新機能を搭載した登山用ソーラーウオッチを尾瀬でチェック セイコー/プロスペックス アルピニスト

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今月のPICK UP セイコー/プロスペックス アルピニスト S830 [セイコーウオッチ]

価格:4万4000円+税
重量:73g
駆動式:ソーラー
防水:日常生活用強化防水(10気圧)
機能:高度計測(登高スピード・高度)、登山計画達成率表示機能登山データ記録、気圧計測、温度計測、方位計測、日の出日の入り時刻表示、Bluetooth通信など
カラー:5色(うち、数量限定1色)

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基本性能、ディテールが大きく向上した新モデル

梅雨の時期に、どんな山に行くか?
当たり前だが、雨や曇り空でも楽しめる場所がいい。そして、この時期は高山植物の花々が楽しめるタイミングでもある。そこで今回は、外しのない選択として、尾瀬を目指した。

お供は、セイコー「プロスペックス アルピニストS830」。以前、この連載でテストした「プロスペックス アルピニスト」の新型である。「S830」の特徴のひとつは、当初の「プロスペックス アルピニスト」と同じく“登高スピード”。しかし、この機能については以前と同様なので、詳細についてはここでは割愛する。バックナンバーを見てほしい。

バッテリーも同様にソーラー駆動方式だが、「S830」はパワーアップしている。

上の写真のドーナツ型に見える部分がソーラーセル。直射日光であれば約2分の充電だけで、1日分の電力をまかなってしまうのだという。しかも一度フル充電させてしまえば、あとは光に当てていなくても、最大で5ヶ月ももってしまう。電池交換どころか、意識的に光に当てて充電する必要がほとんどなくなり、非常に便利だ。ちなみに、ソーラーセルの色は黒だが、光を反射するとこのようにブルーにも見える。

細かな部分もさらに気が利いているものになった。

上左の写真はボタンの部分。腕にはめたとき、手首の動きで間違って押されてしまわないように、下側にわずかな突起ボタンガード)を加えている。また、上右の写真のようにバンドの末端は、留具の裏側の突起にはめ込むことで確実に固定できるようになっている。そして、これから説明する高機能性を内蔵しながら、厚みは13.6mm(下の写真)に抑えてもある。

さて、「S830」の最大の特徴であり、注目の新機能が「登山計画達成率」だ。専用アプリ(PROSPEX APP)を読み込んだスマートフォンとブルートゥースで連動し、スマートフォン側で作成した登山計画を時計に転送。プリセットされた日本百名山の登山データに加え、マニュアルで独自の登山計画を作成できる。マニュアルの場合、計算した「積算上昇高度」「積算下降高度」を入力しておくことで、登り下りそれぞでの行程のなかで自分がどれだけ登ったのか/下ったのか、つまり「登山計画達成率」が、フェイス上に表示されるグラフによって一目でわかるのである。これは世界で初めての画期的な機能だ。

今回、セイコーは山と溪谷社と提携しており、自分で計画を立てる際に必要なデータは、まさにこの「ヤマケイオンライン」から調べることができる。「積算上昇高度」「積算下降高度」も簡単に算出でき、手間がかからない。

上の写真は、本サイトを利用して作った登山計画のデータである。必要な情報以外を省いた状態でプリントアウトすることが可能なので、時計内に移設したデータと合わせて使うと、さらに有用だ。

専用アプリを入れたスマートフォンから登山計画は確認できる。

上の写真ではタイトル(今回は、単純に「至仏山」)、登山日、登山開始時刻・登山終了時刻(どちらも予定時間)しか確認できないが、スクロールしていくと歩行時間や登山開始・終了高度、積算上昇・下降高度、水平移動距離なども表示。さらには、自分の体重などを入力することで、山行中の消費エネルギーまで算出されるのだ。実用的であることに加え、山行にプラスαの面白さを加えてくれることは間違いない。

登山計画をもとに至仏山へ

では、実際に歩き出してみよう。

今回の計画では、出発地は鳩待峠。標高は1591mである。ここからは至仏山に直接登っては行かず、いったん山小屋やテント場がある山の鼻まで下り、それから山頂へ向かっていくというループ状に歩く予定である。

10時ちょうどに出発し、19分後に確認したものが下の時計のフェイスだ。中央部分が標高の数値になっている。はじめは非常に緩やかな下り坂が続き、その後に少し急になった場所を通過したばかりのときに撮影してみたが、すでに135m下っていることがわかった。

その上の「-460m」という数字が登高スピードで、つまり僕はこの瞬間、1時間で460m下るというスピードで歩いていることがわかる。相変わらず、ユニークな工夫だと思う。

山の鼻に到着し、一回目の休憩をとる。

標高は約1400mである。

休憩中、つまり行動を停止しているので、登高スピードは0mになっている。

一方、この時点で、+17mの誤差が生じていた。こういう場合、標高のデータを修正しておいたほうがよいのだが、今回はテストということもあり、あえて誤差をこの段階ではそのままにしておいた。

山の鼻からはすぐに至仏山に向かわず、いったん「尾瀬植物研究見本園」のルートに少し寄り道する。

当初の計画には組み込んでいなかったコースだが、せっかくの尾瀬。初夏の花々を少しは楽しみたいではないか。

さすがにミズバショウは終わっていたが、それはまあいろいろな花が咲いている。写真なぞを撮っているうちに、なんと50分以上も経過してしまった。さすがにそろそろ登らないといけない時間帯だ。

