初めての海外登山ならキナバルへ行こう! 世界の山旅・絶景への誘い

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海外の登山地域を1つずつ紹介していく「世界の山旅・絶景紀行」。日本と異なる景観、海外独特の異文化など、世界の山旅の醍醐味を、さまざま角度から伝えていく。
第1回のテーマは「初めて海外登山でオススメな山」。世界の山旅を手がけて約半世紀のアルパインツアーは、マレーシア・ボルネオ島にそびえる、世界遺産の山「キナバル山」を挙げる。その理由は?

「世界」を登り、絶景を味わってみませんか?

日本には、素晴らしい山がたくさんあるので、多くの登山者が国内の山で満足していると思います。また、海外登山と聞くと、アイゼンやピッケルを使い、アルプスやヒマラヤの高峰を目指すようなイメージを持ち、敷居が高いと思うのではないでしょうか?

「エクスペディション」と呼ばれる遠征登山などでは雪山や岩登りに関する高い技術や装備が必要ですが、海外には日本の夏山登山の延長で楽しめる「名峰」がたくさんあります。

日本とは異なる景観や植生などを楽しみながら登り、海外独特の異文化にも触れる山旅は、普通の観光旅行では味わうことのできない貴重な体験となるはずです。その魅力を、この連載コラムでは少しでも伝えていければと思っています。

これから、さまざまな体験話を交えながら、テーマに分けて魅力的な海外の山を紹介していきたいと思っています。

海外登山は、時間的にも経済的にも、思い立ってすぐに行けるものではありません。ここで紹介した山を見て、心の片隅にそっと残しておき、いつか行くチャンスが来たときのために、本コラムを思い出していただければと思います。

 

いつでも誰でも楽しめるキナバル山は初海外登山にオススメ

1回目ということで、今回は「初めて海外登山に行くなら?」をテーマにしてみましょう。海外登山には不安はつきものだと思います。言葉、治安、清潔感、現地独特の文化など、不安要素は多岐にわたります。初めての海外登山であれば、できれば不安要素が少なく、かつ確実に楽しめる山域に行きたいものです。

そこで、初めて行く海外の山で、真っ先にオススメしたい山として挙がるのは、キナバル山です。南国マレーシア・ボルネオ島北部、赤道直下の熱帯雨林のジャングルの中からそそり立つように聳える岩の塊が、マレーシア最高峰のキナバル山(4,095m)です。

ジャングルの中からそびえ立つキナバル山の全容

なぜ、キナバル山を勧めるのかと言えば、海外登山の魅力がグッと凝縮されているからです。4000m峰の体験、植生豊かな熱帯雨林のジャングル、巨大な花崗岩の一枚岩など、日本の山では決して味わえない景色やスケールは、忘れない登山になると思います。

ほかにも、海外登山初心者にオススメな点が多いのも特徴です。例えば、日本とは時差が少ないうえに比較的短時間、かつ安価で行けることです。費用はツアー料金では、だいたい20万円前後、最短で5日間程度なのでお手頃です。

また、四季がないことも初めての人には安心な要素です。厳密には11月~2月が雨期になりますが、赤道直下に位置するため、基本的な天気は晴天とスコール。登山中にはスコールの影響はほとんど受けません。

ほかにも、しっかりと整備されている登山道や清潔な山小屋も、初めての海外登山を楽しむには安心なことが多いでしょう。

さらに付け加えるなら、登山以外の楽しみも注目です。南シナ海に面したビーチリゾートに滞在すれば、シュノーケリングなどのマリンスポーツも楽しめます。ダイナミックな4000m峰の登頂と、美しい海とリゾートでの滞在を短期間で一度に楽しめる場所は、世界広しと言えども、なかなかありません。

登山の後にはビーチリゾートでの滞在も楽しめる。山と海、両方を楽しめる稀有な場所だ

 

ジャングルから聳え立つ、花崗岩の大岩壁を進む

それでは、キナバル山の魅力を、もう少し具体的に、ダイジェストで説明してみましょう。

キナバル山に登るには、通常は1泊2日(山小屋泊)で、2日間で18時間ほどの行程となります。
なお、キナバル山は国立公園に指定されているため、入山制限が設けられています。個人では登山許可や山小屋の確保が難しいので、日本もしくは現地発着のツアーを利用することになります。

現地の気温は山麓が30~35℃、山頂付近は0℃前後と、かなり寒暖の差があるので、細かく対応調整ができるように「重ね着」できる衣類を準備してください。

登山口は標高約1,866m、初日は熱帯雨林のトレイルを標高差にして約1,400mを登り、山小屋を目指します。熱帯雨林の木々が低くなり、視界が開けてくる頃に、パナールラバンの大岩壁が目に飛び込んできます。ここまで登れば山小屋まではあと少し。登山口から山小屋までは約6時間の行程です。

行程の序盤はジャングルの中を進む。ジャングル特有の植生を楽しみながら、しっかり整備された登山道を進む

なお、山小屋は3300mを越えた標高にあるので、人によっては高山病の初期症状を訴える方もいますが、深呼吸を心がけてのんびりと過ごせば次第に高所にも順応できると思います。

