甲武信ヶ岳で軽量柔軟トレッキングブーツの実力をチェック スポルティバ/トランゴTRK GORE-TEX[スポルティバジャパン]

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今月のPICK UP スポルティバ/トランゴTRK GORE-TEX [スポルティバジャパン]

価格:2万7700円+税
重量:約580g
カラー:イエロー×ブラック、レッドの2色
サイズ:37~48(23.7cm~30.3cm)

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人気のアルパインブーツメーカーの軽量モデル

前日に毛木平から十文字峠まで登った僕は、テントを撤収すると、尾根沿いの登山道を使って甲武信ヶ岳へと向かうことにした。前回に引き続くこの山行のときに履いていたのが、今回ピックアップするスポルティバの「トランゴTRK GORE-TEX」だ。

今年発売されたばかりの新モデルである。その名に「TRK」つまり「トレック」という言葉が入っているように、岩稜帯や雪山よりも一般的なトレッキングに向くタイプだ。

登山口から履き続けていたこのブーツに再び足を入れ、僕は十文字峠を後にした。

天気は前日に続き不安定で、小雪のようなものもちらついている。登山道は少々湿り気を帯び、滑りやすくなっており、ブーツのグリップ力などを確かめるには好都合だ。

本格的に歩きはじめる前に、登山口で撮影しておいた画像で、このブーツを少し細かくチェックしておこう。まずはソールの様子を見るために、まっ平らな木の上に置いてみる。

すると、ソールの前方が緩やかに反り上がり、つま先がかなり浮いているのがわかるだろう。そして、ビブラム社の素材はかなりソフトだ。スポルティバはアルパイン系のブーツで定評が高いが、そんなタイプのブーツのソールは岩の突起を確実にとらえ、不整地での安定性を増すために、もっとフラットで硬い。それに対し、トランゴTRK GORE-TEXは形状といい、その柔らかさといい、前方への蹴りだしやすさを重視していることがわかる。

次に、ソールのパターンだ。

つま先には平面的な「クライミングゾーン」があり、岩場への対応も考慮していることがわかる。アルパイン系ブーツにはおなじみのつま先への工夫ではあるが、トレッキング系ブーツのソールにクライミングゾーンを設けているモデルは多くはない。こんなところにもスポルティバらしさが表れている。また、ソールのパターンはわりとシンプルで、ミゾは浅めだ。摩耗すると滑りやすくなりそうだが、溝のあいだに土がこびりついて取れなくなることは少ないだろう。ミゾが深ければ土の上ではグリップ力が増すが、その代わり土がこびりつきやすくなり、結局スリップしやすくなることもある。ミゾの深さの問題は歩く場所の地面の質で変わるため、どちらがいいのかは簡単に判断できない。

つま先は比較的丸みを帯びた形状で、一般的なアルパイン系ブーツほどは細くはない。これならば蹴りだしの際に土に触れるつま先の面積が広くなり、歩行中に足先が左右にぐらつくのを抑えてくれるだろう。スムーズに歩けて疲れにくいはずだ。

かかとは少し幅広になっている。黄色いミッドソールのクッション性もよく、地面に着地したときの安定感と衝撃吸収性が増している。これもまた疲労を軽減するのに役立つと思われる。

ブーツを内側からも確認しておこう。足首の部分は比較的薄く作られており、柔軟性に富む。実際に足を入れたときのフィット感も上々だ。どの点から見ても、このブーツは柔らかく作られており、軽快に行動できるように設計されている。

フットベッド(インソール)も立体的に作られていて、足なじみはよい。ただし、かなり薄い。より体重をしっかりと支えてくれるフットベッドのほうを好む人は、市販の他のフットベッドに入れ替えたほうがいいかもしれない。そのときはこのブーツの柔軟性を損なわないように、屈曲性が高いものを選ぶとよさそうだ。

最後にアッパーの素材やフックなどのディテールである。 アッパーは薄手の素材ながら、傷みやすい部分には樹脂をコーティングして補強を行なっている(黄色い部分)。足首は前後左右に動きやすいように柔らかな素材を用い、内側にはクッション材を入れている。

靴ひもを縛り上げるパーツは3種類使われ、つま先のほうは岩場でも引っかかりにくく、破損の恐れも少ない化学繊維のループ。その他はフックだが、足首が曲がる部分には固定力が強い形状のものが採用され、それよりも上部にはひもを簡単にかけられるデザインのものが選ばれている。細かい点も、よく考えられている。

柔らかいブーツの利点と扱い方を考える

ところで、十文字峠を出発する際に、僕はあることを試してみた。それは左右のブーツの靴紐の締め方を大きく変えることだ。具体的にいえば、左はかなり強く締め上げ、右は緩めにしておいたのである。下の写真を見れば、おわかりいただけるだろうか。

これから続く登り道に合わせれば、セオリーでは右のように緩めにしておくのがよい。足首が曲がる部分よりも上に余裕を持たせることで可動域が広がり、足が上げやすくなるからだ。一方、左足のように全体を強くフィットさせる締め方は、足首のホールド感が高まるため、本来ならば体重の負担がかかりがちな下り道に合っている。しかし、このブーツは見た目以上に柔軟性があるため、登り道でも左足のように締めても歩きやすさは変わらないのではないかと思い、試してみようと考えたのである。