至仏山への登り口の標高は1418m。先ほどとほぼ同じデータを保っている。

これは便利! 登山計画達成率機能

ところで、上の写真の時計のフェイスで、0mと表示されている登高スピードのすぐ右上に、黒いドットがあるのがわかるだろうか。じつはこれこそが「登山計画達成率」の表示なのだ。そのサイドの目盛りと合わせて確認すると、達成率は約20%であることがわかる。簡単にいえば、僕は鳩待峠から山の鼻まで下っているうちに、今回の「積算下降高度」のうち、約20%を下ってきたということだ。

今回の計画の「積算下降高度」は約908mであり、その約20%は180m程度。具体的には標高1591mから1400mへ下っているので、191mである。先ほどの「S830」のデータ(山の鼻の標高1417m)をもとにすれば、174mとなる。いくらかの誤差があるとはいえ、かなり正しく算出されていることがわかる。標高表示のある地点で高度補正を行えば、誤差を小さくできるので登山中はできるだけこまめに高度補正を行うとよいだろう。ちなみに、フェイスの右から下に回り込んでいくドットは下り坂の積算高度の計画達成率を現わし、左から上に回り込んでいくドットは同様に登り坂に対応している。今回は、登りはこれからというわけだ。

標高を上げていくと、尾瀬ヶ原を見下ろせるようになってくる。

視界がクリアとはいいがたいが、梅雨の時期に雨が降っていないだけでもありがたい。

1時間ほどで、金属の標識がある場所へ到着。

文字は薄れているが、ここが山の鼻と山頂の「中間地点」であることがわかる。

そのときの時計のフェイスはこのような感じ。今も誤差は10mあるが、標高1400mと2228mのほぼ中間である。

ここで注目してほしいのは、フェイスの左側。こちらには「積算上昇高度」に対する進捗率が表示されているわけだが、ちょうど50%少々だ。今回は至仏山山頂以降に、小至仏山へのごくわずかな登りがあるものの、トータルでの登りの積算高度は、山の鼻から山頂までとほぼ同一。非常にわかりやすく、これからの登りにもやる気が出てくる。これまでは地図上の自分の位置から、残りの高度差をイメージするしかなかったが、この時計はズバリとグラフ化された数値で教えてくれるのがいい。実用的であることも間違いないが、一面では「遊び」ともいえる感覚は、山歩きを楽しくしてくれるだろう。

蒸し暑さで汗だらけになりながら、至仏山山頂に到着!

周囲は完全にガスで覆われてしまったが、まずは記念写真。

時計を見ると、左側に表示されている「積算上昇高度」は90%になっている。

標高は34mほどずれてしまっていたが、これは気圧の変化によるものだろう。アウトドア系腕時計の高度表示にはこの手の誤差がつきもので、900mを2時間弱で一気に登ってきたことを考えると上出来なのではないか。

とはいえ、このままでは以降の目安にするのには不適当だ。こういうときのセオリー通り、下山開始前に正確な標高に調整しておく。この作業は標高が明記されている山頂やポイントに着いたときに、忘れずにやっておきたいこと。他メーカーの時計でも同じである。

セットして山頂から少し下がると、すぐに表示の標高は3m落ちた。これまですばやく行動してきたために見過ごしてきたが、センサーは予想以上に敏感に反応するようなのであった。

小至仏山を経て、下山を続ける。

標高を下げると明るさは増したものの、小雨が降り始める。しかし、もうすぐ鳩待峠だからと、レインウェアは着ない。実際にはあまりにも蒸し暑く、レインウェアを着るとむしろ大汗をかいて、かえって濡れてしまいそうだったからである。ともあれ、15時前には鳩待峠へと下山を完了できた。

その際の表示がこちら。標高の誤差は3mのみである。

積算上昇高度、積算下降高度、どちらの計画達成率もきれいに100%になっている。なんか、気持ちいいぞ。下山道にあった小至仏山へのわずかな登りなども合算し、このような理想的な表示に収まったのである。さすが、賢い時計なのであった。

登山後は再びブルートゥースでスマートフォンのアプリと連動すると、時計に蓄積されていたデータが移行され、そのデータは「登山記録」として確認できる。

上左側のトップ画面にある写真は、僕が行動中に撮影した花。スマートフォンで撮った写真は5枚まで登山記録のデータに貼り付けることができるのである。
上右側は、トップから少しスクロールした部分。登山開始/終了の時刻や高度、実際の積算上昇高度/積算下降高度などがわかる。積算上昇高度などにズレがあるのは、僕が山の鼻で「尾瀬植物研究見本園」に立ち寄るなどの寄り道をしたせいであると思われる。それにしても、想定行動時間が6時間45分のところを、寄り道や休憩込みで5時間かからなかったことがわかり、快調な登山であったことが数値からも伝わってくる。これは行動メモをとっていたりすれば自分でも算出することはできるだろうが、手間ヒマを考えれば、圧倒的に便利で、しかも楽しい。
下の写真は、今回の行動の登り下りがわかるグラフである。時間軸に沿って高度が表示され、今後のよい記録となっている。

「S830」の「登山計画達成率」の表示やスマートフォンと連動できる便利さは、これまでなかったものだ。出発前のデータ入力も簡単で、行動中には役に立ち、終了後はデータを眺めてあれこれ考えることができる。そのなかに遊びの感覚も感じられ、率直にいって面白かった。「プロスペックス アルピニスト」は理想的な進化を遂げたようである。使い方に慣れれば慣れるだけ、登山のよい相棒になってくれそうだ。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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