山小屋は各部屋には2段ベッドと寝具が備え付けられている部屋で、清潔感があり、安心・快適です。シャワーはありますが、水浴びになるので利用は控えることをおすすめします。また、売店では水や行動食のほかビールも販売されていますが、高山病対策を考えると下山するまではアルコールは我慢したほうが良いでしょう。

大岩壁の近くに建つ快適な山小屋(ラバンラタ小屋)。抜群のロケーションにあるうえに、清潔で心地良い。売店も充実している

2日目は、いよいよ山頂を目指す登山です。真夜中に起床して軽食の後に、午前2時ごろにはヘッドランプの明かりを頼りに山小屋を出発します。歩き始めてしばらくすると、いよいよ花崗岩の大岩壁にとりつき、ここからがキナバル登山で最もダイナミックなハイライトとなります。
ルート上には備え付けのロープを掴んで登る場所が2箇所ほどありますが、ここ以外では手を使うような危険な箇所はありません。

キナバル山には複数のピークがあり、目指す最高峰はロウズ・ピークで、ルート上の最も奥に聳えています。手前にある「サウスピーク」や「セントジョンピーク」が姿を現すたびに山頂と見間違うのですが、この何度も騙されて心が折れそうになるのもキナバル登山の面白さです。

目指す山頂・ロウズピークま見えてきた。山頂が朝日があたる様子が幻想的だ

そして何度か目のピーク、歩き始めて5~6時間ほどで、朝日に赤く照らされた岩峰の荘厳な姿のロウズ・ピークの山頂に到着です。

富士山より高い4,000m峰の頂から望む景色は、ほかでは味わえない絶景です。眼下に鬱蒼としたジャングルが広がる360度の大展望は、世界に2つとない景色と言えるでしょう。

ダイナミックな景観を眺められる山頂付近の様子。南国特有の雲とジャングルを眼下に、一枚岩を歩く経験は、他ではなかなか味わえない

大展望を楽しんだあとは往路を下ります。山小屋で遅めの朝食を食べて(食事は美味しいです)、さらに登山口へと下るコースタイムは合計で約12時間の長丁場。しかしスケールの大きな登山に、疲れよりも満足感でいっぱいになるはずです。

ちなみに登山口から山頂の距離(往復)は10km程度で、キナバル山を舞台とした世界でも有数の過酷なアドベンチャーレースといわれる「キナバル山インターナショナル・クライマソン」の最高記録は山頂往復で3時間を切ると言うのですから驚きです!

 

海外登山の醍醐味のすべてが凝縮されています

キナバル山は、世界中の登山者が訪れてる場所で、その構成を見ると実にさまざまです。現在は、距離が近いこともあって中国や韓国などアジアの国々の登山者の姿が目立ちますが、欧米からの登山者も少なくありません。

かつてキナバル山にはたくさんの日本人の登山者が訪れていた時代もありました。その頃を知る人間からすれば、中国、韓国の若者に押され気味の現状に寂しさを感じます。

現地の文化の中で、各国の登山者が旅行と登山談義に花を咲かせ、励まし合いながら山頂を目指せるキナバル山は、海外登山の醍醐味のすべてが凝縮されています。

日本人の姿が少なくなりつつある今のほうが、外国人とコミュニケーションが取れ、より海外登山気分に浸れるのかもしれません。そんな部分も含めて、キナバルは海外登山の入口にいちばんお勧めする山です。ぜひ、そんな山旅を探してみてください。

 

プロフィール

芹澤 健一

アルパインツアーサービス株式会社/代表取締役社長。社長業に専念する傍ら、ツアーリーダー業務や現地踏査のために世界中を飛び回り、各国観光局や山岳アウトドア関係企業との提携を含め、数多くの独創的企画と販促プランを牽引し、アルパインツアー「世界の山旅」シリーズのプロデュースを手がけてきた。
ツアーリーダーとしてもこれまで約30年間で60か国,のべ200回以上の山旅をご案内してきた。特に学生時代に滞在経験のあるカナディアンロッキーやニュージーランドの山々に造詣が深く、日本で初めて企画実施したコースは多数。特技は世界中どこの国でも出会った人々とすぐに友達になれること。

アルパインツアーサービス株式会社

マッターホルン北壁の日本人初登攀を成し遂げた芳野満彦(アルパインツアー元会長)が、1969年に日本で初めてヨーロッパ・アルプスへのハイキング・ツアーを実施して以来、約半世紀にわたり、世界中の山岳辺境地の山旅を企画、実施してきた。「トレッキング」という言葉を日本に定着させた、世界の山旅のパイオニア的存在。

⇒アルパインツアーサービス

世界の山旅・絶景への誘い

圧倒的な景観、独特の文化など、世界の山旅の醍醐味は無限大。海外登山を知り尽くした山センパイが、さまざまな体験話と美しい写真を交えながら、魅力的な海外の山を紹介。

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