下の写真は、歩行中に撮影したものだ。実際、このブーツは、これほどよく曲がる。

靴紐の締め方ひとつでも、この柔らかさを生かしたフィッティングを考えたほうが、さらに軽快、安全に歩けるはずなのだ。

十文字峠からの道は、土が柔らかな樹林帯、クサリがついた岩場など、バリエーションに富む。

小雪は相変わらずちらついており、このクサリ場も部分的には湿り気を帯びていた。

こんな場所でのトランゴTRK GORE-TEXのグリップ力はどうだろうか。歩きやすそうな場所をあえて避け、大小の岩の突起にブーツを乗せながら、体を上にあげていく。

履き始めたばかりのブーツということもあり、ソールのグリップ力はなかなかのものだ。しかしソールはやはり柔らかく、アルパイン系のブーツであれば問題なく体を預けられる岩の突起からは、ソールがズレて引っかからないことがある。とはいえ、これはトランゴTRK GORE-TEXの欠点というべきではない。もともとこのブーツは、急峻な岩場を登ることは想定していないのだから。実際、ルート上を普通に歩いている分にはスリップはなく、どこでも安心して使うことができた。今回の奥秩父のように樹林帯の道が続く山域には適しているようだ。

木の根が伸びる登山道を進み、次第に標高を上げていく。

相変わらず白いガスが立ち込め、強風が吹いている。

面白い形に岩が割れている尻岩を通過。

これで十文字峠から甲武信ヶ岳までの半分ほどを歩いたことになる。ブーツには今のところ一切の問題は見られない。

さらに先に進むと、やっと天気が回復してくる。

5月だというのに真っ白な霧氷がついた森が明るくなり、気分も晴れやかだ。

三宝山の山頂付近からは甲武信ヶ岳が確認できた。

これくらい晴れていれば、山頂からは富士山も見えるかもしれない。

そして、まるで初冬のように白い甲武信ヶ岳の山頂に到着

この山に登ったのは、これで何回目だろうか。

周囲の景色はいつもながら格別だ。

西には金峰山に連なる稜線が延び、南には富士山を遠望できる。しかし、強い風が相変わらず吹いていて、身が凍える。仕方ないので、早々に山頂を立ち去ることにする。

水師の手前の分岐からは、千曲川源流の谷に降りていく。

春が深まっていても、北側の斜面には多くの雪が残っていた。

当初はブーツにゲイターをつけただけの状態で雪の上を歩いていた。光が当たって雪が緩んでいる場所ならば、この柔らかめのソールでも支障なく進んでいける。

しかし、日影で雪が凍りついた場所ではさすがにスリップしやすい。ソールの柔軟性を重視した、このブーツの限界である。

そこで、念のために持ってきていたアイゼンをつける。

トランゴTRK GORE-TEXはワンタッチ/セミワンタッチアイゼンの装着はできないトレッキングブーツだが、足先とかかとをベルトで包み込むタイプのアイゼンはいっしょに使える。今回はアイゼンがズレないようにと、かなり強めにベルトで締めてみたが、圧迫感は少ない。かなり薄くて柔軟性があるアッパーだが、この手のアイゼンをつけるには充分なのであった。

雪が解け、沢水が流れる場所まで下りてくると、明るさがいっそう増してくる。

バイケイソウの緑も目に鮮やかだ。山はこのまま夏まで一気に進んでいくのだろう。

出発地点の毛木平が近付き、沢のそばで最後の休憩を取る。

僕は雪と土で汚れたブーツを清めようと、流れのなかに入っていった。ついでに防水性も試そうというわけである。まだ2日間、履いただけだ。いうまでもなく浸水はない。水に濡れたトランゴTRK GORE-TEXは、再び美しい状態に戻っていった……。

トランゴTRK GORE-TEXは、よくできたブーツだと思う。その特徴は、やはり柔軟性だ。この日は歩きはじめる前に、僕は左右の靴ひもの締め方を変えていたが、途中で気付いたのは、強く締めていても充分に登り道に対応できるということ。言い方を変えれば、登り道でも緩めに調整する必要はあまりなく、つねに足全体のフィット感を高くしたままでスムーズに歩けるのである。日本アルプスの急峻な岩稜帯が続く場所に向いているわけではないが、ちょっとした岩場ならば難なく使え、緩やかな登山道は非常に歩きやすい。奥秩父や北八ヶ岳などではとても活躍しそうだ。

唯一懸念されるのは、アッパーの耐久性かもしれない。僕はこの甲武信ヶ岳のあと、のべ1週間ほどトランゴTRK GORE-TEXをはいてみたが、アッパーの樹脂で補強されていない部分には毛羽立ちが多くなってきた。毛羽立つだけで生地の内側まで傷んでいるわけではないとはいえ、このアッパーの防水性はどれくらいキープできるのか? もっと長く履き続け、これからも現実的な耐久性をチェックしていきたい。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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