冬の登山の便利品!石老山で2つの保温カップをチェック デルタインサルマグ、ネスティングマグ ボウル

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今月のPICK UP

シートゥサミット/デルタインサルマグ [シートゥサミット]

価格:1,800円 +税
容量:473ml
重量:125g
材質:ナイロン66、ポリウレタン

今月のPICK UP GSI/ネスティングマグ ボウル [GSI]

価格:1,400円 +税
容量:414ml
重量:96g
材質:BPAフリーポリエステル

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まずはどんな保温構造なのか、分解してみた

山中では温かい飲み物がうまい。だが、すぐに冷えてしまうのが難点だ。今のような寒い時期はなおさらである。保温ボトルを使用するなど対処方法はいくつか考えられるが、手軽な方法のひとつは保温性がある「カップ」を利用することだろう。
今回は低山にのんびり登り、山頂でゆっくりとテストしてみようと、相模湖に近い石老山へ向かった。お供にしたカップは、シートゥサミット「デルタインサルマグ」と、GSI「ネスティングマグ ボウル」である。このうち「ネスティング」は僕が以前から愛用している個人的大定番。一方、「デルタ」は短期間使っていたものの、使い心地すらわからぬうちに紛失してしまったものだ。いわば、新旧対決のような体裁で、今回はそれぞれの持ち味を改めて比較してみようと思う。

駐車場から歩き始めると、少しの間、石段が並んでいる。夏に来たときは苔で滑りやすかったが、冬は乾燥していて歩きやすい。

高さ20m、樹齢400年という蛇木杉が現れると、いったん車道に出る。そして、目の前には顕鏡寺。このあたりは東海自然歩道の一部に当たり、看板も掲示されている。

その先からは本格的な登山道だ。石老山という名前通り、いくつもの大きな岩の横を通っていくと、見晴らしのよい桜山展望台へ出る。周囲には田園が広がり、なかなかの気持ちよさだ。

その後、相模湖の景色がいい融合平見晴台も通過する。もう少し暖かい時期であれば、ここで温かい飲み物を作って楽しんでみたいところだが、今は雪で寒々しく、さすがに長々と休憩する気にはなれなかった。

日差しを浴びる尾根沿いに標高を上げ、最後に木の階段を登ると、その先が山頂だ。

到着時は登山者の団体でにぎわっていたが、その方たちが下山していくと山頂はほぼ貸し切りの状態になってしまった。そこで、気兼ねなくベンチの上に持参してきたカップやバーナー、水筒などを広げる。

ひとりでここにいるとは思えないほどの荷物だ。なにしろ、「デルタ」はひとつだが、「ネスティング」は4つ。さらに思い付きで、ほかのモノも持ってきてしまったからだ。

さて、それぞれの特徴を説明しよう。
こちらは、新しく買いなおしたばかりのシートゥサミット「デルタインサルマグ」。

ナイロン製のカップの周囲に柔らかなポリウレタンの保温素材をはめ込んだもので、容量473ml、重量125g、大きさ9×9×11cm。取っ手付きのふたが付属している。

それに対して、すでに使い込んだ雰囲気がある私物のGSI「ネスティングマグ ボウル」。

これはひとつずつバラ売りされているが、三角形のカップを4つ並べると円形になるデザインで、大きめのクッカー内部に収納できるようになっている。実際、クッカーやフライパンなどに4つの「ネスティング」を組み合わせたクッキングセットも販売中だ。ちなみに、カップひとつで見れば、容量414ml、重量96g、サイズ9×9×10cmである。こちらもふたが付属する。

「ネスティング」のほうが一回り小さいが、おおむね同じといっていいサイズ感だ。ではここから先はオレンジ色の「デルタ」と赤の「ネスティング」で比較していこう。それぞれを分解していくと、下の写真のようになる。

「デルタ」はカップに断熱材を組み合わせただけのシンプルな構造だ。

ちなみに、このグレーの断熱材を省き、ふただけを付属したカップもシートゥサミットでは販売している。もちろん、その分だけ価格は控えめだ。

「ネスティング」は少々おもしろい構造をしている。じつはこれ、一見ひとつのカップに見えるが、ふたつのカップの間にポリエステルの断熱材を挟み込んだものなのだ。

だから、すべてを組み合わせた状態ならば保温力が高いひとつのカップとして使え、分離した状態ならばふたつのカップが同時に使える。その際、保温力が落ちるのは仕方ないが、ひとつ持っていけば2人で飲み物を楽しんだり、コーヒーとスープをいっしょに作ったりということも可能なわけだ。

カップ本体の断熱性に加え、保温力を左右するのがふたである。
それぞれの写真の左が「デルタ」、右が「ネスティング」のふただが、デルタには大小の孔が2つあり、ネスティングには2か所の切れ目があるのがわかるだろう。これはどちらもふたをした際に一方は飲み口となる部分で、もう一方は内圧が変わらないようにするための空気穴の役目を果たしている。

どちらのふたもカップにしっかりとハマり、簡単には外れない。しかし「デルタ」のほうには柔らかなパッキンで凹凸がついているが、「ネスティング」のほうは平面的である。保温力には大きな影響はないようだが、「デルタ」のほうがカップとふたの隙間から飲み物が流れ出る心配が少ないのは間違いない。

次に裏を見てみよう。
「デルタ」は底面がエッジのあるきれいな円形になっており、置いたときの座りがいい。

だが、「ネスティング」は底面に丸みがあり、エッジもわずかだ。置いたときに少々転がりやすいのは否めない。じつはこれまで僕も山中で使っているときに何度か倒してしまったことがあり、このカップの弱点だと思っていた部分なのである。

お湯を注いで15分、保温力はいかに…!?

