新型コロナ感染拡大に伴う登山自粛意識調査。登山自粛要請を支持しますか?

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ゴールデンウィーク直前、山岳四団体は「登山自粛要請」を発表。そのとき、登山者は何を考えどのような行動をとっていたのか、アンケートを取り、登山者の実態に迫った。

構成=山と溪谷編集部

 

※本調査は、ヤマケイオンラインにて2020年5月8日~5月15日に実施。回答者数1999人(男性1305人、女性694人)だった。

 

Q1 山岳4団体が発表した登山自粛要請を支持しますか?

今回の調査では山岳四団体の声明を支持する声が圧倒的多数を占めた。約8割の人が支持すると回答。行く末の見えないコロナ禍を警戒する人が多かった。

一方で、約6%の人 が「支持しない」という立場にいることは 注目すべき点だ。少数意見となった反対意見だが、本当に自粛要請は正しいのか? と考えてみることも重要だろう。

以下に、そえぞれの意見を、いくつかピックアップして紹介するが、ここに示した一部の意見からも、声明を支持する・しない理由としてさまざまなものが見てとれる。一方、自粛要請が出されてからも何件かの山岳遭難事故 が発生している。登山者が今後どのような 姿勢をとるかが重要になってくるだろう。
 

支持する理由

◆基準を設けるのは不可能では?

ほとんど混むことのない登山道を利用しているため、混雑しうる登山道のみ規制すればいいと思う。しかし、混雑する山、または混雑する登山道をどのような基準で認定するのか…。不可能である。 よって、泣く泣く自粛要請に賛成し、積極的に受け入れている。
(千葉県/50代/男性)

◆首都圏からの往来は危険

GW中は人気の山域はかなりの人出になり小屋周辺や山頂は人が密集状態になることが予想された。また登山口までアクセスする道中、高速のPA・SAや道の駅の人の集中を助長することになったはずである。私は長野県に住んでいるが、県内の感染者のほとんどが首都圏との往来によるものだったこともあり、正直、首都圏からの訪問は避けて欲しかった。
(長野県/40代/男性)

◆登山にかかわる人たちのために

昨今の登山ブームで登山人口の増加し、山も3密になったといえる。さらに遭難時の救助の事を考えると、自粛は仕方ないと思う。 登山する者としては、山小屋で働く方、そこの地元の方、さらに登山道や登山口までの道を管理する方、山岳救助の方、更には登山口までの公共交通の機関の方がいて初めて山に登ることができるということを、われわれ登山者は肝に命じるべきだ。
(埼玉県/40代/男性)

◆医療従事者への負担軽減を

「低い山なら」「あまり人のいない山なら」いいじゃないかという方もいるが、どんな山にも危険がつきもの。新型コロナで手いっぱいの医療従事者、救急隊の方に負担をお掛けしないためにも今は家にいたい。子ども達も友達と遊べないことを我慢しているのに、大人が自分のしたいことを優先させるのは恥ずかしいことだと思う。
(埼玉県/60代/女性)

◆事故は起きてしまうもの

どんなに気をつけていたとしても、 山は事故が起こるところ、という認識があるので、 医療現場に負担をかけてはいけないと思う。
(東京都/50代/女性)

◆低山でもリスクは付き物

よく「自家用車で、県をまたがず、身の丈にあった山に」という話も聞くがどうだろうか。事故は3000メートル級の山でも300メートルに満たない里山でも起きうるもの。そんな時、要請の有無に関わらず救助に向かわなければならない方たちがいる。そのような事まで考えると自粛はやむなしだと思う。
(宮城県/40代/男性)

◆わかりやすい

こういう風にわかりやすい形で示さないと、わからない人がたくさんいる。
(青森県/30代/男性)

◆実態不明の状況は危険

新型コロナの実態が不明で治療方法も確立していない中、山では感染リスクが低いと考えるのは危険であり、自粛要請の主旨が理解できる。
(東京都/50代/男性)

 

支持しない理由

◆3密さえ防げれば問題はない

登山自粛は過剰反応に思える。街中のジョギングやウォーキングは可で、登山が不可というのは一貫性に欠ける。遭難事故の際に医療スタッフの負担が増すというのも、ジョギング中にも事故は起こりうるので説得力に欠ける。重要なのは3密回避なので、公共交通機関を使用しない、グループで登らない、人出の多い山域は避ける等の配慮があれば十分ではないか。
(山梨県/65歳/男性)

◆メッセージの表明の仕方に工夫を

まったく理解できないわけではない。むしろGWに向けて必要なメッセージであったと思う。団体としてある程度の「予防原則」に基づいて発信されたのであろう。しかし、こうした大きなメッセージは、時に憲法で保障された個人の権利を大きく侵害する可能性が高いことや、過去の戦争時に強いられた同調圧力となることから、メッセージの表明の仕方についてはもう少し工夫の余地があったのではないかと思われる。
(埼玉県/53歳/女性)

◆山岳業界の根底にいる登山者にも配慮を

登山者がいて、山小屋スタッフや救助に携わる人たちがいる。今の処置は後者に対して比重を置き過ぎていて、バランスがとれていないと感じる。上高地の梓川沿いや立山室堂周辺など、事故リスクの低いと思われる場所では予約必須でテント張数を制限して使用許可を出す等、登山者に対してもある程度配慮のある処置が良いと感じる。
(兵庫県/43歳/男性)

