季節は梅雨真っ最中。ゆっくり山に復帰する登山者へ、奥秩父の山を勧めよう

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都道府県をまたぐ移動の自粛も緩和される方向という情報を受け、山岳ガイドの山田哲哉さんから「登山再開時に奥秩父の登山を提案したい!」と連絡をいただいた。では、ぜひ! ということで、山田さんの大好きな山域である奥秩父の魅力を紹介してもらった。

 

「私はずうっと、晴れの日だと天気がよくて良かったと言っていた。だが、最近わかったのが、この十文字峠じゃあ、晴れが“いい天気”というわけでもないな。小雨が降ってコメツガの森が濡れて、苔が生き生きとしているときが一番“いい天気”だな_」

これは、十文字峠に丸太造りの十文字小屋を建て、48年間にわたって小屋番を務めた山中邦治さん(現・甲武信小屋、十文字小屋主・山中徳治さんの父)が、小屋番最後の年(2000年)に語った言葉です。

雨の中咲き誇るアズマシャクナゲと十文字小屋/まさ10 さんの登山記録より
雨の中咲き誇るアズマシャクナゲと十文字小屋
まさ10 さんの登山記録より

 

新型コロナウイルス感染防止の観点から「県を跨いでの移動」の自粛が勧められて、遠方の山に行くことができない状況が続きました。この原稿を書いている今日は、6月12日。「6月19日から都道府県をまたぐ移動自粛も緩和される方向」という情報が出ています。ただ、「さぁ! 山へ」と思っても、危険度の高い高山は気が進まないし、まだ登山道を覆う残雪も随所にあり、北アルプスでは山小屋の再開も7月中旬以降という話です。それに登山復帰の第一弾が、高山の岩が剥き出した山々では、厳しすぎるでしょう。一方、標高の低い山は、もう気温と湿度が高く、辛い登山になりそうです。

そして、季節は梅雨真っ最中_。

そんな中、奥秩父には原生林と渓谷の美しさが際立つ山々が沢山あります。鬱蒼とした木々の下を分厚く覆う苔や霧、小雨の中にボーッと浮かぶシャクナゲが独特の美しさを醸し出します。山麓の森の中にはベニバナイチヤクソウのピンクの群れが広がっています。今、奥秩父は一年で一番“いい天気”に恵まれた時期です。それに、小雨の中でもひっそりと僕たちの訪れを待ってくれている山小屋もあります。

みずみずしい苔の一帯(写真=まさ10 さん)

キバナシャクナゲ(写真=金峰山小屋)

べニバナイチヤクソウ(写真=まさ10 さん)

6月20日過ぎだと、ショッキングピンクの鮮やかなアズマシャクナゲは、もう最盛期は終えています。金峰山や国師ヶ岳など、森林限界を越えた場所なら、キバナシャクナゲが後を追うように咲きだし、7月に入れば、淡いピンクの上品なハクサンシャクナゲも咲き出します。今から、梅雨明けまでが、奥秩父の山々がシットリとした美しさを醸し出す季節なのです。県を跨いでの移動が可能になったら、ぜひ奥秩父の山々を登ってもらいたいと思っています。

 

6月の奥秩父で、山田さんがお勧めするルート

モデルコース①:一番のおすすめ! 甲武信ヶ岳から十文字峠へ

日本で一番長い川・信濃川源流沿いを緩やかに登ります。ダケカンバの根元から昏々と湧く信濃川水源を辿り、甲武信岳山頂に立ちます。山頂直下の古き良き山小屋・甲武信小屋に泊まり、翌日は、首都圏随一の規模を誇る原生林の中を埼玉県最高峰・三宝山、武信白岩山、大山を越えて、苔とシラビソ、コメツガの見事な森を抜けて歴史ある十文字峠へと歩きます。所々で小さな岩場を越えますが、大部分は巨樹の林立する重厚な森の尾根。渓谷と原生林を堪能するルートです。

行程:
【1日目】毛木平・・・滑滝・・・水源地標・・・甲武信岳・・・甲武信小屋
【2日目】甲武信小屋・・・甲武信岳・・・三宝山・・・大山・・・十文字小屋・・・毛木平
(所要時間/1日目:4時間30分、2日目:3時間40分)

⇒コースタイム付き登山地図を見る

 

モデルコース②:奥秩父の王者・金峰山へ

標高2599mの山頂は森林限界を越えて、高山植物が美しいです。クライミングのメッカ、廻り目平から金峰山川沿いの道を歩き、ベニバナイチヤクソウの咲く中ノ沢出合からカラマツの中を抜けて、中間地点からはコメツガとチョウセンゴヨウの苔むした森の中を登ります。分厚い苔、その上にビッシリと生えた幼樹。頭上をハクサンシャクナゲが覆う中を登り、森林限界に建つ展望の金峰山小屋に泊まります。八ヶ岳や南アルプスを望む小屋では、感染症対策に腐心していて、登山者が来るのを待っていると聞いています。

小屋から山頂にかけては岩とハイマツの道。奥秩父唯一の高山の雰囲気が味わえます。6月末ならキバナシャクナゲが足元に咲きます。登り着く山頂は梅雨の晴れ間であれば360度の展望が待っています。千代の吹き上げ、砂払ノ頭の岩とハイマツの尾根を歩き、再び原生林の中を瑞牆山荘へと下ります。

行程:
【1日目】廻り目平・・・八丁平分岐・・・金峰山小屋
【2日目】金峰山小屋・・・金峰山・・・砂払ノ頭・・・大日岩・・・大日小屋・・・富士見平小屋・・・瑞牆山荘
(所要時間/1日目:2時間50分、2日目:3時間50分)

⇒コースタイム付き登山地図を見る

 

奥秩父最高峰は標高2601mの北奥千丈岳で、典型的な亜高山の山々です。日帰りの計画で、駆け足で山頂に立つことを目的とするより、森の美しさを味わい、山小屋の窓から梅雨の山をゆっくりと楽しみたいです。

濡れた森と控えめな花が美しい奥秩父。奥秩父の森の山は、ユックリと少人数で歩くのが似合います。少しずつ山に復帰するのに適した山塊としておすすめしたいと思います。

■『奥秩父 山、谷、峠 そして人』

著者:山田哲哉
電子版発売日:2017年02月24日
Kindle版価格:1,368円(税込)
ページ数:322ページ
コンテンツ形式:EPUB
サイズ(目安):24MB
出版社:東京新聞出版局

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■『奥多摩 山、谷、峠、そして人』

著者:山田哲哉
発売日:2020年3月13日
価格:1,600円(税別)
仕様:文庫判224ページ
ISBNコード:9784635280686
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プロフィール

山田 哲哉

1954年東京都生まれ。小学5年より、奥多摩、大菩薩、奥秩父を中心に、登山を続け、専業の山岳ガイドとして活動。現在は山岳ガイド「風の谷」主宰。海外登山の経験も豊富。 著書に『奥多摩、山、谷、峠そして人』『縦走登山』(山と溪谷社)、『山は真剣勝負』(東京新聞出版局)など多数。
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