エコなコミュニティとともに成長をめざす新ブランド/スタティック

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環境配慮をコンセプトに掲げる国内ブランドが今年から展開をスタートします。それが「スタティック」です。このブランドは、アウトドア業界で何をしようとしているのでしょうか。立ち上げまでの背景から具体的な商品を通して見えてきた、新ブランドの目的に迫ります。

文・写真=吉澤英晃

里山に囲まれて誕生した環境配慮型ブランド

JR五日市線の終点、武蔵五日市駅から車で約10分。緑豊かな里山に囲まれた場所に、海外ブランドの登山用品を輸入販売する「スタティックブルーム」はあります。この会社が今年に入り、環境に配慮した新しいブランドを立ち上げました。それが「スタティック」です。

上空を飛翔するのはコアホウドリ。環境汚染の犠牲になっている動物をあえてモチーフにしている。

ブランドの立ち上げを着想したのは2019年の4月。それからわずか2ヶ月後には、急ピッチで作成した未完のサンプルを持って展示会に参加しました。

「小売店のバイヤーやスタッフには、これで注文を取るの? って言われたよ。もちろん、このサンプルで受注が集まるとは思ってない。でも、それでもよかったんだ。スピード感をもってやらないといけない。待ったなしじゃん」

そう話すのはスタティクブルームの代表を務める田中健介さん。大学院卒業後に大手アウトドアメーカーに入社し、その後もいくつかの企業に勤めながら多くのアウトドアブランドの販売、営業に携わってきました。

商品を手に取りブランドについて語る田中さん。背後にはアウトドア関連の書籍が並ぶ。

カナダの「ウェストコム」やイギリスの「クラックス」など、複数の人気海外ブランドを順調に取り扱いながら、あえて環境に配慮したブランドを新たに立ち上げようと決意した背景には、一体何があったのでしょうか。

きっかけは世界に配信されたセンセーショナルな映像

――ブランドの立ち上げを着想したのが昨年の4月。準備期間の短さと同時に、猪突猛進の勢いにも驚かされます。

大きなきっかけは、メディアで見たショッキングな映像です。有名なものだと、ウミガメの鼻にストローが刺さってて、引き抜くと血が出る動画とか。はじめて見たとき、これは何が起こっているんだって、愕然とした。それでスイッチが入ったのがひとつあります。そしたら今度は大型台風や異常な暖冬が話題になりました。海洋汚染と気候変動がスタティックのコンセプトを形成する大きな問題意識になっています。

――確かにあのウミガメの動画はショッキングです。見るに忍びないものがあります。とはいえ、一からブランドを立ち上げるのは簡単ではなかったはずです。相当苦労したのでは。

業界歴は長いんだけど、ずっと営業畑で働いてきたから、もちろんモノ作りの経験はゼロ。最初は「エコマテリアル」とか「環境配慮型生地」とか、思いつくキーワードで検索することから始めたんです。それから環境への配慮を強く意識する生地メーカーと出会って、縫製工場を見つけて、少しずつ形にしてきました。

――本当に初歩的なところから手を付けたんですね。スタティックが展開するアイテムはアパレルがメインです。どんなコンセプトを持っているのでしょうか。

大前提は素材がエコであること。リサイクルポリエステルや、生分解性(菌やバクテリアなどによって分解される性質のこと)や植物由来のナイロンなど。またブルーサインやエコテックス(ブルーサインと同様に、有害物質の使用状況や環境への配慮など、厳しい基準をクリアした製品や工場などに与えられる認証)を得ているものを使うおうとしています。さらにその素材から作られる生地が一定の品質を満たしていることも重要で、アウトドアブランドとして機能も追求していきます。

登山者に“ノンエコ”から“エコ”への転換を問うアイテムたち

速乾性や耐久性、レインウェアなら防水性や透湿性など、いわゆる機能に着目することが多いアパレル製品を、環境に配慮した“エコ”という視点で見る機会は少ないでしょう。スタティックが展開するアイテムたちは既存の商品と遜色ない機能を持つことで、“ノンエコ”から“エコ”への転換をユーザーに問いかけます。

