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乙女高原の自然を次の世代へ! 乙女高原ファンクラブ

日本山岳遺産基金レポート
たしなみ 2020年07月11日

日本の山々がもつ豊かな自然・文化を次世代に継承していくために設立された「日本山岳遺産基金」。これまで日本全国の計35箇所を日本山岳遺産として認定してきた。ここでは、認定地で活動する団体をとりあげ、活動のコンセプトや実際を紹介していく。今回は、基金が設立された2010年の初年度に認定地となった乙女高原で活動する「乙女高原ファンクラブ」だ。

写真=乙女高原ファンクラブ


山梨県、秩父山地の南西部にある乙女高原。標高1,700mに広がる亜高山性高茎植物の草原だ。初夏のレンゲツツジをはじめ、季節によって多様な花が咲き乱れ、美しい景観を持つことで知られる。花以外にも、マルハナバチ、アサギマダラなどの昆虫観察や、ノウサギ、キツネなどの足跡が見られるスノーシューハイクなど、乙女高原の自然を求めてたくさんの人が訪れる。

ただ、この豊かな自然は、人の手をなくしては保たれないものだという。

季節によって様々な花が咲き乱れる「天然のお花畑」。
季節ごとに様々な花が咲き乱れる「天然のお花畑」。

 

乙女高原の森エリアで見つかっているスミレは、30種類近くにもなる。
写真はいずれもスミレで、左からサクラスミレ、ヒナスミレ。
乙女高原の森エリアで見つかっているスミレは、
30種類近くにもなる。写真はいずれもスミレで、
上からサクラスミレ、ヒナスミレ。

 

戦前のいつ頃からか、はっきりした時期は特定できないが、この乙女高原は麓集落の共有のカヤ刈り場だった。一年のうち農作業が一段落する晩秋に、地元民が草を刈り、その草を牛馬の飼料に混ぜたり、焼いた灰を畑に撒いたりしていたそうだ。戦後は、山梨県営の乙女高原スキー場がオープンした。それからはスキー場として整備するために、やはり晩秋に草刈りが行われてきた。乙女高原の草原のまわりは森林帯だ。本来なら、この高原も森になっているところだが、人が入り、草刈りをすることで植生遷移が阻まれ、結果的に、亜高山帯性の多様な植物が花を咲かせる、美しい景観の草原が保全されてきたのだ。

しかし、2000年、スキー場が閉鎖され、草刈りの継続が危ぶまれた。植生遷移が進めば、乙女高原は森に飲み込まれてしまうことが予想された。

 

乙女高原ファンクラブが発足

乙女高原ファンクラブは「自然が好きだ」「乙女高原が好きだ」という人が集まって設立された任意・ボランティア団体だ。「乙女高原が森へ還るのも一つの姿かもしれない。だが、私たちの祖先が守り通してきたこの草原を保全することもまた自然保護のひとつの形」と考え、スキー場が閉鎖された翌年(2001年)に発足された。

乙女高原ファンクラブ設立趣意書には、「今後も、この乙女高原の亜高山性高茎草原を保全していくのか、それとも、草原が森に飲み込まれていくのを見守るのか? 乙女高原に関わる多くの人々の間で議論し、ゆるやかな合意を得た上で、実際の作業に取り組まなければなりません。(中略)乙女高原ファンクラブの立ち上げは、今後、末永く乙女高原の自然を守り、そして活用していくための第一歩と言えるのです。」と、目的・目標の統一を模索しながらも前に進む決意が記されている。

周辺には豊かな森。この森からたくさんの木の種が草原に飛んでくる。
周辺には豊かな森。
この森からたくさんの木の種が草原に飛んでくる。

 

乙女高原ファンクラブ4つの活動の柱

草原の維持活動の核となる作業は、“晩秋の草刈り”だ。だが、乙女高原ファンクラブは、この自然を次の世代に譲り渡すための主な活動として、「調査研究活動」「ボランティア活動」「環境教育活動」「情報交換・発信」の4つの柱をかかげている。晩秋の草刈りがボランティアで毎年維持されるためには、乙女高原の自然と人との関わりを育む事が大切だと考えているからだ。積極的に自然観察会や、乙女高原ファンクラブの1年の活動や魅力を伝えるフォーラムを開催したり、乙女高原の案内人の養成講座を主催することで、乙女高原を知り、楽しむという体験を通して、多くの人が乙女高原とつながりを深めている。

毎年11月に行われる「草刈りボランティアイベント」は、2019年で20回目を数えた。乙女高原ファンクラブの活動により、毎年200名前後のボランティアが集まるイベントとなっている。そして、乙女高原ファンクラブの入会者数は、741人にもなる(2020年6月2日時点)。

2019年11月開催の草刈りボランティアイベントには、234人が参加した。
2019年11月開催の草刈りボランティア
イベントには、234人が参加した。

子供のためのプログラムも用意された(左)。20周年記念グッズのお土産も(右)。
子供のためのプログラムも用意された(左)。
20周年記念グッズのお土産も(右)。

 

こういった活動を維持していくために、乙女高原ファンクラブは、2010年に日本山岳遺産基金に申請した。日本各地で減少が指摘されている生物多様性のある草原の維持に関わる活動を、地域を超えたネットワークで推進していること、各種活動のバランスや独自のガイド認定など、先進の取り組みを行っていることが評価され、乙女高原は、日本山岳遺産に認定された。

★日本山岳遺産認定地 詳細:乙女高原[ 山梨県 ]乙女高原ファンクラブ(2010年)

乙女高原ファンクラブの活動は近隣住民以外にも、大学生や地域の企業へと広がっている。乙女高原の自然を次の世代へバトンタッチしていこうという活動に、今後も注目したい。

2020年度 日本山岳遺産基金認定地募集中! みなさまの活動を支援します

日本山岳遺産基金では、2020年度の日本山岳遺産の候補地と支援団体を募集しています。認定された支援団体には、活動費を助成します。2020年6月現在、全国35の山岳エリアを「日本山岳遺産」として認定し、合計1776万円を助成しています。

支援団体の条件

  • 法人格を有する団体。または、同程度に社会的な信頼を得ている任意団体。
  • 山岳環境保全などの活動を、特定の山岳エリアで3年以上行っている団体。
  • 支援対象事業の実施状況、予算、決算などの財政状況について、当基金の求めに応じ適正な報告ができる団体

助成対象となる活動費の主な用途

  • 資材・物品の購入など。またはこれらの修繕などの経費。
  • 旅費・交通費、宿泊費、食費、通信連絡費、現地事務所の光熱費等の経費。
  • 資料の翻訳、印刷、出版等に係る経費。

助成金総額 250万円(予定) 申請締切日 2020年8月31日 ※消印有効

詳細は日本山岳遺産基金のウェブサイトをご覧ください。
https://sangakuisan.yamakei.co.jp/isan-kikin/entry.html

 

日本の山
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