◆登山は自己責任なので救助する必要はない

感染のリスクを避ける目的であれば、山小屋泊は三密であるため自粛するのは理解できる。しかし、日帰り登山やテント泊まで制限する必要は本当にあるだろうか。遭難が発生した場合の救助や、医療現場への負担軽減を自粛の理由にしているが、リスクへの対処はそもそも自己責任であるし、それでも登るのであれば万が一の際は救助隊が出動しなければ良いだけの話。
(神奈川県/32歳/男性)

◆登山者自身の責任意識の欠如があらわに

声明には登山自粛に対する合理的な理由が示されていない。結果として同調圧力が主因となった自粛になっているように感じる。その根底には、登山が自己責任であることを認識していない登山者が多いという事実があると思われる。最近入山自粛の山で救助要請をしたあまりにもな事例があったが、あれは自己リスクで取った入山という行動に対して責任を取らなかったことが最大の問題ではないか。
(東京都/45歳/男性)

「山岳四団体の登山自粛要請って何?」

「山岳4団体の登山自粛要請」とは、2020年4月20日に「山岳四団体」が山岳スポーツ行為(登山、クライミング等)を自粛するよう、声明を発表したもの。新型コロナウイルスの特徴や現状を捉えたうえで、山岳スポーツが社会に及ぼす問題点や山小屋の従業員の安全面に触れ、「事態の収束を見るまで」の自粛を全国の登山者をはじめとした山岳スポーツ愛好者達に呼びかた。

⇒原文についてはこちらを参照

 

Q2 登山自粛を意識し始めたのはいつですか?

  • 1月中旬:国内における新型コロナ感染者の初確認
  • 2月下旬:政府が新型コロナ対策基本方針を発表
  • 3月下旬:東京五輪延期決定 □その他
  • 4月上旬:7都府県に緊急事態宣言
  • 4月下旬:全国に緊急事態宣言、山岳四団体が登山自粛要請

アンケート結果を確認すると山岳四団体が登山者たちに向けて声明を発表する以前から、多くの登山者たちが自粛について考え始めたことがわかる。

また、五輪延期や、7都府県への緊急事態宣言発令の時期は感染者数が右肩上がりで増え続けていたということもあり、自粛を意識し始めた人たちが多くなった時期だ。一見3密を避けられそうな「登山」という行為に対するイメージだが、その価値観は今、大きく変化している。

 

みんなは家でなにしてた? ~登山者のステイホームを共有しよう~

自然を愛し、自然の中で多くの癒しや学びを受けてきた登山者にとって「家でじっとする」ということは憂鬱なものだろう。ここでは、登山に対するモチベーションを保ちながら、家で元気に過ごす登山者の工夫を紹介する。

トレーニングや道具のメンテナンスなど、登山を再開するときのために備える人や、自粛疲れからくるストレスの解消を図るために工夫している人が多かった。これら回答は、自粛期間中に限らず、家で簡単にできることも多い。普段 から山に行く時間がとれない人も参考にしてみては。そのほかには、「何もしない」といった回答や「普段通り登山をしている」という回答もわずかながらみられた。

◆次なる山へ死角なし!

ストレッチは欠かすことなく毎日行なっています。ヤマメシの予行練習もばっちりです!あと、普段はあまりやらないテントのしまい方の練習や、ファーストエイドの見直しに時間をかけて取り組めるようになり、充実した日々を過ごすことができています。 
(30代/女性)

◆家で登山筋トレ

リュックに9kgの鉄アレイを入れて背負い、これまでに歩いた山道を思い浮かべ、ただひたすらに家の階段を往復するという筋トレをしています。 山に行けるぞ!となったときに足腰が弱っていては、せっかくの山歩きが楽しめません。楽しい山旅とするために、「家で登山筋トレ」をやっています。自粛期間が終わった後もカラダづくりのために続けていきます。
(50代/男性)

◆SNSで登山を共有

SNSで小屋番さんやガイドさん、登山される方々などの投稿を拝見したり、自分も過去写真を投稿したりしています。あと、気休めですが、お風呂あがりには、ドライヤーで髪を乾かしながらスクワットしています(笑)
(50代/女性)

◆新たな趣味にも挑戦

登山中に撮った写真や動画を見返して山への思いを募らせたり、ほかの登山者の記録を参 考にして今の自分に必要な知識・技術を身につけたりしています。あと、ステイホームのなかで、電子ピアノとマジックという新たな趣味を見つけることもできました。おかげで今は家の中にいることが苦痛じゃなくなりました(笑)。
(20代/男性)

◆ツェルトの下で・・・・・・

バルコニーにツエルトを張り、お泊まりしました。また購入したてのメスティンを初めて使い、炊き込みご飯を作っておいしくいただきました。ツエルトはシー厶テープの劣化剥が れも見つかり、メンテナンスという重要な時間つぶしにもなりました。
(50代/男性)

◆リビングテント泊

かれこれ2週間、室内にテントを張っています。中はザックを置かないぶん、広く感じま す。リビングの中にかなりの存在感。私と息子が交代で毎晩寝たり、私は息子にイライラしていろいろ口うるさくなりそうなとき、テントに入って気を落ち着かせたり、山以外でも重宝しています。ホントは見晴らしのよい高山で張りたいですけどね。
(40代/女性)

 

『山と溪谷 2020年7月号』では、本アンケート結果のほかにも、新型コロナウィルスに対しての登山ガイドから、医師から、山小屋からの意見・取り組みについての記事を掲載。ほか、登山体をキープするための家トレについても紹介。

また、特集は「北アルプスの岩稜を歩く」。憧れの岩の稜線を、詳細な解説とわやりやすい地図で徹底ガイド。必要な技術・装備も、山岳ガイドに指南いただく内容となっている。

 

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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