軽さと耐久性、通気性のバランスに優れるウインドシェル「アポストロ」

アポストロが誇る機能は、防風性と軽さに加えて、クライミングも想定した耐久性と、ヒートアップを防ぐ通気性です。しかし使われているのは、繊維を作るときに発生するナイロンごみを再利用した「グリーンロン」というリサイクルナイロン。ごみの量や、ごみを焼却処分する時に出る二酸化炭素の排出量、元来の原料となる石油の使用量を削減できる点が特徴で、さらにこの繊維はブルーサインの認証を取得した工場で生地に生まれ変わります。

保温性と通気性を持つ軽量フリース「アドリフト」

一方、アドリフトに使われているのは、近年話題の、通気性、軽量性、保温性を兼ね備える「オクタ」という特殊繊維。この繊維から作られる生地の起毛面が肌に触れる点がこの製品の特徴です。現状ではこの繊維にエコな要素はないのですが、生地を作る工場がエコテックスの認証を得ており、染色工程では灯油ではなくバイオマスを使用するほか、排出される繊維くずをリサイクル専門業者に渡し、ごみを削減する取り組みを行なっています。

アドリフトの起毛面。この一本一本が保温性と通気性を提供する

いまやリサイクル素材を使うことだけがエコではありません。製造工程など、様々な側面から環境に配慮できることもスタティックの商品は示しています。そして、両者とも製品化までにエコな取り組みを行いつつ、備える機能はアウトドアウェアとして十二分といえるでしょう。“エコ”と“機能”の共存こそスタティックが手掛ける商品の理想であり、“ノンエコ”から“エコ”へ、最終的に商品を購入するユーザーのなかにも新たな選択肢と価値観が生まれることをスタティックは期待しているのです。

「スタティック」がめざす理想の未来

田中さんは現行の製品に100%満足していないと言います。アドリフトの繊維や石油から作られるファスナーなど、改善すべき課題が多く残されているのです。これらの解決に向けてスタティックでは、環境に配慮したアウトドア資材が集まる展示会で理想の製品を探し続けています。その努力が結実し、ファスナーは今後、海洋プラスティックごみを主材料とする「ナチュロン・オーシャン・ソースト」が使われる予定です。

また製造工程に横たわる多国間の移動の問題も解消したいと話します。例えば前述のアポストロだと、台湾で作られた繊維を日本で生地にして、それを中国で縫製してまた日本に輸入するという生産背景があるのです。もちろん運搬時には二酸化炭素が排出されます。国内で完結する製造ラインの構築も、スタティックが今後取り組む課題です。

製品とは別に、梱包用のビニール袋でも環境に配慮した取り組みが行われます。ユーザーへの出荷では、焼却処理時に発生する二酸化炭素が一般的なビニール袋と比べると75%少ない植物由来のビニール袋の使用を検討しており、小売店に対しては商品を梱包せず、使用するビニール袋をゼロにする予定です。

スタティックの挑戦はまだスタートしたばかり。今後このブランドの周りでどんな変化が起きるのでしょうか。

「使われている素材や生産工程など、ブランドにとって不都合と思われる情報も包み隠さず開示するつもりです。そういう課題を解消すべく、スタティックは常にアンテナを張ってどんどん環境に配慮したブランドに進化していきます。その姿勢を分かって頂き、ブランドの成長過程を通してエコなコミュニティを育てていく一助になりたいですね」。

 

スタティック https://www.staticbloom.co.jp/

吉澤英晃
大学の探検サークルで登山を始め、社会人になってからは山岳会に所属。無積雪期は沢登り、積雪期はアイスクライミング、雪山登山をメインに四季を問わず毎週のように山で遊んでいる。山道具を扱う会社で約7年の営業職を経て、現在は登山・山岳ライターとして活動中。

未来でも登山を続けるために。

アウトドアメーカーのサスティナブル(持続可能)なモノづくりや、環境のための取り組みを紹介していきます。未来のために登山者として何ができるかを一緒に考え、行動しましょう。

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