私が読んだ「山の本」|山岳・アウトドアライター高橋庄太郎さん

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登山界の著名人に聞く、山の本。最初に出会った山の本や、感銘を受けた山の本など、いろいろなテーマで山の本を紹介してもらいました。今回は山岳・アウトドアライターの高橋庄太郎さんにお聞きします。

最初に出会った山の本

小学4年生、10月10日の体育の日に、実家の近所の書店で買ったことを今でも覚えているのが、椎名誠さんの『わしらは怪しい探検隊』。この本に描かれている男たちのキャンプ生活の話はあまりにも面白く、いずれ自分も自然の中でテントを張って寝てみたいと思うと同時に、本を読むことが本格的に好きになるという、僕の人生を大きく変える決定的な“事件”でした。これ以降、僕は椎名さんの本を読み進め、仲間の沢野ひとしさんの本で日本の山のことを知り、野田知佑さんの本で川をカヌーで下ることにも興味を持つようになったのです。

 

わしらは怪しい探検隊(角川文庫)

 

最も感銘を受けた、影響を受けた山の本

登山家が書くヒマラヤやヨーロッパアルプスの登山の話は、自分が好きな山の世界とはあまりにも異なり、人ごとのようで感情移入できないのですが、伊藤正一さんの『黒部の山賊』で描かれている世界には、『遠野物語』のような雰囲気があり、日本の登山黎明期の山岳文化を知るうえでも貴重な内容です。人間臭い登場人物には共感できる要素がたっぷり、同じ山を楽しんでいるという親近感も沸きます。数年前に復刻が実現し、昔の本とは思えないほど新しい読者から評価されたときは、自分で書いた本のようにうれしく感じました。

 

定本 黒部の山賊 アルプスの怪(ヤマケイ文庫)

 

最近読んだ山の本

絶版になって入手困難になっていた『熱汗山脈』を発見し、定価の数倍で購入しました。僕が毎年通っている沖縄県八重山列島の石垣島や西表島の亜熱帯ジャングルの山々に登った山行記で、これは現在の僕がもっとも興味を持っている分野のひとつです。山の専門家が書いたものではありませんが、それがむしろ新鮮で、気取ったところもなくて素直に読んでいけます。また、沖縄の登山道もないマイナーな山に登る人はいまも少なく、その記録が活字化されているだけでも非常に貴重です。

 

熱汗山脈(随想舎)

 

「山の日」におすすめしたい山の本

西丸震哉さんの『山だ原始人だ幽霊だ』。絶版ですが、内容を変更して改題と再編集をおこなった『山とお化けと自然界』とともに、中古で安く手に入り、『黒部の山賊』の世界が気に入った人は楽しめるでしょう。他の著作も含め、西丸さんの描く山の話には虚実取り混ぜているのではないかと思われる内容もありますが、ひょうひょうとした人柄や、山を愛する気持ちが伝わり、山を好きにさせる力を持っていると思います。

 

山だ原始人だ幽霊だ(経済往来社)

画像協力=高橋庄太郎

※この記事は、2016年に制作した「登山界の著名人に聞く 私が読んだ山の本」を再構成したものです。

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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登る前にも後にも読みたい「山の本」

山に関する新刊の書評を中心に、山好きに聞いたとっておきもご紹介。

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