたインサレーションであって、防風性がメインのウインドジャケットではないのである。
駐車場でウェアを脱いでいると太陽の光が強まり、次第に明るさも増してきた。もう山頂の霧氷はすべて落ち切っただろうか? それどころか、もう融け切ってしまったかもしれない。僕は花粉の飛散がわずかでも少ないうちにと、登山口を後にした。
プロフィール
高橋庄太郎の山MONO語り
山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!
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