梅雨の晴れ間を狙って、ちょうど残雪の消えた谷川岳へ。ロープウェイを使って夏山を満喫する

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本格的な夏に突入する時期、雪解けも進み、標高の高い山も本格的な登山シーズンへと突入する。日本随一の豪雪地帯として知られる越後山脈の盟主・谷川岳も残雪が消え、その下から高山植物が咲き出す。晴れ間を狙って、都心から日帰りで行くには丁度よい山だ。

 

群馬県と新潟県の県境、通称上越国境稜線にそびえる谷川岳の標高は、2000mにわずかに満たない1977m。決して“高山”の部類に入る山ではありませんが、冬の豪雪と季節風の影響によって稜線上は樹木が育たず、笹原の続く雄大な景色が広がります。

また、意外にも梅雨の期間中でも、比較的晴れることが多い山でもあるのです。これは、本州のやや北よりに位置するからで、梅雨前線が少し南に移動すれば、首都圏は雨でも谷川岳では晴れ間が広がるのです。

さらに、首都圏はじめ周辺からのアクセスも良いため、梅雨の晴れ間を狙って無理なく日帰りで登ることができる人気の山となります。

谷川岳は、6月中はまだ登山道上に残雪があるところが多いですが、7月にはほぼ融けて、雪山装備なしで登ることができるようになります。そしてちょうどその時期は、山頂部の高山植物が花を咲かせる時期となります。多彩な色とりどりの花を見つつ、歩くことができるでしょう。

コバイケイソウが咲く登山道の先が、谷川岳の手前の頂上であるトマの耳。左は一ノ倉岳と茂倉岳


日帰りで谷川岳を登る場合、健脚者であれば西黒尾根を登るのが充実しますが、岩場も多い、難コースです。無理なく登山を楽しむなら、一般的には、往復とも「谷川岳ロープウェイ」を利用する天神尾根をたどるのがいいでしょう。

谷川岳ロープウェイ営業時間は、平日8時~17時、土日祝日は7時~17時となっています。ただし、2020年は新型コロナウィルスなどの感染予防、および拡散防止対策のために、ゴンドラ1つあたりの人数制限が行なわれているため、時間に余裕が必要です。谷川岳ロープウェイのホームページで事前に確認しておきましょう。

谷川岳ロープウェイ乗り場へは、マイカー(1500台の駐車場あり、1日500円)でのアクセスのほか、新幹線の上毛高原駅からのバスで向かうことも可能です。

さらに、ちょっと不便ですが、せっかくなら「日本一のモグラ駅」として知られるJR上越線の土合駅から、462段の階段を登り、土合駅前バス停からバスで向かうという方法も一興ではないかと思います。

谷川岳ロープウェイと、下から見上げた土合駅の階段の様子
 

天神平から天神尾根を往復

行程:
天神平・・・熊穴沢避難小屋・・・谷川岳肩ノ小屋・・・トマの耳・・・オキの耳・・・トマの耳・・・谷川岳肩ノ小屋・・・熊穴沢避難小屋・・・天神平(コースタム/約4時間30分)

※サブコース:西黒尾根往復
土合口・・・西黒尾根登山口・・・ガレ沢のコル・・・トマの耳・・・オキの耳・・・トマの耳・・・ガレ沢のコル・・・土合口(コースタイム/約7時間30分)

⇒コースタイム付き登山地図で確認

 

爽快な稜線歩きを楽しみながら高山植物咲く頂へ

ロープウェイを降りたところが、天神平です。7月であれば、ロープウェイを降りると正面にはニッコウキスゲの群落があるでしょう。また右手には、意外な大きさで谷川岳の山頂が見えています。

天神尾根のコースは、ロープウェイの出口から右へ向かってしばらくは樹林の中をトラバースするように進みます。田尻尾根分岐を過ぎた先で尾根に上がると、間もなく左手に赤い熊穴沢避難小屋が現れます。

天神平に咲くニッコウキスゲ(左)と、休憩に最適な熊穴沢避難小屋(右)


樹林の中の暗い道を行くと、すぐに脆い岩場が現れますが、傾斜は緩いので慎重に行けば問題ないでしょう。その先で森林限界となり、眺望が一気に広がって爽快です。

景色を楽しみつつ登れば、左に「天狗の泊まり場」、右に「天神ザンゲ岩」と、遠くを見渡せる露岩上の展望スポットも連続。さらに傾斜の緩い階段を通過すると、「肩の小屋」が建つ肩の広場に到着です。

天神尾根の最上部を登る登山者たち


小屋の右手の大きなケルンの脇を登り、西黒尾根との分岐を左に行けば、360度の眺望が広がるトマの耳です。
足元はマチガ沢の岩壁が切れ落ちていて、身震いするような高度感。そこからさらに稜線を進んで、オキの耳にも立ち寄りましょう。

双耳峰である谷川岳の、最高地点はオキの耳であり、朝日岳をはじめとする谷川岳と峰続きの山並みが一望できます。オキの耳からは、往路を引き返して下山します。

さえぎるもののないオキの耳頂上。背後に見えているのは朝日岳


高山植物の花は、森林限界を過ぎた辺りから見ることができますが、多いのは肩の広場からオキの耳にかけてとなります。肩の広場では西黒尾根の下降点近くにもたくさん咲いているので、時間の余裕があれば少しだけ寄り道をしてもいいでしょう。

肩の広場からオキの耳の辺りで見れる高山植物の花。左上から時計回りに、タカネバラ、ムシトリスミレ、ウサギギク、アカモノ、ユキワリソウ、ヨツバシオガマ


ちなみに7月2日は「谷川岳の日」ですが、これは1920(大正9)年のその日に、日本山岳会の望月敏男と森喬の二人が、地元の案内人と一緒に谷川岳の山頂に立ったからです。

この登山こそが、谷川岳での、狩猟や信仰のためではない、山に登ることそのものを目的とした「近代登山」の幕開けでした。今年はそれから、ちょうど100年となる節目の年です。100年前の山の姿に想像しながら歩いてみるのも、楽しいでしょう。

 

プロフィール

木元康晴

1966年、秋田県出身。東京都山岳連盟・海外委員長。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド(ステージⅢ)。『山と溪谷』『岳人』などで数多くの記事を執筆。
ヤマケイ登山学校『山のリスクマネジメント』では監修を担当。著書に『IT時代の山岳遭難』、『山のABC 山の安全管理術』、『関東百名山』(共著)など。編書に『山岳ドクターがアドバイス 登山のダメージ&体のトラブル解決法』がある。

 ⇒ホームページ

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