5月の街中に咲く野生植物――、「名もなき雑草」という名前の花はない!

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「STAY HOME」が叫ばれているが、近所の散歩は制限の対象ではないので、大いに行ってほしい。その散歩も、ひと工夫で楽しみが広がる。「名もなき雑草」と呼ばれる草花の名前を知ることで、新しい発見があるはずだ。


街なかのお花畑。道端のちょっとしたスペースにある花畑に目を向けてみよう


山になかなか行けない日が続いている。トレーニングをしないと落ちるのは筋肉、増えるのはぜい肉ばかり、ということになりかねない。私もなるべく歩いたり、体を動かしたりして、何とか体重は維持できているが、筋肉量は減っているはずだ。

家の中にいるだけでは体力がどんどん落ちてしまうから、トレーニングを兼ねて近所を散歩している。ただ歩くだけではつまらないので、野生植物を見ながら歩いてみよう。案外街なかにもたくさんの花が咲いているのがわかるだろう。

高山植物を見ながら歩くのも楽しいが、街中の植物を見ながら歩くことも楽しいものである。もちろん街中といっても人が多い商店街を歩いては駄目である。住宅街や小さな公園を歩くと、たくさんの野生の花を見ることができるだろう。

しかし、「名もなき雑草」と呼ばれてしまうように、雑草の名前を見分けるのは案外難しい。そこで、ここでは街中でもよく目立って見分けやすい野生植物をいくつか紹介する。野生植物には、植物自身の力で生えている自生植物と、人間の活動で移動された帰化植物がある。街なかの植物は帰化植物が多いのが特徴だ。

その辺に生えている植物を雑草と呼ぶが、実は「名もなき雑草」はない。普通見られる野生植物はすべての植物に名前がある。多くの場合、名前を知らないだけなのだ。

名前がわかると、街中の散歩中にたくさんの花が見えてくる。知らないと見えないものが、たくさん見えるのだ。「去年はなかったのに、今年はこんなところにカタバミが咲いている」など、きっと新しい発見があるだろう。

 

5月初旬に街中で咲くミニ植物図鑑

◆ナガミヒナゲシ(ケシ科)

空き地や緑地、コンクリートの割れ目などに生える。4月からが花が咲き、5月はもう終盤になる。とても美しいうえ、繁殖力も強く街中でどんどん増えている。ヨーロッパ原産の帰化植物。草丈は20~60センチ。

花の直径は3~6センチ。花弁は4枚。黒点がない個体も多い。名前の由来は果実(右写真)が長細いから。長実雛芥子。実の頭に傘のようなものがある。

 

◆カタバミ(カタバミ科)

庭や道端などに生える。花色は黄色。背が低く、茎は地面を覆うように伸びる。花の直径は8mm。ハート型をしている葉が3枚並ぶ。名の由来は、葉の先端がくぼんで、葉の一部が食べられたように見えるから。片喰。

 

◆アカカタバミ(カタバミ科)

乾燥に強く、照り返しがあるコンクリートの割れ目などに平気で生えている。カタバミによく似ているが、カタバミに比べて葉が小さく、暗紅色。花も中心近くに赤い模様がある。赤片喰。

 

◆オッタチカタバミ(カタバミ科)

コンクリートの割れ目や道端に生える。カタバミによく似ているが、北アメリカ原産の帰化植物。近年、街なかで増えている。その名の通り立ち上がるのが特徴。花の直径は0.8~1センチ。全体に白い毛が多く、中心になる茎が太く立ち上がる。草丈10~50センチになる。おっ立ち片喰。

 

◆イモカタバミ(カタバミ科)

街中や庭、道端に生える南アメリカ原産の帰化植物。根が変化した、直径1センチ程度の芋を地中に作り、芋で株分けのように増えていく。5枚の花弁は紅紫色で、中心部が濃く、雄しべの先端が黄色をしているところが特徴。芋片喰。

 

◆ムラサキカタバミ(カタバミ科)

庭や道ばた、公園に生える南アメリカ原産の帰化植物。江戸時代に観賞用植物として輸入されたものが逃げ出して野生化している。花弁には筋が入り、花の中心部が白色で、雄しべの先端も白色。ムラサキカタバミも地中に球根のようなものを作り、それが分裂して増える。紫片喰

 

◆セイヨウタンポポ(キク科)

草地や道端に生えるヨーロッパ原産の帰化植物。街中でみられるセイヨウタンポポは、帰化植物のアカミタンポポや、カントウタンポポなどとの雑種が多い。花の下の総苞片と呼ばれる、緑色の小さな葉のようなものが大きく反り返る部分が特徴。総苞片が反り返らないのは日本在来のカントウタンポポやカンサイタンポポとなる。西洋蒲公英。

 

◆オニタビラコ(キク科)

道ばたや公園、草地、コンクリートの割れ目などに生える。草丈0.2~1メートル。葉は下に集まって生える。葉や茎を切ると、白い乳液が出てくる。花は4~10月にわたって咲くが、暖かい地方では一年中咲いている。花が終わると白い綿毛がでる。鬼田平子。
オニタビラコの花は小さく、直径7~8ミリ。キク科の植物の花は頭花といって、小さな花の集まり。

 

◆ノゲシ(キク科)

有史以前の大昔に日本に入った帰化植物。道ばたや畑のふちなどに生える。花は黄色で直径2センチ。草丈0.5~1メートル、茎は中空。葉は深く切れ込み先端は尖り、トゲ状になるが、柔らかく触っても痛くはない。花が終わると綿毛になる。別名ハルノノゲシ。若苗は苦いが食べられる。野罌粟。

 

◆ヒメツルソバ(タデ科)

園芸植物として庭に植えられているものも多いが、近年逃げ出して道端や石垣に生えているものも多い。ヒマラヤ原産の帰化植物。ほぼ一年中咲いている。金平糖のような形のものは花ではなくて、粒のひとつひとつのほとんどはつぼみ。この中から一つ二つ直径1.5ミリ程度の花が咲く。姫蔓蕎麦。

 

◆ツタバウンラン(オオバコ科)

道端や石垣、コンクリートの割れ目などに生える帰化植物。近年街なかでよくみられるようになった。花の長さは7~9ミリ。茎が蔓になって長く伸びる。名の由来は葉がツタに似て、花がウンランに似ているから。ほぼ一年中咲いている。蔦葉海蘭。

 

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プロフィール

髙橋 修

自然・植物写真家。子どものころに『アーサーランサム全集(ツバメ号とアマゾン号など)』(岩波書店)を読んで自然観察に興味を持つ。中学入学のお祝いにニコンの双眼鏡を買ってもらい、野鳥観察にのめりこむ。大学卒業後は山岳専門旅行会社、海専門旅行会社を経て、フリーカメラマンとして活動。山岳写真から、植物写真に目覚め、植物写真家の木原浩氏に師事。植物だけでなく、世界史・文化・お土産・おいしいものまで幅広い知識を持つ。

⇒髙橋修さんのブログ『サラノキの森』

髙橋 修の「山に生きる花・植物たち」

山には美しい花が咲き、珍しい植物がたくさん生息しています。植物写真家の髙橋修さんが、気になった山の植物たちを、楽しいエピソードと共に紹介していきます。

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