この後、僕はお湯を沸かし、2つのカップに注いだ。いうまでもなくお湯は沸騰していたが、標高694mの石老山での沸点は気圧の関係で97℃ほどである。

2つのカップをひとりで計測しなければならないため、数十秒のタイムラグが出てくるのは避けられないが、できるだけ誤差が出ないように温度計で計測していく。しかし完全に同じ条件で計測するのはどうしても不可能なので、これからの数値はあくまでも参考値として見ていただきたい。

お湯を入れた直後の温度が以下の写真だ。「デルタ」で83.1℃、写真を撮りそこなったが、「ネスティング」は85.3℃であった。

どちらもいきなり10℃以上も温度が低くなっているが、これは外気でカップが冷たくなっていたために注いだお湯が一気に冷やされてしまったからだろう。初期温度を高くするには、まるでティーカップで本格的に紅茶を淹れるときのように予熱を与えておけばいいのだが、山中でそんなことをするのはまあ非現実的だ。ほとんどの人は今回の僕と同じように、冷えたカップにお湯を注ぐはずだから、今回の計測方法はこれでよしとする。この時点で2.1℃の差がついているが、問題はこれからの時間の経過によって、どれほど水温が低くなっていくかということだ。

まずは15分待つことにしてタイマーをセット。その間に山頂標の前で記念写真にいく。長時間の計測に備え、分厚いダウンジャケットも着こんでしまった。

山頂の南側には丹沢の山々がそびえている。石老山も場所によっては雪が積もっていたが、あちらはより雪が多いようだ。ここから見えているのが北斜面に当たるからでもあろう。

さて、15分経ってからの温度が次の写真だ。

左の「デルタ」が62.7℃、右の「ネスティング」は66.3℃である。どちらも20℃近く冷たくなったが、コーヒーなどを飲むには、ちょうどいい温度帯ともいえる。

さらに15分後、つまりトータル30分後の温度は次になる。

「デルタ」は47.1℃、「ネスティング」は50.0℃。今度は15℃近く温度が低下した。少しぬるめという温度帯になってしまったが、山中で1杯のコーヒーなどを30分もかけて飲むことはそれほど多くはないと思われ、そういう意味ではどちらも十分な保温力をもっているといってよいだろう。つねに「デルタ」よりも「ネスティング」のほうが2~3℃高いという結果ではあるが、これくらいの差は気にならないはずだ。

興味深いのは、カップに断熱材を組み合わせただけの「デルタ」、いわば三重構造になっている「ネスティング」と、2つのカップの保温構造の違いにもかかわらず、それほど差が出なかったことである。この2つであれば、保温力を基準に選ぶほどの違いはないといっていい。「デルタ」が容量473ml、重量125g、「ネスティング」が容量414ml、重量96gと、容量と重量の差はおおむね比例しており、大きめがいい人は「デルタ」、小さめがいい人は「ネスティング」という選択になるかもしれない。

とはいえ、ここで「大きめ」「小さめ」とは表現したが、実際にはどちらも正確に言えばけっこう大きめのカップなのである。

カップを握ってみると、日本メーカーのグローブではL~XLサイズが必要な僕の手で、「デルタ」が過不足なくぴったりというサイズ感で、「ネスティング」はいくらか余裕があるという程度。手が小さい人が片手で握るのは大変かもしれない。

【おまけ】気になるあの容器も試してみた

2つのカップの基本テストは終わったが、ここでもう一つ、思い付きの実験をしてみようと思い立った。最近たまたま入手したSOTOの保温カップ「エアロマグ450ml」、そして今回の昼食にしていた「カップヌードル」の容器もいっしょに、保温性を見てみようというのである。

ついでのテストなので、こちらは簡便に済ませよう。エアロマグと食べ終えたカップヌードルにふたはないので、今度はすべてふたなしでの計測だ。熱湯を入れて、15分後の温度が以下の写真である。

「デルタ」56.2℃、「ネスティング」53.5℃、「エアロ」58.3℃、「カップヌードル」48.1℃。先ほどとは反対に、ふたをしない状態と「デルタ」のほうが「ネスティング」よりも温度をキープすのが面白い。「デルタ」は空気に触れている水の面積に対して容量(体積)が「ネスティング」よりも大きいからだろうか?
また、前者2つはその前のテストですでにカップが少々温まっていたと思われるのに、完全に冷え切っていた「エアロ」はそれ以上の温度をキープしているのも興味深いことだ。さすがは中空構造のチタン製である。
「カップヌードル」の容器の保温性も大したものだ。耐久性が低いために繰り返し使うことはできないが、他の立派な製品と温度の低下が10℃も違わないのである。

山頂を後にした僕は、往路とは異なる道で下山していった。

途中には相変わらず奇岩が点在し、見晴らしがいい場所もあって飽きない。石老山付近は半日ほどの低山ハイクを楽しむにはいい場所なのである。

顕鏡寺まで戻ると、行きには気付かなかったツバキの花が目に入った。

花弁が「ネスティング」、雄蕊が「デルタ」というように、その色はまるで今回試したカップのようだ。こんなツバキの花が終わりを迎えるころ、本格的に春がやってくるに違いない。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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